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【研究リポート】

食品価値創造研究会

AI・IoT・DX・フードテックなどの新たな潮流が、食品業界においてもさまざまなイノベーションを起こしています。新市場創造の最新事例を学びます。
研究リポート2023.08.21

地域ブランドを確立させた地域連携・企業連携・価値提供:燕三条「畑の朝カフェ」

【第2回の趣旨】
食品価値創造研究会では、“食す”のEATになぞらえ、「Engineering(技術進化・フードテック)」「Association(新結合・オープンイノベーション)」「Transformation(デジタル改革・業態転換)」を推進している企業から、業種の特徴を踏まえた戦略や自社独自のノウハウによる価創造値について、「五感で感じる研究会」をスローガンに学んでいる。第2回は、「既存に捉われない市場、圧倒的な高付加価値を生み出す新たな“結合”を学ぶ」と題し、新潟で“新結合”を行っている先進事例の視察と講演により学びを深めた。

開催日時:2023年5月26日(新潟開催)

 

 

燕三条「畑の朝カフェ」実行委員長
株式会社渡辺果樹園 代表取締役 渡辺 康弘 氏

 

 

燕三条「畑の朝カフェ」実行委員会 事務局 公益財団法人燕三条地場産業振興センター
燕三条ブランド推進部 企画推進課 課長 和田 貴子 氏

 

 

はじめに

 

新潟・燕三条は、江戸時代の和釘製造から続く金属加工業(ものづくり)の側面と、肥沃な土壌を生かした農業(ハクサイ・キャベツ・トマト・ナシ・ブドウなどの多品種多品目生産)という側面を持つ地域である。この特色を打ち出した地域振興の試みとして、産官連携で地域ブランド確立に貢献したのが、燕三条地場産業振興センターである。

 

同センターは、燕三条ブランドの確立を目的に、地域の約80名の人たちが参加する「燕三条プライドプロジェクト」(2009~2022年)を立ち上げた。地域の特色・資源を掘り起こす中で、「全てが食に通じる」ことを燕三条の特色として捉えた企画が「畑の朝カフェ」である。「畑の朝カフェ」は、「グッドデザイン賞」を受賞(2013年)するほどの成功事例となった。

 

本リポートでは、「畑の朝カフェ」から見る地域ブランド確立の成功要因について、「地域連携」「企業連携」「価値提供」の3つの視点からひも解いていく。

 

 


「畑の朝カフェ」は、「場の潜在力を生かした、これまでにない文化的な農業へのビジネスモデル転換の可能性」を評価されて「グッドデザイン賞」を受賞。顧客満足度の高さで多くのリピーターを獲得し、開始10年以上たった今も毎回、定員の2、3倍の応募がある人気コンテンツとなっている

 


 

まなびのポイント 1:地域連携:「畑の朝カフェ」を支えるコンセプト

 

「燕三条プライドプロジェクト」は、地域住民が燕三条への誇りと愛情を自覚した上で、燕三条の魅力を体現したライフスタイルを発信し、その情報を知って訪れた人の評価を通してより高い誇りと愛情を感じる好循環、いわば「誇りの拡大再生産」を使命としていた。

 

その使命の実現を支えるコンセプトには、「安らぎと癒しに満ちた魅力的な地域の実現」「自然の恵みをベースにした時代毎のモノづくりと人間らしいライフスタイルの実現」「オーガニックでグッドデザインなライフスタイルの創造」などを示している。「畑の朝カフェ」はそれらを体感できるイベントとして、同プロジェクトの代表的な取り組みとして発信されていった。

 

 

まなびのポイント 2:企業連携:地域企業がつながり新価値を創造

 

「燕三条プライドプロジェクト」では、参加メンバーが「プロダクト」「レストラン」「ツーリズム」「プロモーション」の4グループに分かれ、各グループが連携してシナジー(相乗効果)を発揮することで新しい価値を創造した。

 

「畑の朝カフェ」は「レストラン」グループから提案された取り組みであり、「オーガニック=安心安全な地域の食材・永久保証の製品・安全な生産プロセス・永く愛せるモノづくり」という同プロジェクトのコンセプトをベースに、農業・工業・商業・サービス業が連携し、そこで提供する食や製品を燕三条の生産物にすることで特別な空間を創造した。燕三条でしか実現することのできない魅力的なライフスタイルを、新しい価値として表現し、体験として提供している。

 


「畑の朝カフェ」で使用されている燕三条産の食器・カトラリー

 

まなびのポイント 3:価値提供:食品・アグリ事業と異業種の連携による地域ブランディング

 

「畑の朝カフェ」は、農家を中心として異業種が連携し、燕三条の農業をブランド化することを目的とした企画である。

 

「地域に光を当てる」をコンセプトとし、農業体験を軸に、美しい田畑での朝食というロケーションの演出と、カトラリーや食器、テーブル、イスまで全て燕三条産のものを使ったコーディネートを行い、「ここでしか味わえない」という特別な空間を創造することで、地域農業をブランティングしている。

 

この取り組みは、「場の潜在力を生かした、これまでにない文化的な農業へのビジネスモデル転換の可能性」を評価されてグッドデザイン賞を受賞した。成功要因として、農家だけでなく、工業、商業、サービス業、クリエイターなど、さまざまな業種・視点から企画を捉え、目的を共有し、能動的に専門性を発揮できる組織づくりが挙げられる。

 


「畑の朝カフェ」にて、渡辺果樹園の渡辺社長よりシャインマスカットの摘粒方法のレクチャーを受ける参加者。体験を通して、豊かで生きる喜びに満ちた、魅力的なライフスタイルを発信している
 

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