【第9期 研究会の趣旨】
物流は社会インフラとして重要な役割を担っているにもかかわらず、その位置付けが十分に高まっていない。このため、物流事業従事者の不足が深刻化し、「運べなくなる」という問題が指摘されている。
さらに、カーボンニュートラルへの対応や自然災害を含むBCP対応、原料高騰といった経営課題の解決にも物流は大きく関与している。しかし、物流機能や物流事業者だけでは単独での改善には限界がある。そのため、物的流通、ロジスティクス、サプライチェーンと視点を広げ、着荷主を含む荷主や荷主も一緒になって、それぞれの立場で担うべき役割を再考し、過去からの商慣習を見直すことが、持続可能な物流の実現に必要不可欠である。
第9期物流経営研究会は「商習慣の見直しは待ったなし」をテーマに、視察企業や講義を基に「ビジネスモデルの変革」に対するヒントを提供。また、「デジタル化」「環境対応」「採用」「育成」などの課題解決の糸口となるよう、参加企業が学び、高め合う場としている。
第2回は、サミットの執行役員で一般食品部・デイリー部・家庭用品部・グロサリー業務部・物流部担当兼物流部マネジャーの武田哲志氏より「SM物流研究会」の持続可能な食品物流に向けた取り組みと、新砂物流センターについて講演いただいた。
開催日時:2024年12月5日~6日(東京開催)
はじめに
サミットは、東京を中心に神奈川・埼玉・千葉でスーパーマーケット「サミットストア」を123店舗(2024年12月現在)展開している。同社は、米国の大手スーパーを運営するSafewayの指導により設立され、現在は住友商事の完全子会社である。
サミットが目指すのは、顧客も地域社会も取引先も、そして働く社員も「みんながワクワクするスーパーマーケット」である。顧客が楽しいと思える場所を提供するだけでなく、経営理念である「嘘のない仕事」を通じて、一人一人に寄り添う空間を提供している。
同社は、2023年に大手スーパー4社(サミット、マルエツ、ヤオコー、ライフコーポレーション)で「SM物流研究会」(当時は「首都圏SM物流研究会」)を発足。「2024年問題」をはじめとする物流危機を回避し、各社の協力による物流効率化策を研究・検討する取り組みを行っている。今回は、サプライチェーン全体の最適化に伴う、商習慣の見直しの取り組みについて講演いただいた。
出所:サミット講演資料
サプライチェーン全体の物流を効率化
物流の「2024年問題」が目前に迫った2023年、このままでは近い将来にスーパーの荷物の約3割が運べなくなるという危機感から、日本スーパーマーケット協会の会長・副会長を輩出する前述の4社が「持続可能な食品物流構築に向けた取り組み宣言」(右上)を行い、 SM物流研究会を発足。物流分野を「競争領域」ではなく「協力領域」と捉え、サプライチェーン全体の効率化につながる施策の検討に着手した。2024年12月現在、参加企業は首都圏エリア外の企業も含めて19社に拡大し、全体会(SM物流研究会)とエリア部会(首都圏SM物流研究会)の2部体制で、さまざまな取り組みを行っている。
SM物流研究会では、「持続可能な食品物流に向けた取り組み宣言」の4項目と「バース予約システムの導入」「パレット納品の推奨」を実施済み、もしくは取り組み予定であることが新規参加条件となっている。また、これに加え、「トップコミットメント」は必須となり、同研究会の取り組みをトップが理解し、賛同することを条件としている。
SM物流研究会には、メーカーや卸売もオブザーバーとして参加し、製・配・販全体で物流課題の解決を図っている
約97%のトラックが荷待ち2時間以内を達成
SM物流研究会の主な取り組みは、「荷待ち・荷役作業等時間」の削減である。実際の成果として、バース予約率の向上や「バラ積み」から「パレット積み」への移行を推進することで、直近では約98%のトラックが「荷待ち・荷役作業など2時間以内」を達成している(当初、計測を開始した10社の実績) 。
2024年度には4つの分科会を設置し、パレット納品の拡大、SM間での共同配送や各社の空き車両の有効活用、生鮮・チルド物流の課題解決に向けた取り組みを行っている(右図)。相手の困り事を理解した上で、共に改善していくことを前提に、製・配・販が連携することを大事にしている。
スピード感をもって取り組みを進めるため、項目別に分科会を設置している
新砂物流センターの設立と効率化
本研究会で視察したサミットの新砂物流センターは、コールドチェーンの品質強化や一次加工のサポートを行い、持続可能で環境に配慮した物流の構築を目指して設立された。同センターの50km圏内にほぼ全店舗がプロットされており、124店舗に対応している。
同センターでは、入荷受付システム(N-Torus)やマテハンシステムの活用、TMSを用いた配送管理、店舗配送用トラックに「冷凍+冷蔵」の2室車両を導入するなど、さまざまな取り組みにより、品質管理や配送効率の向上、作業効率の改善を実現している。
サミットは、社員や顧客、取引先など全ての関係者に「幸せ」を感じてもらうことをビジョンとして掲げており、その実現のために、同社のSM物流研究会や新砂物流センターでの取り組みによる業界全体の最適化を進めている。
同様の課題を抱えながらも商習慣の見直しが進んでいない業界は、数多く存在する。同社やSM物流研究会の取り組みは、非常に参考になるだろう。
サミットの新砂物流センター(東京都江東区)。外国人比率は約43%と、多くの外国人雇用を生み出している

一般食品部・デイリー部・家庭用品部・グロサリー業務部・物流部担当兼物流部マネジャー