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研究リポート
デザイン経営モデル研究会
経営に『デザインの力』を活用して、魅力ある自社らしいブランドづくりを実践している素敵なデザイン経営モデル実践企業の取り組みの本質を視察先講演と体験で学びます。
研究リポート 2024.10.21

オリオンホテル那覇のリブランドに向けた取り組み オリオンビール

【第1回の趣旨】
デザイン経営モデル研究会では、デザインの力を「体験価値」と「自社らしさ」を創る資源の1つとして捉え、他社との差別化や高収益を実現するためのヒントを探ることを目的とする。
第3期の1回目は、オリオンビールの名護工場の視察と、オリオンホテル那覇のデザイン思考で地元を支え、共創する取り組みについて、オリオンホテル株式会社・取締役総支配人の藤井 幸(フジイ コウ)氏より学んだ。

開催日時:2024年9月19・20日(沖縄開催)

オリオンホテル那覇
取締役総支配人 藤井 幸 氏

 

 

はじめに

 

オリオンビールは、主力商品である「オリオン ザ・ドラフト」を中心にさまざまな商品を製造、販売する沖縄県の大手ビールメーカーである。

 

同社はミッションに「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」を掲げており、地域に根付いた企業として産学連携や沖縄県産素材を活用した製品を展開するなど、県外・海外へ「沖縄ブランド」を発信している。

 

中でも特徴的なのが、1975年にビールとは別の新しい価値を提供するために生まれたホテル事業の取り組みの1つ、ホテル西武オリオン(後にホテルロイヤルオリオンへ改名)の開業である。昨今では、大手ビールメーカーがホテル事業を撤退する中、同社は2023年にホテルロイヤルオリオンのリブランディングを実施。同社が手掛けるホテルであることを表現するために、また、ビールメーカーとホテル・観光業がより魅力的なシナジーを醸成することを目指し「オリオンホテル 那覇」と名称を変更した。


オリオンビールの企業ロゴ

 

 


 

まなびのポイント1:オリオンブランドの発祥

 

同社は、「戦後沖縄県の社会経済復興には第二次産業を興さなければいけない」という創設者・具志堅宗精氏の強い意志が実を結び、今では沖縄県を代表する企業へと成長を遂げた。

 

ブランド名は、「県民が育てるビール会社」を重視して、1959年に一般公募で決められた。沖縄県民に懸賞金付募集広告として新聞で公募したところ、約2500通もの応募が寄せられ、「オリオン」が選ばれたのだ。同年11月1日にはブランド名をオリオンビールに変更し、商品の生産を開始。当初は他の日本大手ビールメーカーの勢いに苦戦するが、ドイツ風ビールから沖縄県の気候を考えた米国風ビールに切り替えるとともに、県内全域で営業活動を行った結果、沖縄県内シェア1位となった。

 

それ以降、シェア率は沖縄県内で1位、全国でも5位と高シェア率を獲得している。沖縄県民のために生まれたビールは、やがて県民だけでなく、県外の多くの人にも愛されるようになった。

 


オリオンビールの代表的商品「オリオン ザ・ドラフト」は、2024年にリニューアルを実施

 

 

まなびのポイント2:地域経済発展のためのリサイクルシステム

 

オリオンビール名護工場は全てのビール商品を製造しており、隣接する「オリオンハッピーパーク」ではオリオンビールの歴史や製造工程などの見学やビールの試飲も楽しむことができる。工場見学では、オリオンビールが取り組むリサイクルシステムにも注目している。ビール製造工程において、年間約5200トンの麦芽粕が出ているが、同社はこれを100%リサイクルしている。琉球大学と連携して栽培に成功した沖縄県産大麦の肥料にこの麦芽粕を使い、そこで育てた大麦でビールを製造するという好循環を生みだしている。

 

ほかにも、麦芽粕はさまざまな用途で利用・導入されている。例えば、沖縄県のブランド黒毛和牛「もとぶ牛」の飼料や、ハタ科の高級魚で陸上養殖している「琉大ミーバイ」にも活用されている。さらに、同社のビール粕で育った魚や肉はオリオンホテル内のレストランなどで食材として採用されている。

 


オリオンビールの名護工場見学施設「オリオンハッピーパーク」

 

 

まなびのポイント3:ホテルリブランディングのポイント

 

オリオンホテル 那覇のリブランディングのポイントは、次の4つである。

 

⑴地域貢献

オリオンビールは沖縄県のリーディング産業である観光業の一端を担うことで、観光・ホテル事業を沖縄県全体への貢献事業として位置付けている。

 

⑵新しい事業の柱として注力

オリオンビールが持続的に成長を続けるためには、酒類清涼飲料以外の事業の柱を持つ必要があった。オリオンホテルは観光・ホテル事業として新しい事業の柱となるべく、グループの戦略的な事業として県外からの需要を開拓、拡大させており、オリオングループとしてのシナジーを創出している。

 

⑶オリオンビールブランドの拡張

オリオンビールは強いブランド力を持つが、さらにオリオンブランドを知ってもらうために観光・ホテル事業はブランド拡張の目的を持っている。例えば、オリオンホテル内にはオリオンブランドを体現するショップが併設されており、ECサイト限定商品として他ブランドとのコラボレーショングッズなどを販売している。

 

⑷ブランド価値を体現する場

オリオンホテルでは、オリオンブランドに触れることができる機会を創出している。例えば、客室の冷蔵庫にオリオンビールが無料で入っており、宿泊時に飲むことができる。その場で飲まなかったとしても、土産として持って帰ることで、オリオンホテルでの思い出を想起するといった効果も期待できる。他にも、併設されたレストランでは季節限定のクラフトビールを提供するなど、テストマーケティングの場としても活用している。

 


オリオンホテル外観(左)、オリオンホテル内のオリオンオフィシャルストア那覇(中央)、オリオンホテル内のレストランで提供しているオリジナルクラフトビール各種(右)