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コンサルティングメソッド

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.08.01

ビジョンを浸透・実現へ導くメソッドとは

林崎 文彦

ビジョンを実装できないのはなぜか

 

日本国内市場の縮小、デフレ経済からインフレ経済へのシフトが進む中、自社のパーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を設定し、その実現に向けたビジネスモデルの変革、戦略的組織再編、デジタル・DX戦略、フロンティア事業を明確に打ち出す企業が増えてきた。

 

国内市場を見ると、ほとんどの企業や業種が、成長期のピークから成熟期・飽和期、早い企業では衰退期を迎えている。

 

企業の選択肢は「続ける・廃業する・倒産する・売却する(提携する)」の4つしかない。自社の10年後を考えると、後継者不足の背景から、経営活動を継続するかどうかの選択を迫られている企業も多いのではないだろうか。そのような市場環境の中、自社の成長発展を志し、コア技術を磨き、自分たちの勝てる場を主体的に見つけ出し、業績を上げている企業も多くある。

 

また、環境変化に対する企業側の変革姿勢を強く社外に発信するため、社名を変更する企業も散見される。日本取引所グループ(JPX)によると、2005年以降に商号変更を行った上場会社は850社を超え、ここ10年で社名変更した会社は514社に上る

 

このように、変革を決意し、その目指す姿を社内外に発信し、そのビジョン・中期経営計画を推進している企業に対して、筆者は一定の違和感を覚えている。

 

それはなぜか。結論から言うと、実際に「実装」できている企業があまりに少ないからである。(【図表1】)

 

【図表1】ビジョンを実装できていない企業が多い
【図表1】ビジョンを実装できていない企業が多い
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

 

ビジョンは実装できてこそ初めて価値がある。しかし、ビジョン・中計策定に多くの労力を費やしたものの、実装段階になると通常の業務に追われ、どんどんビジョン実装と現実が乖離(かいり)している企業が多い。

 

 

ビジョン実現のストーリーを明確化

 

ビジョンとは、中長期で目指す自社の姿である。貴社では、ビジョン実現に向けたストーリーが明確になっているだろうか。

 

具体的には、描いた中長期ビジョンまでのフェーズを設計しているかということだ。よく見られるのが、ビジョンを描き、大まかな重点施策を示しているだけで、そこにたどり着くための道筋が明確でないケースである。

 

目指す姿にたどり着くまでの3つ程度のフェーズを、事業戦略・収益構造改革・組織戦略・経営システム戦略の4つの切り口で、立体的に整理していただきたい。また、自社の現状を押さえ、フェーズごとに、準備→変革→拡大などの大きなテーマを決めることも大切である。

 

また、ビジョン・中計を実装するのは「人」、つまり社員である。実装の主役である彼・彼女らが、理解・納得し、普段の実務レベルまで落し込まれていないと、どんなに素晴らしいビジョン・中計を描いても実現しない。

 

この実装段階をしっかりと加味したアクションプランを設定しないと、普段の業務は現状の成り行きの延長線上になり、ただ目標数値だけが会議の中で話し合われることになる。もっとひどい場合、外部環境が良く、目標を達成したのでそれで良しとしてしまうケースもある。

 

本来、ビジョンには、明確な志を持った人を引き付ける効果がある。

 

ビジョンの実装体制が不十分な状態で外部に発信しても、採用効果は一過性となり、ビジョンに賛同して入社した社員が早い段階で離職してしまうケースもある。

 

タナベコンサルティングが実施した「2023年度 長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査」の結果でも、長期ビジョンの浸透状況について「社内全体に浸透している」と回答した企業は全体の2割未満にとどまり、8割以上の企業で一般職にまで浸透していないという結果が出ている。

 

 

ビジョン浸透の具体的ステップ

 

ビジョンを社内に浸透するための取り組みとして、まず、自社で描いたビジョンと実装する社員が、シンクロした状態になっているかを確認していただきたい。

 

自社の現状をしっかりと押さえ、ビジョン実装に向けた人的資本戦略を再構築するということである。

 

具体的に押さえていただきたいポイントは、次の5つである。

 

❶ ビジョン実装への社員の関わり状況
❷ ビジョン・中計の理解度
❸ 年度方針とのリンク度合い
❹ 現状の研修とビジョンとのリンク
❺ ビジョン浸透度の上司・部下とのギャップ

 

これを機能別・階層別・年齢別や事業別などで区分し、どこで根詰まりを起こしているかを明確にするべきである。

 

「ビジョン実装への社員の関わり状況」「ビジョン・中計の理解度」では、社員が会社の掲げたビジョンに対し、認知・共感しているか、「年度方針とのリンク度合い」では、過去からの延長線上で仕事を行っていると感じている社員がどれだけいるのかが明確になる(ただ、残念ながら、そもそも部門計画を立案する部門長や役職者がビジョンと連動した年度計画を作っていないケースもある)。

 

「現状の研修とビジョンとのリンク」では、ビジョン実装のための人材育成が、ただの教育コンテンツ提供になっていないかが明確になる。

 

最後に「ビジョン浸透度の上司・部下とのギャップ」を知ることで、上司と部下とのコミュニケーションギャップだけでなく、伝えられる側の「ビジョンと連動した自分の目指す姿」が、上司の期待値と擦り合わせができているかどうかが判明する。

 

※日本取引所グループ「商号変更会社一覧」

 

 

PROFILE
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林崎 文彦
FUMIHIKO HAYASHIZAKI
タナベコンサルティング エグゼクティブパートナー
大手印刷業界でマーケティング・顧客開発担当を経て、タナベコンサルティングに入社。企業のトップと業績に向き合い、常に新しい方法を模索して、地域の特色を生かした成功事例を次々に生み出している。中堅企業をメインに、中期ビジョン・中期経営計画の策定、BtoBブランド戦略立案、人材開発体系構築、動画を活用した技術伝承、ジュニアボード運営支援など、幅広い分野で多くの実績を残している。また、幹部や若手社員育成も得意としており、クライアントから高い評価を得ている。