タナベ 竹綱 近年、クライアントのブランディングに対する意識に変化はありますか。
J3 足立 「コロナ禍でリモートワークへの転換が進むと社員のコミュニケーションが薄まり、帰属意識も低下する。そのような状況で社員をどうまとめていくか」という課題を抱える経営者が増えています。社員へのインナーブランディングを浸透させるため、社員向けウェブサイトの立ち上げや社内報の発行などを提案しています。その際に最も意識するのは、「『自分ごと』にしてもらう」伝え方です。
J3 中川 社内向けのメッセージは、社員が「これは自分たちのことではない」と感じた瞬間、意味を成さなくなります。発信者である経営陣が描く「社員からの見られ方」と、受信者である社員が抱く会社のイメージには必ずギャップがあるもの。会社の本質を理解した上で、そのギャップを把握しないと、社員に自分ごととして捉えてもらえません。成功事例としてミヨシ油脂(東京都葛飾区)のウェブサイトが挙げられます。
タナベ 井上 BtoBの油脂製品メーカーである同社のカラーを見事に表現したサイトだと感銘を受けました。
J3 中川 同社を深く理解するため、東京・名古屋・神戸の各工場を見学し、社員の方から話を聞きました。その結果、普段は表に出ない製造現場に同社の本質があると確信。工場で働く人々の姿をアピールすることを提案しました。そうして出来上がったウェブサイトは、「社会からの共感が得られるし、社員も家族に自分の仕事を知ってもらえる。人材採用への効果も想定以上」と、高評価を得ました。私たちも「狙った全ての層にアピールできた」と自負しています。
タナベ 竹綱 成功したポイントは何だと分析しますか。
J3 足立 クライアントの社員と同じ目線に立つことです。社員とのコミュニケーションを深めると、何気ない会話の中から現在抱える課題を推察できるようになりました。
商船三井(東京都港区)が運行するフェリー「さんふらわあ」のオウンドメディアサイトの制作に際しては、他社のフェリーにも乗船し、ハード・ソフトの両面から船旅の楽しさを検証するなどの研究を重ねて企画を立案。SEO(検索エンジン最適化)に特化したサイト構築も功を奏し、ブランドの浸透・向上に貢献することができました。
タナベ 井上 徹底的な事前調査を行い、社員や顧客と同じ目線に立ってインプットすることが、アウトプットに大きく関わるのですね。ウェブサイトに対するニーズは変化していますか。
J3 足立 CXへのシフトが進んでいると感じます。時間をかけずにどれのほど魅力的な体験を顧客に伝えるかが求められるようになりました。
J3 中川 マーケティングではOMO(Online Merges with Offline)の重要性が叫ばれています。CXについても同様で、お客さまが望むリアルとデジタルの比率を察知してハイブリッド化を進めないと普及しないでしょう。
タナベ 井上 今後の事業展望をお聞かせください。
J3 足立 タナベコンサルティンググループに加入することによって、今後は経営層と直接コミュニケーションを取れると考えています。これまでは実務担当者からのオーダーが多かったのですが、経営層から「どういう考えで、何がしたいのか」を伺うことで、より実情にフィットした企画を提案できます。それが、弱体化を危惧される日本企業のブランディングの立て直しにつながると気を引き締めています。
今後、企業内にCDO(最高デザイン責任者)のポジションが確立し、経営層がブランド管理に乗り出すようになったら、当社の活躍する領域は一層広がるでしょう。経営者の視座で企画を立案できる、革新的なクリエイターの育成に意欲的に取り組もうと思います。
タナベ 井上 最後に、経営者へのメッセージをお願いします。
J3 足立 タナベ経営がデザインの重要性を説いているように、クリエイティブにこだわる会社が業績を伸ばしているのは事実です。ただ、1点気を付けていただきたいのが、ブランディングでは「どう見せたいか、どう見られたいか」以前に、本質である「どう在りたいか」という視点が重要であることです。その点に留意しながら、クリエイティブなものへの関心を高め、100年先も一番に選ばれるFCC(ファーストコールカンパニー)へ成長するために、ブランディング戦略を取り入れていただきたいと思います。
タナベ 井上 タナベ経営もジェイスリーの加入によって、高度化・複雑化するCXデザインなどのクリエイティブ領域が拡充し、DX時代におけるブランディングとマーケティングの加速を支援できると期待しています。本日はありがとうございました。