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コラム
TCG副社長メッセージ
タナベコンサルティンググループの副社長・長尾による連載。経営環境や市場トレンドを踏まえ、企業経営の未来に向けて提言します。
コラム 2025.04.30

喉に刺さった小骨 長尾 吉邦

経営は攻めが7割。すなわち経営者のモチベーションは、攻めに7割を割かねばならないのだが、経営者とディスカッションすると、そのモチベーションは一定ではないことが分かる。

コロナショックを乗り越え、サプライチェーンの混乱による調達難や企業物価(原価)の高騰、人材不足にも対処できつつある。そうした中、2024年末からは米・トランプ大統領の再任により世界情勢は大きく揺れ、不可実性が増している。このことに対しては、「右往左往しても仕方がない」と割り切っている経営者が多い。総じて言えるのは、危機に強い経営者が多いということだ。

だが、経営者のモチベーションは、いま一歩、“志へ”、“成長へ”、“投資へ”と向いていないと感じる。そのような時は、「経営者の『喉に刺さった小骨』は何か」を探すようにしている。

TCG(タナベコンサルティンググループ)がお付き合いしている経営者は優秀なリーダーが多く、高い志を持ち、成長意欲やビジョン実現への投資意欲も高い。しかし、その強い思いが表に出ていないことがある。表現は悪いが、「攻め」に対してアクセルを踏めていないことがあるのだ。

先般も、ある経営者A氏とビジョン実現に向けたディスカッションをしていた。A氏は優秀で成長意欲の高い経営者ではあるが、どうも会話が“行きつ、戻りつ”で、攻めの決断に至らず、結局は1つの課題に帰着していた。

A氏の場合、それは「海外事業の赤字」であった。私はこれを喉に刺さった小骨と捉え、まずは短期間で解決することが経営の最大課題であると考えて、リソース投入などの手を打つこととした。

撤退という決断もあるのだが、A氏はあくまでも海外事業の黒字化、成長への道を決断した。この課題の解決が見えた時、A氏は再び攻めに転じ、リーダーシップを発揮することだろう。

皆さんの「喉に刺さった小骨」は何か。自分の胸に手を当てて考えていただきたい。自分自身の経営モチベーションに関わることであり、ロジカルな思考からは出てこないところが難しいのだが、経営者のモチベーションが自社に及ぼす影響は、とても大きいのである。

PROFILE
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長尾 吉邦
YOSHIKUNI NAGAO
タナベコンサルティング 取締役副社長
北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。