「意図では山は動かない。山を動かすのはブルドーザーである。ミッションとプランは意図にすぎない。戦略がブルドーザーである。戦略が山を動かす」(P.F.ドラッカー著・上田惇生訳『ドラッカー名著集4非営利組織の経営』ダイヤモンド社)
ビジョンや計画が立派でも、戦略なくしては実現しない。では、企業における戦略とは何か。タナベコンサルティンググループ(以降、TCG)創業者の田辺昇一は「企業経営における戦略とは、企業が持つ人・モノ・金・技術・信用といった経営資源をどこへ投入していくかということだ」と言った(田辺昇一著『有事経営』タナベ経営)。言い換えれば、「独自性と卓越性で確立された自社のポジショニング」をデザインするということだ。
「FCCフォーラム2024」のテーマである戦略ストーリーとは、ビジョンに基づき戦略を的確に描き出すための思考プロセスをいう。
企業の戦略は、数字より「筋」が大事である。売り上げや利益率などの目標数値を立てることが戦略なのではない。そろばん勘定よりも、ビジョン実現の筋道を描くことから出発する必要がある。社員や顧客は、会社が掲げる数字ではなく、経営理念とビジョンに共感して集まる。数値計画は、経営理念による裏付けとビジョンに基づく筋書きがあって初めて意味を成す。道理に合わない戦略には説得力がない。
むろん戦略を描くだけでは“0点”で、実行してこそ“100点”だ。いくら美しい戦略が出来上がっても、業績につながらなければ戦略を立てた意味がない。本来、戦略は四半期(3カ月)や半期(6カ月)、通期(1年)という短いタームで達成できないものである。中長期的な視点でビジョンを実現する筋道を組み立て、それを社員に浸透させ、行動に移して初めて企業価値向上と持続的成長が実現する。
戦略ストーリーを描く場合、まず自社がどんなこだわりを持って事業を推進するのかを検討することだ。企業の社会的意義や使命感を示す経営理念・パーパスは、戦略の全てにひも付く。その中で、どこで勝ち、どこで「ナンバーワン」をつくるのかをはっきりさせることがポイントである。
ナンバーワンはハードルが高く見えるかもしれないが、マーケットの切り口を柔軟に捉えれば、自社が勝てる場をつくることができる。例えば、自動車マーケットをマクロで捉えると、世界販売台数が4年連続首位のトヨタ自動車がナンバーワンである。
だが、カテゴリーの切り口を変えると、軽自動車はダイハツ工業、国内EV(電気自動車)は日産自動車、商用車はいすゞ自動車、クロスオーバーSUV(スポーツタイプ多目的車)はマツダ、また海外に目を移すとインド市場ではスズキが圧倒的なシェアを誇る。戦う土俵を絞り込むことが肝要だ。
これは大企業でも中堅・中小企業・零細事業者においても考え方に変わりはなく、自社が勝てる領域をどこでつくるのかということである。
「オンリーワンを目指す」という考え方もあるではないか、という声が聞こえてきそうだが、オンリーワンとは顧客にとっての価値の話であり、オンリーワンの価値を発揮してナンバーワンを目指すというのが正しい。なぜなら、ナンバーワンこそ市場の変化に最も柔軟に対応できるポジションで、最も生き残る可能性が高いからである。そんな戦略ストーリーを、要素として組み込んで考えていくことが必要である。
金融機関にて10年超の営業経験を経てタナベコンサルティングへ入社。クライアントの成長に向け、将来のマーケットシナリオ変化を踏まえたビジョン・中期経営計画・事業戦略の構築で、「今後の成長の道筋をつくる」ことを得意とする。また現場においては、決めたことをやり切る自立・自律した強い企業づくり、社員づくりを推進し、クライアントの成長を数多く支援している。