メインビジュアルの画像
研究リポート
物流経営研究会
”物流は世の中を支えている”にもかかわらず、他業種と比較して長時間労働、低賃金です。第7期は高収益ビジネスモデル、人財確保・デジタル化への取組を全6社と参加企業から学びます。
研究リポート 2025.09.03

浜松倉庫が取り組むサプライチェーン最適化支援 浜松倉庫

【第6回の趣旨】
物流は社会インフラとして極めて重要な役割を担っているにもかかわらず、その重要性が十分に認識されていない。このため、物流業界では人手不足が深刻化し、「物流が機能しなくなる」という危機が指摘されている。
さらに、カーボンニュートラルや事業継続計画(BCP)への対応、原材料費の高騰といった経営課題の解決にも、物流は大きく資することができる。しかし、物流機能や物流事業者単独での改善には限界がある。そのため、物的流通、ロジスティクス、サプライチェーンといった広い視点で、着荷主を含む荷主や関係者が一体となり、それぞれの立場で担うべき役割を再考する必要がある。持続可能な物流の実現には、過去から続く商習慣を見直すことが不可欠である。
第9期物流経営研究会では、「商習慣の見直しは喫緊の課題」をテーマに掲げ、視察企業や講義を通じて「ビジネスモデルの変革」に関するヒントを発信。「デジタル化」「環境対応」「採用」「育成」などの課題解決に向け、参加企業が学び合い、成長する場を提供している。
最終回となる第6回では、浜松倉庫の都田流通センターを視察。取締役の伊藤浩嗣氏と所長の鈴木勉氏に同センターの説明を受けた後、同社が運営するレストラン「マイン・シュロス」にて、代表取締役社長の中山彰人氏に講演いただいた。

開催日時:2025年7月30日~31日(浜松開催)

 

浜松市の製造業を支える物流インフラ

 

1907年設立の浜松倉庫は、静岡県浜松市に本社を置く、創業118年の老舗物流企業である。同社は倉庫業・通運業・貨物運送業・不動産賃貸業・レストラン事業などを手掛け、地域に根ざした多角化経営を行っている。従業員数は125名で、正社員比率は85%を超え、平均年齢は34.8歳。倉庫面積は約7万6000㎡、トラック保有台数は11台で、浜松市の製造業を支える物流インフラとして重要な役割を果たしている。

 

中山氏の講演では、同社が取り組む「女性活躍」「DX」「業務改革」の3つのテーマを軸に、地域の中小企業が持続可能な成長を遂げるための実践的な戦略が紹介された。中山氏は「Dは手段、Xが目的」と述べ、単なるIT導入にとどまらず、企業文化や働き方の変革を重視する姿勢を強調した。

 


浜松倉庫の都田流通センター。2025年8月現在、この倉庫のほかに、もう1つの倉庫建設を進めている

 


 

女性活躍の推進と職場環境の改善

 

浜松倉庫が女性の雇用に本格的に取り組み始めたのは、20年前、少子化による高校新卒採用の難化がきっかけであった。従来の採用手法では人材確保が困難になる中、女性の正社員採用を積極的に進めた結果、2023年時点で女性採用率は66.4%、現場(フォークリフトオペレーター)における女性比率は54.5%に達している。

 

物流業界は男性の従業員比率が高い傾向がある中、同社はこの構造を変えるべく、制服や作業環境の見直し、安全性の高い設備の導入など、性別に関係なく働きやすい職場づくりを進めている。

 

具体的には、男性向けだった作業着や備品を見直し、誰もが使いやすい仕様に統一したことが、最も象徴的な変化である。また、女性従業員が自ら課題を提起し、改善提案を行う文化が根付き、現場主導の意識改革が進んでいる。

 


採用難から必然的に強化された女性採用。女性が働きやすい環境を整備したことで、女性の採用が困難な物流業界で高い女性採用率・従業員割合を維持している

 

DXによる業務改革と若手主導の変革

 

浜松倉庫は、2015年から4期に分けて段階的にDXを進めた。若手社員を中心に、業務の効率化、営業力強化、品質向上を目的とした業務改革を推進。新システムの検討から導入までを自社主導で行い、ペーパーレス化、バーコード管理、全倉庫の無線LAN化などを実現した。これにより、入出庫のリアルタイム管理が可能となり、誤出荷の削減や品質向上につながっている。

 

さらに、FAXレスや固定電話レスといった「レス化」も進め、事務職のテレワークやフリーアドレスを実現。データの入力・照合業務から分析業務へのシフトが進み、従業員の役割も変化した。DX認定の取得や新倉庫プロジェクトへの人員活用など、具体的な成果も出ており、中小企業が実現可能なDXの成功例となっている。

 


浜松倉庫のDXの4フェーズ。他社に先駆け2015年から段階的に実施し、若手社員を巻き込んで、将来を見据えた改革を行った

 

人材育成と組織改革による持続可能な成長

 

同社は、DXと連動した人材育成と組織改革を進めている。事務職は、従来の入力業務からデータ分析と改善提案へ役割を転換し、BIツールを利用した業務分析アプリも社内で開発。実務に基づく提案を営業部門と連携して行う体制を整えた。

 

また、DX研修は5段階で構成され、スキルと評価制度が連動。個人の成長が可視化され、モチベーション向上につながっている。人事制度としては、地域企業との比較を踏まえた賃金カーブの見直し、有給休暇の取得促進、子育て支援制度の拡充、男女平等の評価制度などを整備。働きやすさと公平性を両立する仕組みを構築している。

 

人材育成を経営の中心に据えた同社の姿勢が、経営の持続可能性を支えている。


浜松倉庫の人事制度の見直し。採用難が加速することが予想される中、ES(従業員満足度)向上とDXにより生産性を高めることで、持続的な成長を目指している

PROFILE
著者画像
中山 彰人 氏
浜松倉庫株式会社 代表取締役社長