
独自の輸送ノウハウと全国にあるネットワークを強みとして、中長距離の幹線輸送の事業を展開する富士運輸。運送事業に対する確固たる信念と圧倒的な競争力を背景に、M&Aを成長戦略の一環と位置付けている。
単独受注を貫きニーズへ的確に対応
奈良市内に本社を置く富士運輸は、大型トラックによる都市間の幹線輸送を専門に手掛ける運送会社である。2021年6月期の売上高は316億円に達し、グループ社数は17社を数える。日本全国に108拠点を設け、トラックの整備工場や自社用の給油所を有しているのが特長だ。また、経営戦略も同社ならではの単独受注を徹底することで、持続的な成長を可能にしている。
この点について代表取締役の松岡弘晃氏は、「一口に『荷物』と言っても、形の大小をはじめ、取り扱いに注意を要する精密機械、厳格な温度管理が求められる冷凍食品など種類はさまざまです。こうした荷物について責任を持って運ぶには、当社が最初から最後まで一貫して対応することが必須と考えています。他社と分担して運ぶとなると、車両や作業内容の調整が必要となり、荷主に対する責任を果たすという点で問題が多いのです。そのため、当社では仕事を複数の会社で分け合うことはせず、100%自社で対応する単独受注を貫いています」と語る。
こうした単独受注を可能にしているのが、全国に張り巡らせた拠点ネットワーク(【図表】)をはじめ、ドライバー数とトラック台数の充実だ。グループ総勢2700名のドライバーと2350台の車両をもって、顧客のニーズに的確に対応できるように体制を整えている。
顧客には大手荷主を多数含んでおり、郵便や航空貨物をはじめ、精密機械や医薬品、家具、飲料、冷凍食品など多岐にわたる荷物について、全国の幹線輸送で重要な役割を果たしている。
【図表】富士運輸の全国に張り巡らせた拠点ネットワーク
出所:富士運輸ホームページよりタナベ経営作成(2021年10月現在)※全拠点のうち一部を抜粋
「健康経営優良法人2020」に認定されるなど、従業員が働きやすい環境づくりに注力している
経験に裏打ちされた独自のM&A戦略
富士運輸が全国にネットワークを構築できた背景には、独自のM&A戦略がある。2021年だけでも関東や北陸、近畿、九州の企業をグループに迎えた。中にはトラックの整備工場も含まれており、自社保有の車両整備を手掛けることで業務の効率化と迅速化、コスト削減を促進している。これは松岡氏自身がトラックのドライバーや整備士としてのキャリアを持っていることから、運送事業における重要性を理解してのことだ。
「近年、当グループはM&Aに熱心な企業だと業界の関心を集めています。しかし、決してどんな企業でも傘下に収めているわけではなく、グループのビジネスモデルに即しているかどうかを厳密に査定しています。運送会社には港湾荷受けやコンビニエンスストアの配送専門といったようにさまざまな形態があり、取り扱う荷物が違えば異業種と言っても過言ではないくらいに業務のオペレーションが異なります。
富士運輸は幹線輸送を専門としているため、確実な都市間輸送を実現したい当社の目的に沿っていて、しかも将来に向けてシナジーを発揮することで互いに成長を目指せる企業との提携を重視しています」(松岡氏)
同社は、M&Aプラットフォームなどを通じて有望な企業を常に探す一方で、グループインによってシナジーが高まると判断した企業に対しては、直接アプローチをかけることも少なくない。また、「傘下に加えてほしい」と依頼してくる運送会社も増えてきたという。
「当社は、全国ネットワークの強みを生かして、グループ企業に仕事を安定して依頼することが可能です。また、整備や給油の拠点を利用できる点も大きなメリットと捉えられているようです。このほか、当社は商用車を製造する三菱ふそうトラック・バスのサブディーラーとしてトラックの販売も手掛けており、トラックの調達においてもグループ各社に固有の価値を提供することができます」(松岡氏)
安定した受注を見込めること、経営管理の面でさまざまな利点があること以外にも、富士運輸グループへの参画を希望する企業が増えている理由はある。同社は早くから基幹システムの構築を社内で進めてきた。そのため、全拠点の請求や売り上げの管理、支店や路線ごとの採算管理などを行うことができる。
さらには、DX(デジタルトランスフォーメーション)においても業界をリードしている。NTTドコモが提供する「かんたん位置情報サービス」を基盤技術として、富士運輸が中心となって開発したGPS(全地球測位システム)による車両位置情報管理システムを、NTTドコモが高く評価したことが、新会社ドコマップジャパンの設立につながった。同システムは「DoCoMAP」として、2017年から運送業者に向けて低価格で販売されており、普及が進んでいる。
こうした取り組みを地域の運送会社が1社で行うのはコストやスキルの面からも容易なことではない。時代をリードする企業姿勢が脚光を浴びる要因となっている。
運行管理の業務に当たる社員。道路状況や受注状況に応じて効率的な配車を行う
経営に苦戦する企業の競争力向上に貢献
Visionalグループのビジョナル・インキュベーション(東京都渋谷区)によると、同社が運営する事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」が2021年9月に公開していた物流関連の譲渡案件数は、2020年同月比1.8倍、2019年同月比2.7倍だった(2021年10月7日発表)。このことからも分かるように、運送業界におけるM&Aは活況である。その背景について松岡氏は次のように述べる。
「昭和の時代、運送業の認可を得るのは簡単ではありませんでした。それが平成になって、いわゆる『物流二法』(貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)で規制緩和が進み、認可を容易に取れるようになったのです。
それは参入障壁を低くした半面、事業者の急増に伴う価格競争を背景に、運賃の値崩れを加速させました。さらに、業務のIT化によってインターネット上での求貨求車※が広く普及しており、これも運賃の上昇を抑える要因となっています」
また、過当競争によって経営に行き詰まる運送会社が相次いでおり、経営者の高齢化と相まって、自社を譲りたい企業が増えているという。加えて、小売りなど荷主の業界で再編が進んでおり、荷主が大手企業グループの傘下に入った途端に仕事がなくなるといった事態にも直面している。
「運送業の優勝劣敗が明確になっている昨今は、強みを打ち出した経営が重要になるでしょう。M&Aにおいても、単に仕事を増やしたいといった理由で追求するのではなく、自社の強みや弱みを冷静に検討した上で、慎重に取り組む姿勢が欠かせないと考えます」(松岡氏)
M&A案件は多数あるものの、契約に向けて進むものは「10件に1件もない状況」と松岡氏は言う。故に富士運輸が事業規模の拡大を図る上では、「M&Aよりもむしろ自前で拠点を増やしていった方が良いことが多い」。それでもM&A戦略を進める意図としては、「各地域で頑張っているにもかかわらず、経営で苦戦している企業の競争力を高め、そこで働く従業員の待遇改善などに貢献したい思いが強い」と松岡氏は語る。
※荷台の空いているトラックの情報と、荷物を運びたいが車両が手配できない荷主をつなぎ、適切な配車を行うこと
買収企業の価値を見極め再生を図る
M&Aの進め方のポイントとして、松岡氏は「まず売り手企業の給与体系や安全対策の状況などを見定める」。そして、経営トップ同士の面談では、相手の困っている課題を聞き出し、「当社にはこのような解決策があると提案していく」という。
「M&Aで運送会社を買いたいと話す社長の中には、ドライバーの確保を理由に挙げる方が少なくないのですが、それは得策ではありません。経営母体が変わることで、辞めていくドライバーが一定数出るからです。それでも買収する価値があるかどうかの見極めが重要なのです」(松岡氏)
また、売り手企業はさまざまな経営課題を抱えていることが多いため、「その会社をよみがえらせるための戦略が欠かせない」と松岡氏は強調する。
「当社は経営管理に必要なシステムが充実しており、買収後にシステムを導入してもらうことで、企業再生を図っていける自信がある」(松岡氏)
事業を拡大させ、M&A戦略を成功させている富士運輸。しかし、その発展の過程では経営の苦労が多かった。
松岡氏は27歳で富士運輸へ入社して以来、会社が抱える労務の課題を一手に引き受け、その解決に注力してきた。苦難を乗り越えた末に決断したのが、運送サービス向上のためのISO9000シリーズ※の認証取得と、全国に拠点を持ちネットークを構築することだった。この目標に向けて経営革新を断行してきたことが、今日の成功の礎となっている。
運送業界を取り巻く環境が大きく変わりつつある中、さらなる成長のために松岡氏が目指すのは、「価格競争に陥ることのない、業界にとって必然性のある企業グループ」だ。より充実した拠点ネットワークを構築するとともに、温度管理や特殊貨物などに対応できる車両を整備し、他社との差別化を進めていく。
※品質マネジメントシステムに関する国際規格
各地域でがんばっているにもかかわらず、
経営で苦戦している企業の競争力を高め、
そこで働く従業員の待遇改善などに貢献したい
富士運輸 代表取締役 松岡 弘晃氏
PROFILE
- 富士運輸(株)
- 所在地:奈良県奈良市北之庄町723-13
- 設立:1978年
- 代表者:代表取締役 松岡 弘晃
- 売上高:316億円(2021年6月期)
- 従業員数:1842名(2021年6月現在)