成長可能性のある事業分野へ投資し、建築土木業界で築いた強みのシナジーを成長エナジーに変えるM&A戦略が、確かな成果を生み出している。
コンドーテック 代表取締役社長 濵野 昇氏(左)、専務取締役 管理本部長兼SDGs推進室長 矢田 裕之氏(右)。襟元に光るバッジは、4月開幕のEXPO2025(大阪・関西万博)の「催事パートナー」の証しで、各種イベント実施を支援している
「変わる」「変える」を体現するM&A
建築土木から船舶、電設まで建設・鉄構・産業資材の「メーカー機能を持つ商社」として、上場以来、減配なく、直近では13期連続増配の東証プライム企業がコンドーテックだ。
「当社の歴史は、『海から陸へ』です。船舶用金具の艤装品からスタートし、陸に上がって建築土木の多様なインフラ関連事業へと、その時々のニーズに応え、成長可能性を秘める領域に手を広げることで成長してきました。可能性がある以上は挑戦しない選択肢はなく、突き詰めていくのが企業文化です」
そう語る代表取締役社長の濵野昇氏は、長期ビジョン「VISION2040」を旗印に、売上高3000億円と収益性や企業価値の向上を目指す。その成長エンジンとして推進するのがM&A戦略だ。グループ企業は9社に増え、直近10年でグループ売上高は1.6倍(768億円)に伸びた。
「2040年から逆算して、まず2020年代に1000億円達成を目標に掲げていますが、既存事業のオーガニック成長だけでは難しく、M&Aなくしては実現できません。単なる売り上げの足し算でなく、掛け算に変えるM&Aを推進しています」(濵野氏)
VISION2040達成への「約束」として2つのキーワードがある。「変わる」と「変える」だ。この2つのキーワードは、持続的成長と付加価値向上に向けて、前者は自らが「変わる」ための機能強化・基盤整備、後者は社会インフラを「変える」ためのオーガニック成長や周辺強化による成長を加速することを示すものであり、その手段の1つに事業との掛け算となるシナジー発揮が見込めるM&Aがある。
同社は、事業シナジーを発揮して成長ストーリーを描き出す強みを持っている。多様な仕入先と自社工場の供給力による「仕入力」、豊富な商材と専門営業力の「販売力」、設計から工事までトータルサービスの「グループ総合力」だ。
その強みを掛け合わせるために、特に成長可能性のある分野へのM&A投資を重視。2025年の年頭に、強みのシナジーを成長エナジーに変えるスローガン「シナジーはエナジー!」を社内外に発信した。
「単に資材(モノ)を売るだけでなく、足場施工(コト)も手掛けて、モノとコトをミックスした事業を展開できるのが強みです。それを生かすには、既存事業と重なるところがあって、成長可能性もある隣接業界と協業するのが、最良の選択肢です。
考えているだけでは先に進めません。M&Aに限らず、新商品開発や年間1500社超の新規取引先開拓も同じです。だからこそ、社員にはいつも『まずはやってみよう』と伝えています」(濵野氏)
維持修繕、省人化・省力化に挑む
コンドーテックのM&A戦略の始まりは、リーマン・ショックの逆風に立ち向かう2010年に、M&Aブーム到来に先駆けて電設資材卸売の三和電材を子会社化したことだ。
「建物づくりには建築資材だけでなくエアコンや照明などの電材も必要です。隣接業界でシナジーが生まれやすい三和電材と一緒になった影響は大きかったですね」(濵野氏)
シナジーは、時流の追い風を受け、想定を上回る成果を生み出した。太陽光発電ブームが到来し、発電パネルは三和電材が供給、パネルを載せる架台はコンドーテックが鉄構・産業資材の鉄骨やパイプを供給して組み上げることで、一気に協業が進んだ。
また、約2万社ある取引先の多くが工場や倉庫を保有し、太陽光発電設備やLED照明、空調機器の提案から据付までのトータルサービスを確立、拡充。買収時に約60億円だった三和電材の売上高は2024年3月期に100億円を突破した。
「ブームで一気に火が点き、大きなシナジーが生まれたため、M&Aを実施するならシナジー優先、という流れができました」と振り返るのは、M&Aの推進役を担ってきた専務取締役の矢田裕之氏だ。三和電材を成功モデルに、成長可能性とシナジー発揮が見込める企業にM&A投資の照準を定めていった。
次のM&Aターゲットとなった業界は、足場材を販売供給する、建築土木現場の仮設足場架払工事業だ。2019年の東京・テックビルドを皮切りに、静岡・東海ステップ、宮城・フコク、北海道・上田建設の4社を子会社化した。
2021年には、足場工事セグメント各社を統括する中間持ち株子会社・日本足場ホールディングス(以降、足場HD)も設立。足場工事セグメントはグループ売上高の11%(87億円)を占め、100億円企業の仲間入り目前にまで成長を遂げている。
「高度成長期に建設された社会インフラの老朽化が進む中、つぶして新しく建てるよりも、いかに維持修繕して使い続けるかが社会課題となっています。その時に、足場の資材と施工は不可欠なものですし、どちらも手掛けるグループ事業には大きなチャンスです」(濵野氏)
他にも、2012年に海外子会社をタイに設立し、成長するASEAN(東南アジア諸国連合)市場への販売と、現地製品の輸入販売やOEM供給の拠点として海外展開を始動した。
2014年には、工場設備の省力化機器メーカー・中央技研を子会社化。「省人化、省力化」をキーワードに自社製造設備へ導入し、社外にも拡販した。さらに2021年、アルミ押出形材の開発加工メーカー・栗山アルミもグループインした。
「建築土木業界は人手不足と高齢化が顕著で、人数はピーク時の3分の1に減り、その3分の2が55歳以上です。鉄構資材は重く負担が大きいので、鉄の3分の1の重さのアルミ製角パイプなど新商材を開発しています。当社の商流には約5000社の仕入先と2万6000社の販売先や協力会社があり、アルミ製品の開発コラボレーションなど着実にシナジーが生まれています」(濵野氏)
相次ぐM&Aでもう1つ、グループシナジーを高めるために重視したことがある。「全国展開するコンドーテックのネットワークを生かし切り、子会社の事業展開にメリットがあり、給与アップや週休2日など待遇面でも社員が満足すること」(矢田氏)だ。
足場工事セグメントでは、事業エリアの違いに加え、戸建てやマンション、プラントに橋梁など技術的な得意分野が異なることも決め手になった。互いの技術・人の交流が進むことで、利益率の高い仕事へとシフトしやすくなり、現場へ人材を供給し合い人手不足を理由に失注するチャンスロスも減少した。
2022年からコンドーテックを含む8社が合同で、各社の成長とグループシナジーの創出を考えるグループ研修会を開催。また、足場工事セグメントでは、将来的な経営統合も見据え、システム統合や帳票の共通化も推進している。その1つずつがシナジーの種となり、実りある収穫へとつながっている。
PMI後の評価でも「協業」は不変のものさし
15年にわたるM&Aの推進で、コンドーテックの事業ポートフォリオは「産業資材・鉄構資材・電設資材・足場工事」の4つのセグメントに拡大。それぞれが成長エンジンとなるだけでなく「シナジーをどう起こすかを検討するベース」(濵野氏)として、4つの視点(【図表1】)でM&A戦略を推進する。さらに、シナジーを生かす循環型「トータルサポートサービス」(【図表2】)でグループ総合力を発揮する未来図も描き出した。
【図表1】M&A戦略の「4つの視点」
出所 : コンドーテック「統合報告書2024」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
【図表2】グループシナジーを生かしたトータルサービス
出所 : コンドーテック「統合報告書2024」よりタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
「足場を組み、産業資材・鉄構資材を販売し、電設資材も納入して、将来の維持修繕でまた足場を組んで…と、循環サイクルで持続的な成長を遂げる姿です。全く異なる事業分野の100億円企業を買収して目先の業績を上げるよりも、周辺事業の数億円企業を小さく買い、大きく育てるように。シナジーが生まれないM&Aは、これからも行いません」(矢田氏)
M&Aの相手先企業を「見極めるものさし」は、PMI(経営統合)も不変だ。グループ子会社との「協業」を明確な目標に位置付け、営業店の評価項目の1つに加えている。
「評価対象である協業へのモチベーションが高まり、営業同行も始めて成果に表れています」(濵野氏)
シナジーが生まれる「仕掛け」は、強みの付加価値だけでなく弱みも補完し、プラスとマイナスの双方向で互いを刺激し、切磋琢磨し合う力にもなる。グループ共通の会社案内も制作し、営業活動で活用。社員のシナジー意識をより高め、ゼネコンなど提案先にもグループ総合力を可視化して存在感を高めている。
2025年秋には9階建ての新本社ビルが竣工予定だ。セグメントの違いを越えてグループ企業の在阪拠点を集約し、よりスムーズなコミュニケーションと情報共有が可能になる。また、グループ企業価値や存在感の発信拠点としてブランディングや採用活動にも好影響を与える顔にもなっていく。4月には環境エネルギー分野の新規事業も本格始動。国が積極支援する洋上風力発電には大きな成長可能性がある、と濵野氏は力強く語る。「数字化できるのはまだ先の話ですが、可能性がある以上は突き詰めていきます」(濵野氏)
JR名古屋駅から東京へ向かう新幹線の車窓には、栗山アルミ本社屋上の鮮やかな緑色の「コンドーテック」の社名看板が現れ、認知度向上に貢献している。M&Aによるシナジーは、事業や人材にとどまらない「想定外の可能性」にも満ちている。
コンドーテック(株)
- 所在地 : 大阪府大阪市西区境川2-2-90
- 創業 : 1947年
- 代表者 : 代表取締役会長 近藤 勝彦、代表取締役社長 濵野 昇
- 売上高 : 768億7300万円(連結、2024年3月期)
- 従業員数 : 1373名(連結、2024年3月現在)