2010年代に到来したM&Aブームは、コロナ禍後も成長投資に意欲的な企業ほど
重要戦略に位置付けており、今やM&Aは企業にとって当たり前の選択肢になっている。
今後も政府による事業承継支援策を追い風に、地域経済を担う中小企業がM&Aによる
イノベーション創出や生産性向上で成長力を高め、日本経済全体の推進力となる期待が高まっている。
成長投資で業績向上増える中小企業のM&A実施件数
成長する企業は、どうやって時流や経営・事業環境の変化を乗り越えているのか。直面する課題を解決し、経営資源の確保や分配の最適化、生産性・競争力の向上につなげるためには、新陳代謝を促す「成長投資」が有効であることが、中小企業庁「2024年版 中小企業白書」から見えてくる。 中小企業白書では「新たな需要を獲得するための行動」「付加価値を高めるための行動」を経営方針に掲げる企業を「成長投資に意欲的な企業」(以降、成長投資企業)と定義し、2023年までの投資意欲の変化を比較。「成長投資行動をするべき」と回答した企業は88.4%に達し、2020年の63.2%から大幅に増加した。 その理由は「利益を上げるため」が最も多く(71.3%)、「賃上げ等により従業員の生活を豊かにするため」(58.8%)が続いている。変転し続ける外部環境に適応し、業績向上の実現とともに事業の安定的な持続や雇用維持、報酬・働き方改善など社員への還元も重視することで、投資意欲が高まっていると言える。 また、業績との相関性も数字に表れている。成長投資企業は、売上高・経常利益・労働生産性の全ての変化率をプラスに伸ばし、業績向上につなげている。一方で、成長投資に消極的な経営方針の企業はいずれもマイナスポイントとなり、現状維持も難しい状況にある。 こうした成長実現のための積極投資の選択肢として、人・設備・イノベーションを起こす研究開発・市場開拓の海外展開・デジタル刷新のDXなどともに、重要度を増すのがM&Aである。レコフデータよると、国内企業のM&A件数は2024年に過去最高の4700件を数えたという。 また、中小企業基盤整備機構によると、中小企業のM&A相談・マッチング支援機関「事業承継・引継ぎ支援センター」でも、相談数と第三者承継に関する成約件数は、共に増加傾向にあるようだ(【図表1】)。2023年度の同センターへの相談者数は、2万3722者(前年度比106%)、第三者承継(M&A)の成約件数は、2023件(同120%)と、いずれも過去最高を記録。後継者人材バンク事業の成約件数においても94件(同196%)と過去最高になり、その登録者数は1562者(同116%)となっている。 【図表1】事業承継・引継ぎ支援センターの相談社数・成約件数の推移
出所 :中小企業庁「2024年版 中小企業白書」(2024年6月)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
1000人超企業は過半数がM&A実施
M&Aは、事業承継や人材獲得の手段であり、事業の規模拡大や多角化で相手先企業とシナジーを発揮し、競争優位性を得る成長戦略の一環と捉える、「当たり前の選択肢」に変化した。このことは、帝国データバンクが2024年12月に実施した「M&Aに対する企業の意識調査」でも明らかになっている。 買い手(他社事業を譲受・買収)や売り手(自社事業を譲渡・売却)として、過去5年間(2019~2024年)に「M&Aを実施した」企業比率は11.1%(買い手7.6%、売り手3.0%、買い手と売り手の両者0.5%)となっている。(【図表2】) 【図表2】過去5 年間(2019~2024年)の M&A実施状況と企業比率(単位%)
出所 :出所:帝国データバンク「M&A に対する企業の意識調査」(2025年1月)を基にタナベコンサルティング戦略総合研究所作成
企業規模別では大企業が25.5%、中小企業が8.4%。業界別で見ると金融業が 17.6%で最も高く、一方で農林水産業は 5.1%と全業界で唯一10%に達していない。
また、従業員数が多い企業ほどM&Aの実施比率が高く、「1000人超」が50.4%、「5人以下」は5.3%と大きな差が生まれている。特に「買い手となった」割合は「大企業」が20.4%で、「中小企業」(5.3%)の約4倍となった。
買い手が相手先に重視することは、買い手は「金額の折り合い」が 79.7%(前回調査比 3.2ポイント増)で最も多く、「財務状況」73.0%、「事業の成長性」65.7%、「経営陣の意向」56.0%、「技術やノウハウの活用・発展」54.6% がトップ5を占める。売り手は雇用維持など「従業員の処遇」が78.7%(同0.4%ポイント)で最多となり、買い手の同項目25.4%を大きく上回った。
M&A実施の相談先では「メインバンク」が53.0%でトップ、次いで「税理士事務所」35.1%、「M&A仲介業者」22.2%、事業承継・引継ぎ支援センターなど「公的機関」15.2%の順となっている。「直接交渉」も12.0%あり、「親会社」「顧問弁護士」なども挙がっている。
買い手は財務状況や成長性を、売り手は従業員の処遇を、立場によって重視することが異なると分かる。一方で「金額の折り合い」はどちらも重視している。