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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【研究リポート】

物流経営研究会

”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート2023.03.13

「選ばれる会社」の源泉は“選ばれる個人”のための人材投資:株式会社マルト水谷

【第3回の趣旨】
物流業界は、業務が忙しいにもかかわらず営業利益率が2%未満の企業と、荷主と直接取引し、営業利益率5%以上を維持している企業の2つに二極化している。そのような中、当研究会ではステークホルダーから“選ばれ続ける”物流会社になるためのヒントを紹介している。
第3回では、酒類食品や米穀・冷凍食品の業務用販売のほか、社内で培った人材評価システムの外販、大型ペットサロンの運営など、幅広い領域で事業展開するマルト水谷(愛知県春日井市)を訪問。研究会参加者は、同社の総務課長・筒丸誠氏と、同社の関連会社で商品の出荷を手掛ける株式会社M&Mソリューションズのロジスティクス部長・小栗健一氏の講演聴講後に、マルト水谷の倉庫を視察した。
開催日時:2023年2月9日、10日(東海開催)

 

生ビールの出荷時の鮮度を落とさない方法と時間での「速達」を独自の流通システムで実現

 

はじめに

1948年創業の同社は、1997年に株式会社マルトと株式会社水谷総本店が合併し、現在のマルト水谷となった。その後、祖業である酒類や食品の販売事業の定義を「お客さま店舗の繁盛請負業」に変え、提供価値をモノからコト(ソリューション)へと進化させた。進化の根底には、徹底して顧客に向き合ってきた積み重ねがあった。

 

2013年、出荷から2日以内の新鮮な生ビールを飲食店へ届けるサービス「速達生」を始めて以降、同社は右肩上がりに業績を伸長。酒類食品販売だけではなく、システム販売やペット事業など幅広い領域に展開している。この背景には、自由な発想やチャレンジ精神を大切にするからこそ生まれる、従業員一人一人の自発的行動がある。企業の成長には従業員の成長が必要であると早くから気付き、人材育成に投資してきた結果が今のチャレンジングな企業風土を醸成している。

 

ピッキング作業の効率改善のため、バーコード面を表にして陳列。
後工程で働く人が作業しやすいように工夫している

 


 

まなびのポイント1:配達員ではなく「営業員」と呼ぶ、接客へのプライド

 

同社では、商品を顧客に配達する従業員を、ドライバーや配達員ではなく「営業員」と呼ぶ。顧客のニーズを聞き、同社のサービスを提供する、顧客にとって最も身近な存在だからだ。営業員が顧客と真摯に向き合い、ニーズに応え、信頼関係を築いてきたことで、同社は酒類の売り上げだけではなく食品販売の構成比も大きく伸ばしている。

 

顧客に寄り添ったサービスを実現する同社には、半面、従業員の残業が多いという課題があった。そこで同社は、2017年に「スーパーホワイトプロジェクト」を発足。働き方を見直し、残業時間の大幅削減、週休3日の導入を行い、労働生産性の改善に成功している。成功の鍵は全従業員の意識改革にあり、全員が同じベクトルで取り組んだことにあるという。

 


マルト水谷の本社倉庫

 

 

まなびのポイント2:自発的な改善活動が浸透

 

「速達生」の業績が伸長すると出荷行数が増え、出荷時間の遅れや納品ミスなどのトラブルなどが増加した。当日欠勤率が高い、人材定着率が低いなど、多くの課題があった。

 

そこで同社は、まずトイレやロッカールーム、休憩室の設置など、ハード面の環境整備を行った。そして、倉庫従事者向けの任務を「全ての商品を新品のまま、更に後工程がより使い易い状態でお届けする。そのために全ての環境を快適に維持向上させる」に変更し、働き方の根本を見直すなどソフト面でも大きく改革を行った。

 

何度も教育し、ミーティングを重ねることで、この使命を浸透させていった。また、パートタイマーやアルバイトの意見にも耳を傾けることで、自発的に改善提案を行う現場風土になり、当日欠勤率は8%⇒0.8%へ、人材定着率は35%⇒70%超へと劇的に改善した。

 


本社倉庫の改善ボード

 

 

まなびのポイント3:長期的な人材投資

 

同社は合併当初より人材育成に注力しており、従業員に対して多くの学ぶ機会を提供している。人材こそ企業成長の源泉であるという考え方に基づいて経営を実践しているのだ。業績の伸長だけでなく、「働き方改革」の推進や倉庫の環境改善、作業生産性の向上などを主導した人材も、さまざまな研修を受けて成長してきた従業員の一人であるという。

 

「従業員教育は長い目線で考えることが必要」と代表取締役副社長の水谷稔氏が話すように、今後の成長に向け、人材への投資は欠かすことはできないと同社は考えている。

 

少しの改善でも大きく掲示し、褒め合う職場風土を醸成している

 

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