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【研究リポート】

CX / 顧客体験価値

CX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験価値)とは、顧客が感じる「おいしい」「うれしい」「興味深い」といった感情的な価値を含めた評価を得て、自社の市場優位性を高める考え方である。FCCフォーラム「CX」のセッションでは、BtoBビジネスとBtoCビジネスそれぞれにおいてCXを提供するための戦略について、タナベコンサルティングが基本講義を行い、先進企業の事例を紹介。ゲスト3社の講演・対談からは、CXによって付加価値を高め、顧客創造とLTV(顧客生涯価値)向上を実現した取り組みと、その実践ポイントを学んだ。
研究リポート2022.10.03

「まだない」をつくり、顧客価値を高める:アスノシステム

 

多彩なメディアを展開し新たな価値を提供

 

タナベコンサルティング・細江(以降、細江) アスノシステムは、システム開発を中心に、ベトナム企業と連携したオフショア(委託)開発、SES(システムエンジニアリングサービス)、Webインテグレーション、ハードウェアの延命保守サービスなどを展開するIT企業です。まずは会社の特長をお聞かせください。

 

齋藤 自社サービスとしてメディア(プラットフォーム)を運営していることが挙げられます。2000年からサービスを提供している「会議室.COM」は、国内最大級の貸し会議室検索サイトに成長しました。その他にも首都圏を中心としたレンタルオフィス検索サイト「レンタルオフィス.com」、ホテルや宿泊施設で開催されるビジネスイベントにフォーカスした施設検索サイト「CO-MIT」、会議に関するお役立ちノウハウや会議術を掲載したWebメディア「会議HACK!」を提供。2021年12月には全国の薬剤師にオンラインチャットでヘルスケアや症状改善の相談ができる福利厚生サービス「薬剤師チャットOlive」をスタートしました。

 

事業拠点は東京都港区に本社を構え、静岡、大阪、京都、和歌山、福岡にオフィスを設けています。また、ベトナムのハノイに駐在所を置き、オフショア開発の拠点としています。

 

当社のスローガンは「TO CREATE TOMORROW. —明日を創造する企業―」で、「社員一人ひとりの力とITを融合させ、より良い社会づくりに貢献したい」という思いが込められています。それに準拠して「社会の明日を創造」「お客様の豊かな明日を創造」「社員の明日を創造」という3つのビジョンを掲げました。

 

 

3つのビジョンはSX・CX・EXに適合

 

細江 3つのビジョンについて詳しく解説してください。

 

齋藤 1つ目の「社会の明日を創造」は、人々の生活に喜びや楽しさを与えるサービスを提供し続けるということ。具体的には、ポータルサイトやオウンドメディア、世の中の課題を解決できるツールといった自社サービスの開発・提供を促進しています。

 

2つ目の「お客様の豊かな明日を創造」は、新しいテクノロジーにいち早く対応し、高度な技術力を事業活動や社会生活に的確に生かすということ。最新技術を活用してまだ世の中にないビジネスを創出するオフショア開発を加速しています。

 

3つ目の「社員の明日を創造」は、常にイノベーションを生み出し続けるための快適な環境と活躍フィールドを提供するということ。働きやすい環境づくりのため、社員から企画を募った独自の社内制度などの導入につながっています。

 

細江 体験価値というカテゴリーにおいては、「社会の明日を創造」はSX(社会体験価値)、「お客様の豊かな明日を創造」はCX(顧客体験価値)、「社員の明日を創造」はEX(社員体験価値)に当てはまります。この3つの視点でビジョンを描いた理由は何ですか。

 

齋藤 世の中に貢献する幅広いサービスを提供したいという思いがあり、それをいち早く実現する戦略と社会に働き掛ける集団づくりを考えていくと3つのビジョンが固まりました。

 

細江 行動指針も定めていますね。

 

齋藤 スローガンとビジョンだけでは組織を動かす上で足りない要素があるのではないかと考え、数年前に役員を含めた当時のマネジメント層が一堂に会するワークショップを実施しました。そこで「あそび(好奇心を行動につなげる)」「清潔(心と身体を整える)」「仲間(共に挑戦する)」「思いやり(協調・対話を大切にする)」という4つの行動指針が決まりました。偶然の産物ですが、行動指針の頭文字を並べると「ASNO(アスノ)」になって社名に通じます。

 

 

EXを充実させた結果
離職率5%以下に

 

細江 アスノシステムらしいCXの提供の仕方を紹介してください。

 

齋藤 当社は仕事を受注すると、お客さまの注文通りのシステムを構築するのではなく、「エンドユーザーまで想定してお客さまと一緒にものづくりを進める」という方針を貫いています。エンドユーザーがより良い体験のできるシステムを思い描いてお客さまへ提案すること。それがシステム開発の第一歩です。

 

細江 当社がアスノシステムと一緒にサービス開発を行った際も、エンドユーザーに着眼点を置いてさまざまなアドバイスを頂きました。EXに対する取り組みはどうですか。

 

齋藤 さまざまな角度から社員の働きやすい環境づくりを推進しています。社員の座席を固定しないフリーアドレスや働く場所を固定しないテレワーク、表彰制度などを導入。能動的にベストなパフォーマンスが発揮できる環境整備を図っています。

 

また、当社らしさが表れた取り組みが「アスノチャレンジ」です。拠点や部署を超えたコミュニケーションの円滑化を目的として、社員がイベントを企画して役員にプレゼンテーションを行うもので、予算の総額は200万円。毎回、バラエティーに富んだ企画が集まり、ダイエット企画、美術館めぐり、ゴルフなどを実現させています。自分たちがさまざまな体験をすることで、顧客への価値提供につながればと思います。

 

こうした多様なEXの取り組みを進めた結果、離職率は5%以下になりました。これからも当社は3つのビジョンに基づいて社会の価値観の変化に対応しながら、お客さまと社員の事業と生活を豊かにするサービスを提供し続けたいと思います。

 

細江 IT業界で離職率5%以下は驚異的な数字です。アスノシステムは多様な体験価値を組み合わせて展開し、さらにASNOという行動指針を実践することで事業を伸ばしてきました。これは体験価値でビジネスを成長させるBX(ビジネスエクスペリエンス)の成功事例と言えます。

 

 

齋藤 武育(さいとう たけいく)氏
アスノシステム 代表取締役社長

 

 

PROFILE

  • アスノシステム(株)
    ヒラメキと挑戦と実績を武器に、明日を創る企業を支えるエキスパート集団。クライアントの「過去」「現在」を踏まえ、豊かな「明日」を共に創り上げる体験からコミュニケーションモデルを構築することでファンを獲得している。

 

Interviewer

細江 一樹(ほそえ かずき)
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 副本部長

 

 

 

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