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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.01.06

海外クラウドファンディングの可能性と活用手法 村上 崇

海外市場を切り開く第一歩

今の経営環境において、国境を越えた市場開拓は企業の成長に不可欠である。特に日本企業については、国内市場の成熟化や少子高齢化による市場縮小といった課題に直面しており、海外市場への進出は避けて通れない。しかし、異なる言語や文化、現地の消費者ニーズに合わせたマーケティング戦略の構築は容易ではない。

こうした海外市場進出に関する複雑な課題に対応するための新たな手段として、海外クラウドファンディングの活用が注目を集めている。海外クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディングの海外展開を指す。

本稿では、日本企業が海外クラウドファンディングを活用するメリット、主要プラットフォームの特徴、成功事例などを紹介し、その可能性と未来について解説する。

企業がグローバル展開を進める上で、迅速かつ効率的な海外市場進出が求められるが、市場調査や現地法人の設立、販売網の構築など多くの時間とコストが必要である。特に、中小企業やスタートアップにとっては大きなハードルとなっている。

海外クラウドファンディングは、従来の障壁を大幅に軽減し、より柔軟で迅速な市場参入を可能にする。主なメリットは、次の4つである。

❶ 低コストでの市場参入
初期費用を抑えて海外市場に製品・サービスをアピールできる

❷ 事前受注によるリスク軽減
事前に顧客を獲得し、需要を明確化することで在庫リスクや販売リスクを最小限に抑えることができる

❸ グローバルなブランド認知度向上
世界中に向けて製品・サービスをアピールすることで、ブランドの認知度を高める

❹ 熱狂的なファンコミュニティーの形成
製品・サービスに共感する熱心なファンを獲得し、将来的な顧客やブランドアンバサダー※として育成する

海外クラウドファンディングは、企業や個人にとって新たなビジネスチャンスを提供する場となっているのだ。

適切なプラットフォームを選定する

海外クラウドファンディングを成功させるためには、適切なプラットフォームの選択が重要である。ここでは、数ある選択肢の中でもKickstarter(キックスターター)とIndiegogo(インディーゴーゴー)の2つ(【図表】)を紹介したい。

Kickstarterは、家電・ガジェット・テクノロジー製品プロジェクトに強みを持っており、クリエイティブなアイデアや革新的な製品を求める支援者が多く集まる場として有名だ。プロジェクトの掲載には厳格な審査基準が設けられているため、質の高いプレゼンテーションや具体的な計画が求められる。Kickstarterでのクラウドファンディングの成功は、プロジェクトの信頼性を高める重要な要素となる。

Indiegogoは、より幅広いカテゴリのプロジェクトに対応しており、柔軟性の高さが特徴である。テクノロジーやデザイン、社会貢献活動など多岐にわたるプロジェクトが掲載されており、審査基準も比較的緩やかだ。そのため、初めてクラウドファンディングに挑戦する企業や、ユニークなアイデアを試したい個人にとって第一の選択肢となる。

2つのプラットフォームはそれぞれ異なる強みを持っているため、プロジェクトの目的やターゲットとなる支援者層に応じて選ぶことが成功の鍵である。どちらを選ぶにしても、入念な準備と戦略が必要である。

【図表】海外クラウドファンディングにおける主要プラットフォーム

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

海外クラウドファンディング成功のための活用方法

海外クラウドファンディングの活用を進めるに当たり、次の4つのポイントを押さえていただきたい。

❶ 魅力的なプロジェクトページの作成
製品・サービスの紹介動画や画像、分かりやすい説明文でプロジェクトの魅力を伝える

❷ 明確なターゲット設定
ターゲット層を定めて響くメッセージを伝える

❸ 積極的なPR活動
SNSやメディアなどを活用し、プロジェクトを積極的にPRする

❹ コミュニティーとの継続的なコミュニケーション
支援者(コミュニティー)からの質問に迅速に回答し、プロジェクトの進捗しんちょく状況を共有する

次に、日本企業の海外クラウドファンディング成功事例を3つ紹介する。高級グラスメーカーA社は、コーヒー専用グラスをKickstarterで展開し、目標資金調達額の1600%増となる約3000万円の資金調達に成功。いびきを防止するノーズクリップを開発したスタートアップB社は、革新的な製品デザインが注目を集め、2000万円以上の資金調達に成功した。大手家電メーカーC社は、外付けイヤホンやロボット家電のテストマーケティングとして海外クラウドファンディングを活用し、1億円以上の資金調達に成功している。

海外クラウドファンディングは、「海外市場への検証された挑戦」を可能にする、戦略的なビジネスプラットフォームである。気軽にスタートできることが大きな特長であるため、まずは完璧を求めすぎず、自社の海外市場展開に向けた第一歩として活用することが重要である。海外クラウドファンディングという新たな可能性に、ぜひチャレンジしていただきたい。

※ 企業の広告塔として自社の製品・サービスの魅力を発信する人物

 

PROFILE
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村上 崇
TAKASHI MURAKAMI
カーツメディアワークス(タナベコンサルティンググループ)
代表取締役
報道・情報番組のディレクターとして取材経験を積み、その後、PRコンサルティングファームにて上場企業、グローバル企業、官庁など幅広い業種の広報戦略を手掛けた後に独立。戦略PRおよびデジタルマーケティングを中心としたカーツメディアワークスを設立し代表取締役に就任。著書に『あたらしいWebマーケティングハンドブック』『クラウド情報整理術』(共に日本能率協会マネジメントセンター)など5冊。