スターフライヤー 代表取締役 社長執行役員 町田 修氏
福岡県出身。1987年に東大法学部を卒業し全日本空輸入社。2012年スカイネットアジア航空常務、2018年全日空香港支店長を経て、2022年6月29日付で社長に就任。2024年に還暦を迎えて全日本空輸を定年退職し、名実ともに「スターフライヤーの人」に。
本業を支える新規事業の「小柱」づくり
高島 本業である航空事業に加え、新たな柱づくりにも注力されています。
町田 当社の売上高は400億円、10億~20億円の利益ベースを支えるプラスアルファとして、売上高10億円で1億~2億円の利益を、新規事業で積み上げていこうと。伸びているのが、チョコレート販売と、おもてなしや安全の研修です。
高島 機内で無料配布するコーヒーとチョコレートは、評判の高いサービスです。ラグジュアリーブランドのコンセプトと、男性も女性も好きなチョコレートの商品カテゴリーとの親和性が高く、期待できます。
町田 チョコレートはゴディバなどの国内委託生産も手掛けるメーカーに、当社オリジナルのチョコレートをOEM生産いただいています。おいしいと人気なので、「航空会社がつくるチョコレート」として売るのも面白いぞ、と。
製菓事業は素人なので、特にどう流通に乗せるかで苦労していますが、機内で提供する商品ですし、さらなる拡大への投資が生じるまではリスクもありません。販売量が増えるほどコストが下がり売上が伸びる、一石二鳥の狙いもあります。
高島 成功事例を1つ作ると、次々とアイデアが生まれる可能性も高まります。
コーヒーとの相性を考慮して開発したスターフライヤーのオリジナルチョコレート。15枚入り880円、35枚入り1760円、7枚入り350円(全て税込み)の3種類を、羽田空港や北九州空港のコンビニなどで販売
町田 研修事業は、「おもてなし研修」としてキャビンアテンダントが企業へ出張しています。安全研修もニーズが高く、航空会社が持つ安全ノウハウを医療関係のデイケア施設や看護師に提供しています。ANAやJALも首都圏中心に展開していますが、九州一円と山口、広島までのエリアは当社が押さえ、育てていきたいと考えています。
高島 おもてなしは「顧客満足度ナンバーワン」に裏付けされ、安全も大切な命を守るものです。実現性が高い内容ですし、教育研修は毎年のリピート需要もあります。
町田 その通りで、着実にリピートが生まれています。新規事業部を立ち上げて、「他にも新たな柱をつくるぞ」とハッパをかけています。本業の「柱」に対して、社内では「小柱」と呼んでいます(笑)。
タナベコンサルティング 上席執行役員 高島 健二
中堅・中規模企業を中心に「中長期ビジョン/中期経営計画」を策定し、浸透・実装までを支援する。マーケティング戦略の構築や、新規事業におけるフィジビリティースタディー(実現可能性調査)の経験を持ち、多岐にわたるバリューチェーンの構築を手掛ける。またタナベコンサルティンググループのコンサルティングベースメソッドの開発に従事。経験業界も幅広く、企業参謀として高い評価を得ている。
北九州空港の強みと新たな可能性を生かす
高島 ステップの先にあるジャンプ、2030年に向けた長期ビジョンの展望もお聞かせいただけますか。
町田 円安でコストが高騰し収支が厳しくなっていますが、2024年度の売上高は計画を上回る実績です。社員が自信を取り戻すまで、成長までもう一押しというところです。
社内で言い続けているのは「10年後にどんな会社でありたいかを考え、そこから今を見返した時に、自分たちがどこにいるのか」と。今から10年後を見通すのとは異なる視点の議論を進めています。
高島 二次交通の外部連携、いわゆるMaaS※2でJR九州など他事業者との連携も重要です。取り組んでおかなければ、近い将来のパラダイムシフトに対応できなくなる可能性もあります。
町田 MaaSはマネタイズが課題ですが、航空業界の視点に立つと、福岡と北九州の両空港の連携にはとても大事です。市街地にある福岡空港は便利な半面、飛行制限が厳しく便数も過密状態です。北九州空港は24時間いつでも使えるので、アクセス改善に地上MaaSを活用すれば、東は山口県の下関、南は福岡県・京築・筑豊や大分県の中津まで、利用エリアが広がります。
高島 成長要素がありますし、今の準備が未来のブレイクスルーの起点になるイメージです。
町田 北九州空港の羽田便は、当社が1日10~11便、他にJALも運航し、東京とのパイプが太い空港です。ポイントの一つは、福岡空港を利用する人が北九州空港に来やすくすること。もう一つは、インバウンド(訪日外国人旅行客)が北九州空港で乗り継げば東京へつながること。どちらの可能性も北九州空港の強みであり、当社の強みになり得ると思っています。
高島 “玄関口”の九州から東京につなげることで、インバウンドの増加余地がより大きくなるということですね。
町田 日本経済において九州は東京を向きますが、農水産物の輸出に熱心な九州各県のまなざしは、実はアジアへ向いています。すでに、当社便で水産物を羽田へ運び、さらにANA便に積み替えてロサンゼルスに届けている実績があります。
九州の農水産物を北九州空港に集めて東京やアジア、さらには世界へ届けることが、近隣各県や九州経済のお役に立ち、当社の持続的成長へのチャンスにもなります。とてもラッキーなことだと思っていますし、玄関口として24時間空港の強みを生かして何ができるか、とても楽しみです。
高島 九州発のアジア進出に大きく寄与する未来像も、しっかりと見据えていらっしゃるのですね。顧客満足度日本一企業として進化する姿と、北九州空港の新たな可能性、とてもワクワクするお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。
※2 Mobility as a Service:利便性や地域の課題解決に貢献する多様な移動交通手段を一括利用できる統合サービス
PROFILE
- (株)スターフライヤー
- 所在地:福岡県北九州市小倉南区空港北町6 北九州空港スターフライヤー本社ビル
- 設立:2002年
- 代表者:代表取締役 社長執行役員 町田 修
- 売上高:400億1900万円(2024年3月期)
- 従業員数:702名(2024年3月末現在)