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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2025.02.03

一本の植物に真心を乗せて世界一の園芸会社へ挑む ユニバーサル園芸社 代表取締役会長 森坂 拓実氏

レンタルグリーン分野で圧倒的なナンバーワン企業・ユニバーサル園芸社。東証スタンダード市場に上場し、売上高168億5900万円、経常利益25億1000万円、経常利益率約15%(連結、2024年6月期)、という高い収益率を創造し続ける強靱きょうじんな企業体質はいかにつくられたのか。持続的成長を続ける経営の秘訣ひけつについて、創業者・代表取締役会長の森坂拓実氏に伺った。

 

「人生二度なし」。理想を追って20歳で独立

若松 ユニバーサル園芸社は、2012年に東証スタンダード市場に上場され、レンタルグリーン事業を中心に幅広い事業を展開されています。売上高168億5900万円、経常利益25億1000万円(連結、2024年6月期)と、優良中堅企業として持続的な成長を実現されています。

私はあらゆる業種の約1000社にコンサルティングをしてきましたが、園芸関連企業でここまでの収益力を持ち、成長を続けている企業は珍しいです。実は、タナベコンサルティングもユニバーサル園芸社のレンタルグリーンサービスを利用しています。

大阪本社にある「CROSS LAB(クロスラボ)」と呼ばれるミーティング兼カフェスペースや、東京本社のミーティングスペースなどに観葉植物を置いていますが、とても居心地の良い空間になり、多くの社員がリフレッシュしています。

また、社長室の植物を定期的に手入れしてくださるユニバーサル園芸社の社員は、その植物を「この子」と呼んで手入れをしています。その丁寧な姿に植物への愛情や知識を強く感じています。なぜ、レンタルグリーン事業を創業されたのかお聞かせください。

森坂 ありがとうございます。高校時代によく山登りをしていました。植物が好きだったこともあり、18歳で造園業界に入って20歳で独立したものの、当時は造園業に必要な土地や設備、技術などを持っていませんでした。

そこで、休日に植木の路上販売をしながら、平日にレンタル植物の営業を始めました。営業先は小さな商店やホテル・医院・飲食店など。取引相手はほとんどがオーナーだったので、20歳そこそこの元気の良い青年が「こんにちは!」と入っていくと話を聞いてもらえます。毎日、1件ずつコツコツと営業に回りながら顧客を積み上げていきました。

若松 植物レンタルというのは、路上販売と違って自ら営業活動ができますからね。似ているようで違います。しかも20歳で起業されたのは決断と行動力があります。

森坂 本当は尊敬できる社長の下で一生懸命に働いて会社を大きくしたいと思っていましたが、いざ就職してみると社長が朝10時に重役出勤してきたり、転職した園芸会社の社長も毎日夕方5時ちょうどに退勤したりと、思っていた社長像とは違いました。まだ、18歳で理想に燃えており、それならば「自分でやろう」と決意しました。

若松 理想の会社を自分でつくる決断をされた。高い志をお持ちだったのですね。

森坂 そうした理想を持っていたのも、私の死生観が大きく関係しています。変に思われるかもしれませんが、私は幼いころから「死」をとても怖いものだと感じていました。人はいつか死ぬ、人生の時間は限られている。そうした恐怖から逃れようと常に行動していましたし、ボーッとしていたらすぐに死んでしまうと思うから、とにかく動く。それが普通の人との行動量の違いにつながりました。

若松 優秀な経営者には、人生観・死生観をしっかりと持っている方が多いです。創業の背景をお聞きし、「人生二度なし」という座右の銘や並外れた行動力、会社の成長スピードにも納得できます。

レンタルグリーン分野で圧倒的なナンバーワン企業へ

若松 現在はレンタルグリーンを中心に、イベント会場や店舗ディスプレー、ランドスケープ(造園)、生花店やカフェの運営、ギフト事業など、レンタルグリーン事業を幹に枝葉となるグリーン事業の多角化を展開されています。

森坂 顧客をコツコツと増やしていった結果、日本一になり高収益体質になりました。

十数年前まで室内園芸が全体の7割を占めていましたが、今はギフトや生花店など小売事業など枝葉となる事業が成長したのでその比率は半分以下になっています。

若松 ニッチマーケットでもナンバーワンになると収益率は高まります。小さくても唯一無二の存在になることが重要です。

森坂 小さな業界だから日本一を狙えました。ただ、国内のマーケットは東京と大阪、名古屋ぐらい。福岡や仙台のマーケットはさほど大きくありませんし、競合も多いため、室内園芸中心で成長を続けるには限界があります。そうなると、やはり海外市場を攻めるしかない。今は中堅企業もM&Aを成長戦略に使える時代になりましたので、当社も取り入れています。

若松 おっしゃる通りです。2015年には米国のRolling Greens社をグループ会社化するなど積極的にグローバル展開されています。タナベコンサルティンググループ(TCG)でも、クロスボーダーM&Aを支援しており、中堅企業や中小企業の案件が増えています。

ユニバーサル園芸社は、「世界一の園芸会社」を掲げて国内外でM&Aを積極的に実施されていますし、新規事業の開発にもスピード感があります。国内は三大都市圏を中心にサービスを展開されており、各分野でブランド事業も育ってきています。エリアごとに必要とされる事業を開発されている点が特徴と言えます。

森坂 新たなビジネスのきっかけは、お客さまとの会話の中から生まれることが多いですね。はじめはレンタルグリーンで入りますが、社長室などで親しく声を掛けていだくうちに、造園やギフト、小売りといったビジネスにつながっています。

例えば、机の上に住宅のパンフレットが置いてあれば「ご新居を建てられるのですか?」という会話になり、そこから造園のご提案につながるなど。お客さまの情報からビジネスの芽が出るのです。

若松 潜在的なニーズを掘り起こして新規事業という枝葉を伸ばしていくのは理想的な形です。そうした展開につながるのも優秀な社員が育っているからでしょう。人材育成に対する考え方や社員教育についてお聞かせください。

森坂 当社では、他社と差別化するために少し変わったことをしています。一例を挙げると、毎年10月に社員が渾身の作品を発表する「文化祭」を開催しています。40年以上続けていますが、毎回、新入社員からベテラン社員まで多くの時間と労力を掛けて作品を制作してくれるので見応えがあります。日々腕を磨きながら、プロフェッショナルとしてクリエイティブな空間をご提案できるよう努めています。

若松 40年以上続けているとは驚きです。最近は社員の生産性向上やよりクリエイティブな仕事をしてもらうため、オフィス環境を重視する企業が増えています。私は仕事柄、国内はもちろん海外も含めて多くのオフィスを訪問しますが、緑があふれる公園のようなオフィスだったり、グリーンを使って居心地の良いカフェのような雰囲気にしたり、キャンプ場のような遊び心のある空間をつくっています。

森坂 当社でも設計事務所と一緒にグリーンを活用した空間づくりを提案する機会が増えています。背景にあるのは、目的の変化です。バブル経済時代はリクルートのためにレンタルグリーンを利用される企業が多くありましたが、バブルが崩壊すると契約も切れてしまいました。

そうした経験があったため、コロナ禍でテレワーク導入やオフィス縮小が進むとレンタルグリーン事業は大きな打撃を受けるだろうと懸念しましたが、それは杞憂きゆうに終わりました。ここ10年で、社員が快適に働けるようオフィス環境を工夫する流れが確実に広がっています。


大人から子どもまで全ての人が植物を楽しむことができるガーデンセンター「the Farm UNIVERSAL(ザ ファーム ユニバーサル)」(左)。タナベコンサルティングの大阪本社では、ユニバーサル園芸社の植物を取り入れたワーキングスペース「CROSS LAB.(クロスラボ)」を設置し、働きやすい職場環境を整えている(右)