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コンサルティングメソッド

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.09.01

社会との信頼を築くPR戦略

飯島 智佳

ポイント2 第三者の声が上がる

 

広告やマスメディアの力が圧倒的に強く、露出量ばかりが重視される時代はすでに終わっている。

 

日常的にあらゆる広告に触れるようになっているからこそ、若年層を中心として広告に対する懐疑心が高まり、また、広告とそうでないものを敏感に嗅ぎ分けるようになっている。

 

そんな中で、信頼関係を築いていくために必要なのが「第三者の声」である。第三者の声とは、SNSなどで発信される消費者の声、口コミ(Shared Media:シェアードメディア)や、メディアが金銭の授受なしに報じるニュースや記事などの情報(Earned Media:アーンドメディア)のことである。

 

特に近年のSNSの影響力はすさまじく、人々の広告離れを助長している。では、広告と違って自社がコントロールできない第三者に声を上げてもらうためにはどうすれば良いのか、次のポイントで解説したい。

 

 

ポイント3 社会が共感する情報の設計

 

SNSやメディアで多くの声が上がる情報には共通点がある。それは社会が共感する情報であることだ。なぜなら、個人はその情報に共感したからこそSNSで拡散するのであり、メディアも視聴者がその情報に関心を持ち共感するであろうと考えて選び、報じるからである。

 

社会が共感する情報をいかにつくり出すかは、15ページ「『共感』でブランド価値を高める戦略ブランディングPR」で詳しく説明する。

 

 

ポイント4 報道連鎖を生み出す情報設計

 

どれだけ社会が共感する情報を設計できても、それを目にすることがなければ共感も信頼も生まれない。そのため、情報の露出量もやはり重要な指標となる。その露出量を増やすために必要な考え方が「報道連鎖」(【図表1】)である。

 

【図表1】報道が報道を呼ぶ「報道連鎖」を創出
【図表1】報道が報道を呼ぶ「報道連鎖」を創出
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

今の時代、テレビや新聞などマスメディアの現場では、業界紙やウェブメディア、SNSなど、他メディアで話題になっている情報をリサーチして報道ネタを見つけることが多く、特にテレビ業界ではその傾向が顕著である。ウェブメディアは2種類あり、編集者やライターが独自に書いた記事を発信する一次メディアと、一次メディアのニュースを二次利用して発信する二次メディアがある。(【図表2】)

 

【図表2】ウェブメディアの種類
【図表2】ウェブメディアの種類
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

二次メディアで、一次メディアの名前とともにニュースが配信されていて、さらに二次メディアに取り上げられているニュースが数日後にテレビの朝の情報番組で取り上げられているのを見たことがある人も多いのではないか。まさにこれが報道連鎖である。また、二次メディアや、テレビ番組で取り上げられる度にSNSで話題化されていることも多く目にするだろう。

 

このように他メディアで報道されたことを追いかけるマスメディアの性質を利用し、まずは業界紙やウェブニュースなど、記事に取り上げられるハードルの低いメディアを狙ってアプローチをかけていく。その際に報道連鎖を意識して、テレビネタとして採用されやすい情報に加工しておくことが重要となる。

 

報道連鎖を生み出した事例:アスカネット
アスカネットは広島市に本社を置き、フォトブック事業、フューネラル(葬儀)事業、空中ディスプレイ事業を3本柱とする企業である。同社は数年前に発売していた「空中ディスプレイ」を、コロナ禍という社会課題に合わせ、「非接触パネル」と言葉へ変えてニュースレターで改めてメディア配信を行った。

 

その結果、一次ウェブメディア(経済ニュース)から「Yahoo!ニュース」へと転載され、そしてテレビの朝の情報番組でも取り上げられ、最終的には有名ドキュメンタリー番組で同製品の技術者が特集されることとなった。

 

すでに存在していた製品でありながら、自社の独自の技術の強みと、コロナ禍における社会の関心事を掛け合わせて、テレビネタとして採用されやすい文脈へと変換したことが、報道連鎖を生み出した成功要因の1つとなっている。

 

 

ポイント5 バックキャスティングアプローチ

 

どのような事業や活動であっても、ビジョンを描くことが必要となる。PRの場合、「何年後に、ステークホルダーの中のどういった領域の人たちに対して、どの程度の認知・信頼関係を構築しているのか」という考え方になるだろう。このようなビジョンを、例えば2030年の目標とした場合、ビジョン実現のための道筋を、2024年、2027年といった短期、中期の目標に逆算思考で落とし込んでいく。

 

PRは、近年の経営活動において重視される傾向にはなってきたが、まだ後回しにされがちである。そのため、「できるところからやる」というフォアキャスティング思考だと、当初目標としていた時期に、ビジョンを達成できていない状態になることが考えられる。そこで、前述のように目指したい姿(ビジョン)に向かって着実に取り組んでいくロードマップを描けるバックキャスティングアプローチが有効となる。

 

「PR=パブリシティーを獲得すること」という捉え方がいまだに残っているのも事実だ。しかし、あくまでPRは企業と社会が良好な関係を築くこと、つまり信頼づくりであり、結果的に企業のサステナビリティを向上させる活動でもある。

 

自社のブランド戦略に沿ったPR戦略で、時代とともに最適なコミュニケーション手法を用い、ステークホルダーとの関係構築に取り組んでいただきたい。

 

 

PROFILE
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飯島 智佳
Chika Iijima
タナベコンサルティング ブランド&PR ゼネラルパートナー

販促代理店のアカウントエグゼクティブとして大手食品メーカーの販促プロモーションの企画立案、実行推進に従事した後、タナベコンサルティングに入社。消費者心理、顧客心理を理解したソリューション提案を強みとし、ブランドの魅力を最大化するマーケティング戦略のトータルサポートで、クライアントの厚い信頼を得ている。