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【研究リポート】

食品価値創造研究会

AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート2023.08.28

現状維持はしない情熱経営:阿部幸製菓株式会社

【第2回の趣旨】
食品価値創造研究会では、“食す”のEATになぞらえ、「Engineering(技術進化・フードテック)」「Association(新結合・オープンイノベーション)」「Transformation(デジタル改革・業態転換)」を推進している企業から、業種の特徴を踏まえた戦略や自社独自のノウハウによる価創造値について「五感で感じる研究会」をスローガンに学んでいる。第2回は「既存に捉われない市場、圧倒的な高付加価値を生み出す新たな“結合”を学ぶ」と題し、新潟で“新結合”を行っている先進事例の視察と講演により学びを深めた。

開催日時:2023年5月25日(新潟開催)

 

 

阿部幸製菓
代表取締役専務  阿部 幸明 氏

 

 

はじめに:創業124年の味

 

阿部幸製菓様は1899年、新潟県小千谷市に創業。米屋を生業とし、馬市のまとめ役として地域の経済を支えてきた。現在では業務用「柿の種」のシェア日本一企業へと成長し、柿の種に加え惣菜や調味料、和菓子、米粉麺、新潟県を代表するお土産商品「柿の種のオイル漬けにんにくラー油」の開発など、次々と新商品を開発。M&Aによる新規事業を展開しながら、安定期市場である柿の種市場でさらなる成長を遂げる要因とその戦略についてひも解く。


高級感のあるパッケージが目を引く「かきたね」。味の種類が豊富で、梅、わさび醤油、チーズ黒胡椒など7種類の味がある

 


 

まなびのポイント 1:「柿の種」の“新しい魅せ方”

 

1950年代後半に柿の種を開発して65年余り。阿部幸製菓は食卓に新しい価値を提供すべく、柿の種や米に関する新たなチャレンジをし続けている。具体的には、柿の種のオイル漬けやパスタスナックの開発、米粉麺の店舗展開などが例として挙げられる。“新しい魅せ方”の考え方は、新商品開発=ブランド開発でなく、「今あるもの」を使うこと(自社の棚卸+適切な伝達=ブランド開発)。同社では、アウターブランディングだけでなくインナーブランディングにも注力しており、自社のことを社員が自分事ととらえられるように社外発信よりも社内発信に重きを置いているという。


2022年には新潟県産米粉を使用した麺を提供する「新潟うどん たねや」(左)を、2023年には「新潟まぜそば たねや」(右)をオープン

 

まなびのポイント 2:M&Aの戦略ストーリー

 

阿部幸製菓はこれまでにM&A譲受を4社経験した。1社目は調味料メーカー、2社目は200年超の和菓子メーカー、3社目は最中メーカー、4社目は老舗大手柿の種メーカーだ。ポイントは「強みを尖らすシナジー」である。

 

どの案件にも共通しているのは「米」だ。「米に一手間」を考えるシナジーとして、強みを活かし「おいしいタネをつくる」ことを重要視している。また、和菓子メーカー・最中メーカーの商品は、国内のみならずグローバルに展開している同社の販路に乗せ、事業領域を拡大させている。


人気商品「柿の種のオイル漬け」。テレビ番組で紹介され大きな反響を呼んだ(左)
阿部幸製菓オリジナルキャラクター「よかったねくん」。同社社員によって生み出された(右)

 

 

まなびのポイント 3:世の中でのパーパス(存在価値)~食生活に新たな提案を~

 

食品業界は流通の仕組みや個人の食生活が目まぐるしく変化し、ニーズが多様化している。そんな時代に求められる同社の使命は「品質・健康・食文化・時代性を理解し、食生活の分野から新しい提案をすること」である。情報技術を活用し、個人やグループが持つ情報を結び付けて新たな価値を創造する。そして潜在的な購買ニーズを導き出し、常に開発型企業を目指している。

 

そんな同社のパーパス(存在価値)は、①お米と和の”嗜好品”メーカーとして、自分の強みを生かす。②世の中の課題をひとつ解決する。③世界中の人に笑顔の輪を私たちの食品を通じて広げてゆきたい。である。時代や消費者のニーズに合わせて挑戦し続ける同社の動向に今後も注目が集まる。

 


『柿の種』の製造ライン。多い日で1日20トンを製造する。『柿の種』の業務用では日本一の製造量を誇る

 

 

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