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研究リポート
新しいものを生み出す組織カルチャー研究会
ビジネスモデルや組織の変革が求められる現代において、人材価値を見直し、その価値を最大限に引き上げイノベーションを起こすことは必須の経営技術です。成長発展の足掛かりとなる「新しいものを生み出す組織カルチャー」を研究します。
研究リポート 2025.04.10

自ら学び、成長する組織のつくり方 TSK

【第6回の趣旨】
今期の最後となる第6回は、富山県富山市にて、タナベコンサルティングのHR3研究会(人的資本研究会・人材育成研究会・新しいものを生み出す組織カルチャー研究会)合同で開催。「キャリア自律とそれを支える強い組織のつくり方」をテーマに、企業視察・講演を通じて、組織改革や人材の力を引き出すエッセンスを学んだ。
プログラムの最後には、3研究会・計50名ほどの参加者同士で情報共有を行い、各研究会の取り組みを総括して、今期の活動を締めくくった。普段よりもさらに幅広い交流により、他研究会視点での学びも得られる貴重な機会となった。
開催日時:2024年12月17日(北陸開催)

 

 

TSKの代表取締役社長・高木亮太氏。同社の代表取締役会長・高木悦郎氏、HR部部長・角出哲也氏にも、講演と視察をアテンドいただいた

 

 

提供価値を「包装」から「物流の最適化」へ進化

 

1939年に富山県富山市で創業したTSKは、産業用包装資材とマテハン機器の設計・製造・販売を手掛けている。祖業は「紙袋屋さん」だったが、需要の変化に対応し、1993年から物流包装の設計を開始した。試行錯誤の中で、「包装を売る」ことではなく、「物流を最適化するためのモノの動かし方の具現化」が自社の提供価値であると定義した。

現在の社名は、旧社名「富山製袋」から1998年に変更されたものであり、「(T)とっても(S)すてきな(K)会社」と読み替えるユーモアある社風が特徴である。

同社が2005年ごろから継続している改善活動は、先進的な取り組みとして広く知られ、2018年には、改善活動で付加価値を生み出している企業として中小企業庁「中小企業白書」に取り上げられた。ベトナムの子会社でも改善活動を行っており、ローマ字表記で“KAIZEN”という愛称を用い、ブランディング戦略として展開している。

 


はきはきと分かりやすく、改善提案について説明するTSK社員


 

社員の創意工夫を引き出すKAIZEN活動が、顧客への提案力に

 

ものづくりの現場では、「指示された仕事はこなすが、創意工夫が生まれにくい」という悩みが多い。そのような風土を変えるために業務改善に取り組む企業は少なくないが、TSKのKAIZEN活動は、製造現場で働く社員の創意工夫を引き出し、さらには顧客への提供価値向上にもつながっている点で特筆すべき取り組みである。

「(KAIZENは)1人月4件以上」のルールは存在するが、やらされ感はない。本研究会の工場視察では、自分たちの視点での創意工夫の成果を、現場の社員が分かりやすく、しかも生き生きと話す様子が印象的だった。フラットに相談できる環境から多くの新しいアイデアが生まれ、共に試行錯誤していく組織文化が感じられた。

TSKの事業は「物流改善」であり、KAIZENは同社の本業の価値向上にも直接貢献している。年間2500件の改善提案は大小さまざまだが、数多くの改善の積み重ねが提案力につながっており、顧客満足度調査においても、その点で高い評価を得ている。

 


最新の優良KAIZEN(社長賞・優良賞)は工場の入口付近に掲示される

 

 

 

トップがコミットし続ける覚悟とモチベーションアップの仕組み

 

KAIZENの取り組みが20年にわたって続いてきた背景には、「トップのコミットメント」と「継続を支える仕組み」がある。

繁閑の波があっても、出張が入っていても、必ず改善提案に目を通し、月2回の表彰式のペースは崩さず、ベスト8入賞提案については、高木氏が現場を訪れて直接コミュニケーションをとる。トップの参画が活動の価値を担保し、互いに褒め合う社内文化が根付き、モチベーション向上の善循環が生まれている。

さらに、近年は「ファクトリースタディーツアー」と銘打ち、他社の視察も積極的に受け入れている。自身が提案した改善策を発信し、見学者と交流することが、新たな刺激ややりがいにつながる施策である。

こうした取り組みの一方で、アプリでの提案提出やウェブでのデータ管理など、デジタルによる利便性の向上も図っている。制度運用を継続する上で重要なポイントと言えよう。

 


工場見学とワークショップを行う、約3時間の体験型プログラム「ファクトリースタディツアー」
出所:TSK講演資料

 

 

 

「共創」を土台とした自由度の高い仕掛け

 

高木氏は「共創」をテーマに掲げている。その言葉通り、仲間と共に学び合い成長できる組織風土がTSKの特徴であり、魅力でもある。

人材の成長を支える機能として、「わくわくLIFE」と呼ばれる学習の場・機会・仕組みづくりのフレームがある。例えば、勉強会を行うにしても、知識・スキルを身に付けることよりも、刺激を与えること、変化を起こすことに主眼を置いている。

そのため、社内横断メンバーによるプロジェクトや委員会が勉強会を実施する際も、社員が講師となり、対話やアウトプット重視の取り組みを行っている。勉強会以外にも、改善活動やシステム関連の相談窓口、夏休み子連れ出社などの企画が生まれている。その他、アカデミー(企業内大学)なども活用しながら、社員一人一人の個性を生かし、学び合い、成長・変化を促す仕掛けが機能し、共創する組織を支えている。

 


社員が主体的に多様な勉強会や交流会を企画・開催する「わくわくLIFE」
出所:TSK講演資料