海外で実現したいことは妥協せず、貫く。
「在りたい姿」の軸さえブレなければ、伸びる可能性が高まります
海外事業の拡大にクロスボーダーM&Aを積極活用する企業が増え始めたのは、2016年ごろからだと田内氏は言う。シナジー(相乗効果)を存分に発揮できている企業は、次に挙げるクロスボーダーM&Aのメリットを自社の事業戦略に落とし込むことに成功していると分析する。
メリット1:成長市場へのアクセス
現地企業でなければ知り得ないノウハウを入手できる
メリット2:売上創出への時間短縮
中期経営計画など時間的なリミットがある中で、海外事業比率を上げたい場合に有効である
メリット3:投資額が明確
必要な投資額と、それに伴う売上高が明確なので戦略を立てやすい
メリット4:撤退時のオプション
見通しが外れた場合に売却しやすい
「具体的な成功事例としては、非日系優良顧客へのサービス提供体制をタイで確立したいという明確な目的のもと、ロングリスト※1から非上場オーナー企業を発掘し、マイノリティー投資※2で事業提携を実現したケースが挙げられます。ローカル化した事業モデルが評価され、結果的に日系企業からの引き合いも増加しました。また、将来的なアフリカ市場への進出を見据えてフランスの小規模企業を買収し、ノウハウと顧客の取り込みに成功したケースもあります。
どちらも外部からの持ち込み案件ではなく、能動的にM&Aを提案できる相手先候補を絞り込み、未来の自社の在りたい姿から逆算して、企業理念や価値観が自社に近いパートナーを探し当てたことが功を奏しています」(田内氏)
買収後のPMI(経営統合プロセス)においては、形式的に取締役を派遣して現地任せにしてしまうとガバナンス強化を図れないため、継続的なコミュニケーションが重要になる。ここで気を付けたいのは、さまざまな文化の差異を混同しないことだ。
「一言で『文化』と言っても、その国や地域の文化なのか、企業の文化なのか、それとも個人の文化なのか。丁寧にすみ分けて理解していくことが大切です。差異が表面化してきたら、互いに歩み寄りつつも、自社が海外で実現したいことに対しては妥協せず、貫く。『在りたい姿』の軸さえブレなければ、伸びる可能性が高まります」(田内氏)
単一言語・単一文化でビジネスを展開してきた企業にとって、海外進出はハードルが高いと感じるかもしれない。しかし、スモールステップでトライアンドエラーを繰り返しながら、自社なりの「海外展開の型」を磨き上げていくことが大切なのだ。
※1…M&Aを検討している企業の相手方となる候補先企業(譲渡企業から見ると買い手候補先、譲受企業から見ると売り手候補先)のリスト
※2…株式の過半数を超えない投資のこと。マジョリティー投資により経営権を渡してしまうことをためらう経営者も、マイノリティー投資なら抵抗が少ない