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100年経営対談
100年経営対談
成長戦略を実践している経営者、経営理論を展開している有識者など、各界注目の方々とTCG社長・若松が、「100年経営」をテーマに語りつくす対談シリーズです。
100年経営対談 2024.12.02

現場体験から顧客課題を解決し続けるグリーンイノベーションカンパニー オーレック 代表取締役社長 今村 健二氏

草刈機の開発メーカーとして国内トップシェアを誇るオーレックグループは、売上高223億円、従業員数444名の中堅企業として成長を続けている。日本初の農機具を開発し続けてきた背景には、顧客課題を現場で解決し続けてきた経営力がある。ビジョンに「グリーンイノベーションカンパニー」を掲げ、草刈機・農具製造業から“有機農産物普及業”という価値創造へと挑んでいる同社の未来図について、オーレック代表取締役社長の今村健二氏に伺った。

 

戦後の創業時から、世の中にないものを誰よりも先に開発

若松 オーレックグループは、優秀中堅企業として草刈機を筆頭に多様な製品を展開する農業機械メーカーです。中でも草刈機は国内トップシェアを誇ります。タナベコンサルティンググループとの長年の経営コンサルティングや人材育成などでのご縁に感謝します。2024年に創業76年目を迎えられましたが、創業の原点や経緯についてお聞かせください。

今村 タナベコンサルティンググループから多くを学び、実践してきました。こちらこそ、いつもありがとうございます。当社は、私の父である今村隆起が1948年に大橋農機製作所を創業したのが始まりです。第二次世界大戦の終戦時、父は20歳になったばかり。戦地に出征することなく、海軍基地から福岡県の実家に戻って3年ほど農業をしていましたが、終戦後の混乱を目の当たりにして、「もっと世の中の役に立たないといけない」と一念発起して農機具を作り始めました。資金も設備もない中、最初は水田に水をくみ上げるポンプを製造。その後、簡易的な動力脱穀機や小型製縄機を作り始めました。

若松 終戦後の食料不足は深刻でした。少しでも農業を助け、食料を多く供給するための機械・器具の製造をスタートされたわけですね。今村社長がご入社されたのはいつごろですか。

今村 私は東京の大学を卒業してすぐに入社しました。実は、パイロットになりたかったのですが、オイルショックと重なって航空会社がパイロットの採用を停止しており、断念しました。

当時の社員数は50名ほど。売上高は約8億円だったと記憶しています。九州では大橋農機ブランドの農業機械を販売していましたが、関門海峡を渡る本州や四国などへはOEMブランドとして出荷していました。売上高比率で言えば、半分以上がOEM製品で、九州限定のローカル農機具メーカーといった位置付けでした。

若松 農業機械なので地の利を生かして地元からスタートし、遠方へはOEMで供給されていたのですね。会社の成長過程としては、家業から企業へと脱皮を図っていた段階です。今村社長は工学部出身ですが、入社後は技術部門に配属されたのですか。

今村 いいえ。技術者は既にいたため、佐賀県と長崎県の営業を担当することになりました。来る日も来る日も営業に回っていましたが、次第にこのまま地方で人生が終わってしまうのではないかと不安になりました。

常々、当社がさらに発展するには、販路拡大と全国から「売ってほしい」と言われる製品開発が必要だと考えていた私は、父に「全国へ販路を拡大したい」と直訴しました。父からは反対されましたが、後々に聞いた話では内心、期待していたようです。反対されるとムキになる私の性格を知っていて、わざと反対したのだと思います。

失敗を繰り返し草刈りの神髄を知る

若松 なるほど。「販売なくして経営なし」と言っても過言ではありません。後継経営者として、販売から学ぶプロセスは大切です。顧客の声と現場を知ることから商売は始まりますからね。そして、製造、開発と経営の本質を経験していくわけです。「全国へ販路を拡大したい」という直談判は今村社長らしいですね。しかも先代は、今村社長の負けん気を理解した上での反対だった、と。

今村 その通りです。父から「やれるものならやってみろ!」と言われ、すぐにトラックを走らせて関東に行きましたが、簡単に相手をしてもらえるはずもありません。腹をくくって、埼玉県熊谷市に小屋を借りて事務所を開き、ローラー作戦を展開しました。名簿に載っている関東エリアの販売店を全て回り、会社の安定性や将来性などを基準に、私なりにA・B・Cにランク付けした上で、Aランクの店に対して重点的に営業をしました。

しかし、2年半は鳴かず飛ばずで、やっと売れても不具合だらけ。九州仕様の製品は土地に合わない部分もありましたし、品質面も改善すべき部分が多々ありました。

若松 ある意味で製品を仕入れ、独自で販路開拓をする、今でいうスタートアップ企業のような経験ですね。現場主義・現場体験の原点を感じます。それにしても、不良が多くあったとは今のオーレックグループからは想像できません。

今村 ある時、父の指示で、本社が開発した草刈機の試作品を販売したところ、販売した草刈機が次々と壊れました。私はもともと技術者ですから、壊れるたびにお客さまのもとに行って製品を回収し、修理する毎日。しかし、それが良かった。修理してテストする繰り返しで草刈りばかりしていましたが、そのうちに草刈りの神髄が見えてきました。

若松 私は多くの日本一企業の経営コンサルティングを手掛けてきましたが、全てに共通しているのは徹底した「顧客中心主義」でした。顧客を安易に祭り上げる一番主義ではなく、顧客を組織(販売・開発・製造など)の中心に置いて徹底的に研究、改良し、組織で治療するように向き合う経営姿勢です。

今村 共感します。壊れる原因が見えた私は図面を引き、草刈機を改良していきました。すると、性能が格段に向上。その図面を本社に送ってサンプルをつくってもらい、早速お客さまのところに持っていくと即決で購入してくださいました。

ただ、サンプルの1台しかなかったので、それを持って営業に回らないといけません。本当は売りたくなかったのですが、「どうしても売ってほしい」と言われて最終的に根負けしてしまいました。

若松 今村社長の成功体験ですね。入社後に誓った「売ってほしいと言われる製品」を開発されました。ただ、サンプルがないと営業は困りますね。

今村 途方に暮れたのもつかの間、すぐに草刈機の注文が入ってきました。実は、サンプルを購入されたお客さまが、「良い製品だ」とさまざまな人に自慢してくださったそうです。そこから一気に売り上げが上がり、東京により近いさいたま市大宮区に3階建ての自社ビルを建設するほど成長しました。福岡県を出て3年半後のことです。

若松 良い製品を起点としたクチコミであり、まさにスタートアップ、起業家スピリットです。その草刈機が、今やオーレックグループの主力製品になっています。事業経営のお手本のような実践ストーリー(物語)ですね。

顧客中心主義の開発でヒット商品を連発

若松 今村社長は、その後も顧客中心主義の開発スタイルで業界初の製品を次々と開発されました。

今村 埼玉県時代に開発したのが雑草・小笹こさきまで細かく粉砕する「BULL MOWER(ブルモアー)」。次に、福岡県で自ら図面を引いて試作し、量産直前まで手掛けた、草刈り・耕運・集草などさまざまな作業に対応する「BIRDIE(バーディー)」が一世を風靡。他にも、「WING MOWER(ウイングモアー)」や「RABBIT MOWER(ラビットモアー)」「SPIDER MOWER(スパイダーモアー)」は私が発案して開発しました。

若松 どの製品も顧客を中心に置いて、徹底した現場主義と課題解決(治療)型製品によって多くのヒット商品を世に送り出し、会社も急成長を遂げました。新しい製品と新しい販路という道なき道を切り開く、強いパイオニアスピリットを感じます。

今村 埼玉県から福岡県へ戻ったのが30歳。その6年後の1988年に社長に就任しましたが、当時の全社売上高は約27億円でした。

業界初の製品を開発する一方、国内にも拠点を増やしていた時期。それに加えて海外展開として新規開拓に積極的に取り組んでいました。非常に多忙でしたが、そのかいあって社長就任から36年目を迎える現在、売上高は223億円になりました。

若松 入社時の念願だった製品開発と販路開拓を見事に実現した結果として今につながっています。開発する人は販売に疎く、販売する人は開発に弱いのが常です。今村社長はこの2つを持ち合わせていらっしゃる。農家の課題をよく知っており、技術者だから図面に起こして改良もできるため、製品の性能も非常に高い。ヒットするのも納得です。製品開発に当たって何か開発ポリシーはありますか。

今村 「世の中に役立つものを誰よりも先に創る」。この創業の精神はしっかりと受け継がれています。加えて、埼玉県での経験から自分なりの座右の銘を思い付きました。「百聞は一見にしかず」ということわざがありますが、私の経験からすればインターネットの情報や雑誌を100回見ても何も分からない。それよりも、1つの体感が大事だと思います。それが「百見ひゃっけん一感いっかんにしかず」という精神です。

私自身、たくさん苦労をしたから草刈りに日本一詳しくなりました。斜面の草刈りは本当に大変です。実際にその大変さを体感したからこそ、日本初のあぜ草刈機を開発できたのです。現場に出向き、お客さまと語り、実際に苦しさや大変さ、そして楽しさを体感することが、良い開発につながると私は考えています。

ですから、社員には現場に行くことを推奨しています。「旅費交通費や研究開発費を使いなさい」と伝えていますし、特に製品開発を担当する新入社員には、必ず農業体験をしてもらっています。

若松 「百見は一感にしかず」は良い言葉ですね。現代のデジタル社会の企業経営にこそ必要な原則です。私も日頃から「現場主義」の重要性を繰り返し社員に伝えています。オーレックグループがトップメーカーであり続ける理由がよく分かります。


あぜ刈機シリーズの1つである「WING MOWER(ウイングモアー)」。あぜ道の上面・側面を同時に草刈りでき、肩掛式の草刈機と比べて大幅に作業時間を短縮