TCG REVIEW logo

100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【メソッド】

マーケット・スタッツ

最新の調査データから、各業界や分野、市場に関する動向・トレンドを分析。企業が進むべき方向性を示します。
メソッド2020.08.18

労働者の6割「労使コミュニケーションは良好」
逆に社内コミュニケーションは懸念が高まる


2020年9月号

 

 

 

 

会社と従業員のコミュニケーションが今、過去20年間で最も良好だという。厚生労働省が6月18日に公表した2019年の「労使コミュニケーション調査」(5年ごとに実施)によると、労使間のコミュニケーションについて「良い」と回答した労働者の割合が60.5%となり、データをさかのぼれる1999年以降で初めて6割台に達した。良好度指数(「良い」―「悪い」)は前回調査(2014年)と比べ6.9ポイント増の「プラス50.9」に増加した。(【図表1】)

 

 

【図表1】労使コミュニケーションの良好度推移(労働者調査、n=3288人)

出所:厚生労働省「労使コミュニケーション調査」(1999年、2004年、2009年、2014年、2019年)

 

 

労使コミュニケーションで重視する内容(複数回答)を見ると、労働者側は「職場の人間関係」(66.2%)が最も多く、次いで「日常業務改善」(57.7%)、「労働条件(賃金、労働時間など)」(53.0%)などが続く。一方、事業所側は「日常業務改善」(75.3%)を最も重視し、続いて「作業環境改善」(72.9%)、労働者が最も重視する「職場の人間関係」(69.5%)は3番目と、労使間でやや認識のずれが見られた。唯一、両者の間で一致したのは、最も回答率が低い「経営に関する事項」だった。(【図表2】)

 

 

【図表2】 重視するコミュニケーション項目 (複数回答)

出所:厚生労働省「2019年 労使コミュニケーション調査」(2020年6月18日)

 

 

また仕事に対する不満や要望について、従業員と会社の対話によって改善を図る「職場懇談会」がある事業所の割合は過半数(52.7%)に及んでおり、そのうち1年間(2018年)に懇談会が開催された事業所は9割超(91.7%)で、8割近く(79%)が「成果があった」と回答した。懇談会での話し合い事項(複数回答)を見ると、「日常業務の運営」に関することが最多(86.2%)で、「安全衛生」(66.6%)や「経営方針、生産、販売などの計画」(49.5%)、「教育訓練」(46.8%)などが続く。(【図表3】)

 

 

【図表3】職場懇談会における話し合い事項(複数回答)

※「―」は該当年調査で選択肢に入っていない
出所:厚生労働省「労使コミュニケーション調査」

 

 

ちなみに20年前(1999年)との比較では、教育訓練(35.9ポイント増)や安全衛生(34.1ポイント増)、福利厚生(21.4ポイント増)など、従業員自身に関する事項が大幅に増えているのが目立つ。なお、経営方針や生産・販売計画については6.2ポイント増と大きな変化が見られない。

 

とはいえ、同調査が実施されたのは2019年7月。現在は新型コロナウイルスの感染防止と働き方改革の一環で、テレワーク(在宅勤務)に移行した企業が多く、労使コミュニケーションに支障が出るケースも増えている。システム開発会社の日本シャルフの調べによると、テレワークを経験した会社員1127人に課題を聞いたところ(複数回答)、最も多かったのは「コミュニケーションや社内間での連携」(48.7%)だった。(【図表4】)

 

 

【図表4】テレワークを継続する際の課題点について (複数回答、n=1127人)

出所:日本シャルフ「with(ウィズ)コロナ時代の働き方調査」(2020年7月14日)

 

 

今後は、職場内や労使間でのコミュニケーションがさらに難しくなると思われる。例えば、中途採用比率の公表を大企業(従業員数301人以上)へ義務付ける「改正労働施策総合推進法」が3月に成立した(2021年4月施行)。新卒一括採用の慣行見直しと中途採用の拡大促進が目的だ。中途採用比率が低い企業は、キャリアアップの転職を望む優秀な外部人材を集めにくくなる。政府は大企業に対し中途採用の拡充を促すことで、新卒一括採用から通年採用・中途採用へ移行させ、就職氷河期世代や高齢者層の採用増加も見込んでいる。

 

この中途採用比率の公表義務と、2020年4月に施行された「同一労働同一賃金」により、職務を明確化して年齢や年次を問わず人材を活用する「ジョブ型雇用」へのシフトが本格化するとみられている。ただ、これに対して懸念を感じる大企業も少なくない。人材系ウェブサービス会社のUnipos(ユニポス)が行った調査によると、東証1部上場企業の経営者・事業責任者の約6割がジョブ型雇用に懸念を感じており、その懸念の上位五つのうち三つは社内コミュニケーションの希薄化に関するものだった。(【図表5】)

 

 

【図表5】ジョブ型雇用への移行に対する懸念ランキング
(東証1部上場企業の経営者・事業責任者309名が回答、複数回答)

出所:Unipos「『ジョブ型雇用への移行に伴う組織課題』に関する意識調査」(2020年3月30日)

 

 

テレワークやジョブ型雇用の推進、さらには副(複)業・兼業の普及促進(「政府4計画」、2020年7月17日閣議決定)や事業承継型M&Aの活性化など、政府は人口減少の対応策として「雇用流動化」を推進中だ。これに伴い、他社で働く人材を副業社員として募集(ヤフー、約100名)したり、通勤定期券代の支給を廃止してテレワークに全面シフト(富士通など)したり、ジョブ型採用の強化に方針転換(日立製作所、新卒採用:中途採用の割合を2:1から1:1へ)する企業も現れている。

 

ただ、その過程で、他社の副(複)業人材の受け入れや社風が異なる企業買収で帰属意識と組織の一体感が低下したり、ジョブ型雇用(キャリア採用)によって中途社員が増加し経営理念が希薄化したり、逆に他社への転職で自社の離職者が増えてノウハウの社外流出を招いたりなど、さまざまなリスクの発生が想定される。

 

こうした事態を防ぐため、「インナーブランディング」(社内向けのブランディング活動)に対する企業の注目度が高まっており、企業と従業員のつながり(エンゲージメント)強化や経営理念・ビジョンの浸透に向けた新たな取り組みが期待されている。

 

例えば、紙や掲示板ではなく、従業員専用のクローズドサイトや社内イントラネット上で公開する「オンライン社内報」を運用したり、文章ではなく動画で社内広報コンテンツを制作し、社内SNSアプリや社員食堂・休憩室に設置したデジタルサイネージ(電子看板)で配信したりなど、デジタルメディアを活用する企業が多い。一風変わったものでは、社長がメインパーソナリティーを務める「社内ラジオ」を配信する企業もある(パネイルの「パネラジ」)。

 

また、近年はソーシャル経済メディアの「NewsPicks(ニューズピックス)」が提供している社内限定版サービスを導入する企業も増えている。これはサービスを導入した企業の従業員だけがアクセスできるタブをNewsPicks上に開設するもので、最新の経済ニュースとウェブ社内報や自社専用コンテンツが読める。記事にコメントをすることで、ニュースを読む習慣と多角的な視点で捉える力が同時に身に付くという。

 

これからは、自社の従業員が同じ空間、同じ時間帯、同じ国籍(言語)、同じ立ち位置、同じ経験値や価値観で仕事をする――とは限らなくなる。“社内”や“わが社”の定義と範囲が広がる中で、いかにして経営理念や事業計画を浸透させ、組織のコミュニケーションの活性化を図るかが大きな課題だ。

 

 

 

 

 

 

 

マーケット・スタッツ一覧へメソッド一覧へ

関連記事Related article

TCG REVIEW logo