メインビジュアルの画像
コンサルティングメソッド

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.08.01

中期ビジョン実現に向けた仕組みと環境整備

内田 佑

環境整備に向けた3つのステップ

 

経営層が中心となり、時流に即した素晴らしい中期ビジョンを策定して全社に発信。経営層はここで仕事を終え、社員が中期ビジョンを理解してくれると信じて成果を待つ。

 

残念ながら、このようなケースの中期ビジョン実装は、かなり高い確率で頓挫(とんざ)する。

 

どれだけ素晴らしい内容の中期ビジョンが発信されても、策定プロジェクトに参加していなければ、社員は経営層ほど、現状に対する危機感も、未来へのワクワクも感じない。自分の日常の業務に引き付けて考えられないため他人事で終わり、誰も中期ビジョンを意識した行動を取らず、今までと何も変わらないだろう。だが、このような会社は実際に多く存在する。

 

策定した中期ビジョンを本気で実現したいのであれば、経営層だけでなく、中間層はもちろん一般社員にまで浸透させた上で、中期ビジョン推進に向けた環境を整備しなければならない。

 

そのためには、次の3ステップ(ビジョンを浸透・実現へ導くメソッドとは【図表2】のSTEP04〜06)が必要となる。

 

【図表2】ビジョン実装を加速させる「STS(Step to Success)」

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

ステップ4
正しい「危機感」を醸成するマネジメント

 

中期ビジョンは、在りたい姿と現状のギャップを可視化する。「なぜ自社に中期ビジョンが必要なのか」という危機感を醸成し、社員が「自分事」として捉えられるようにするマネジメントが必要である。

 

この正しい危機感の醸成に重要なのは、「自分事化」と「不足感」だ。

 

中期ビジョンの実現を自分事として捉えることができなければ、興味を持つことができない。興味を持ったとしても、「現状では実現できない」ことが分からなければ、正しい危機感につながらない。正しい危機感を醸成するためのポイントは、次の2つである。

 

❶ 在るべき姿の再認識
中期ビジョンを推進した結果、「将来的に自社はどうなりたいのか」というゴールを社員が理解しやすいように発信する。「中期ビジョンを実現すると、どのように社会へ貢献できるか」「自分たちの働き方がどのように変わるか」など、社員が自分事として捉えられるような内容を発信することが重要である。

 

❷ 在るべき姿と現在のギャップの可視化
在るべき姿と現在のギャップを発信し、「まだ足りていない」という不足感につなげる。社員は、自分事として捉えている状態で不足感を感じると自発的に行動する。

 

ステップ5
ビジョン・方針を周知する仕組みづくり

 

社員が危機感を持ち、中期ビジョン推進を自分事として捉え、不足感を感じて動き始めたとしても、一時の感情で終わることは多い。ビジョン・方針の進捗(しんちょく)共有を継続させるためには、常に「現状」を更新し続け、最新の「ギャップ」を発信し続けることが重要である。

 

そのためにも、全社・部門ごとに達成状況を常に把握できる仕組みや環境の整備が必要となる。ポイントは次の2つだ。

 

❶ 現状のコミュニケーションの把握
自社内でどのようなコミュニケーションが行われているのかを正しく把握する。コミュニケーションの内容や頻度、対象、効果などを確認できる一覧を作成することで、どこで中期ビジョンを周知し、マネジメントすれば良いのかを検討しやすくなる。(【図表1】)

 

【図表1】コミュニケーションパイプの分析例

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

❷ 周知の仕組みづくり
現状を把握した上で行うべきなのは、どのような内容を継続的に発信するか、どのパイプで何を発信するか、どれくらいの頻度で発信するかなどを決めることである。ここを決めなければ、「誰かがどこかで発信しているはず」と考え、結局は誰も周知を徹底しない。

 

ステップ6
自発的・自律的な行動を促す環境整備

 

さまざまな制度・仕組みを構築、発信し、中期ビジョンを推進しようと試みてもうまく進まない会社は多い。筆者のクライアント企業においても、推進段階になったとたんに動きが悪くなることがあった。

 

それは、中期ビジョンを推進する責任者やプロジェクトチームが、自発的かつ自律的な行動を取れるような環境を整備していないからである。責任者やプロジェクトチームは周りから理解を得ることができず、最終的にはプロジェクト自体が自然消滅してしまう。

 

自発的に行動する環境づくりのポイントは、阻害している要因の分析と改善具体策の検討、権限移譲による推進のサポートの2つである。

 

阻害している要因について、タナベコンサルティングは、①組織、②制度、③環境、④業務という4つの切り口からの分析を提言している。それぞれの項目で、現場でよく見られる阻害要因の例を【図表2】にまとめる。

 

【図表2】中期ビジョン推進の阻害要因例

出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

中期ビジョンが推進できない要因を4つの切り口で分析し、原因を突き止め、具体的な対策を講じてプロジェクトチームや責任者が動きやすい環境を整備する。それと同時に、プロジェクトチームや責任者が周りに対して影響力を持てるよう、権限を委譲する。阻害要因を明確にして、社員が動きやすい環境を整えるのである。

 

ここまでの取り組みを行って初めて、自発的・自律的な行動が取りやすい環境が整備され、中期ビジョンは推進される。中期ビジョンを構築しても推進できていない企業は、まずは本稿を参考にその原因を明確にし、中期ビジョン推進に向けて具体的な対策を打っていただきたい。

PROFILE
著者画像
内田 佑
YU UCHIDA
タナベコンサルティング ゼネラルパートナー
建設業・製造業での経営支援を数多く手掛け、建設・製造ドメインのスペシャリストとして定評がある。中堅企業・中小企業の採用戦略構築や中期経営計画策定を得意としている。