共同開発は機械設備にとどまらない。2022年からは、群馬県の大学発ベンチャーであるFUTURENAUT(フューチャーノート)と、食糧安全保障の一助として期待が寄せられている食用コオロギの生産に関する共同研究をスタートした。
海外産の食用コオロギは魚粉などを餌に育てられており、国内での普及に向けては独特の臭みが課題となっているが、ナカリの工場で副産物としてできる米糠や砕米を餌として与えたところ、臭みが消えて格段に食べやすくなり、試食イベントでも好評を得ているという。
また、世界の昆虫由来ペットフード市場が成長する中で、ヒューマングレードの機能性ペットフード・ペットケア製品の開発、タイ・東南アジア市場への輸出・販路構築も視野に入れ、ナカリとFUTURENAUT、他4社を含めた計6社のコンソーシアムによるプロジェクトも進めている。
「食用コオロギは体力に自信がない高齢者でも簡単に生産できます。当社としては、環境問題や食糧問題への貢献もさることながら、生産者が農業をリタイアした後に無理なく働ける道の1つとして、雇用創出への可能性も感じており、さまざまな社会課題に貢献できると考えています」(中村氏)
この食用コオロギ事業は、タナベコンサルティングによる次世代経営幹部育成プログラム「ジュニアボード」の参加者が中心となって2010年に発足した、ナカリの「組織活性部」が発案したものである。同社では、この組織活性部を中心に、2024年現在までの14年間、毎年さまざまな取り組みを行っている。
乱高下の激しい相場を見極め、時として思い切った決断を下さなければならないハイリスクな米穀市場で生き残っていくには、オーナー経営者の強いリーダーシップが求められる。その中で、社員一人一人を輝かせるために、中村氏は経営者として何を大切にしてきたのだろうか。
「まず、後継者や社員は『いるだけで100点』と考えることです。その上で、ナカリにおいて自己実現ができたのなら110点、120点。これからの時代、そういう気持ちを持たないと、人材は育たないのではないでしょうか。ナカリでは『社長、どうしましょうか?』ではなく『社長、こういうことをしたいのですが』という声が現場から上がってきます。そのような声に対しては、ほとんどの場合、ゴーサインを出しています。やってみて価値がないということはないからです。失敗したら、そのとき元に戻せば良い。『できるのにやらないのはやめにしよう』。それが私たちの合言葉です」(中村氏)
ナカリ100年の歴史をひも解くと、戦中・戦後にかけては国の規制で米穀販売の免許が剥奪されるなど、追い詰められた時もあった。それでも先達は、ひとたび興した会社を途切れさせるわけにはいかないと、約10年にわたって旅館業や古着販売でつなぎとめ、強靭な信念で自社を守り抜いてきた。
2001年に策定したナカリの経営理念には、どんな時も将来を見つめ、変化に適応しながら進化してきた企業DNAが表現されている。そして、2023年の創業100周年を迎えるに当たっては、「新たな歩みを、変わらぬ心で」というテーマのもと、2020年からさまざまなプロジェクトを実施。同社は今、かつてないほどの進取の精神に満ちている。
「米穀業界では今、高齢化に伴って生産者が急速に減少し、米の消費量も一貫して減り続けています。しかし、古来、身も心も米と共に育ってきた私たちが、果たして『米のない日本』で生きていけるでしょうか? ナカリは、たとえ市場が半分になったとしても負けない経営を目指しています。これからも、生活の隅々まで浸透している豊かな米文化を守り続け、お客さまから真っ先に声のかかるファーストコールカンパニーを目指します」(中村氏)
ナカリ(株)
- 所在地:宮城県加美郡加美町羽場字山鳥川原9-28-4
- 創業:1923年
- 代表者:代表取締役社長 中村 信一郎
- 売上高:150億円(グループ計、2024年7月)
- 従業員数:150名(グループ計、2024年7月現在)