慢性的な人手不足と業務の非効率さは、持続可能な物流を語る上で避けては通れない課題だ。これらに企業はどう対処すべきか。その糸口を流通経済大学教授の矢野裕児氏に聞いた。
出所:全日本トラック協会「日本のトラック輸送産業 現状と課題2019」※四捨五入の関係上、合計値は100%にならない場合もある。また、2011年は東日本大震災の影響でデータなし
深刻な人手不足と非効率な現場
インターネット通販の拡大に伴い、メディアで頻繁に聞かれるようになった物流危機。この問題を語る際、真っ先に挙げられるのが物流業界のドライバー不足である。特に、若年層の減少は深刻化しており、将来に向けた対策は待ったなしの状況だ。
2008年から2018年までのドライバーの年齢別構成比の推移を見ると、10代、20代の若年層の割合が10年間で明らかに減少している一方、増加しているのは50代、60代以上のドライバーだ(【図表1】)。2018年には全体の4割超を占めるに至っており、高齢化は一目瞭然である。
「このまま高齢化が進めば、ドライバーの供給が減少することは明白です。ドライバーになろうとする若者が少ない要因には、物流業界の生産性の低さが大いに関係しています」
こう指摘するのは、物流業界を長年研究してきた流通経済大学教授の矢野裕児氏だ。生産性を考える際、矢野氏がまず問題視するのは配送に関わる手荷役の多さである。
例えば、10tトラックの荷物の積み下ろしを行う場合、荷物を積むパレットを活用すれば約15分で済むところを、手作業だと2時間程度はかかってしまう。業務効率の差は歴然だが、現状はドライバーの手作業による積み下ろしに頼るケースが多い。
生産性が上がらない要因は他にもある。トラックが物流センターに到着してから荷物を受け渡すまでの、いわゆる「荷待ち」に1時間以上かかることは珍しくなく、3時間以上に及ぶ場合もある(【図表2】)。加えて、加工食品などでは伝票の手入力といった輸送以外の業務効率の悪さも、長時間労働の原因だ。
トラックドライバーの労働時間の長さは【図表3】を見ても明らかであり、こうした状況を変えるには「企業と企業をつなぐ物流における標準化と情報の電子化を進めるべき」と矢野氏は強調する。
「これまで各企業は社内の生産性向上やIoT化に取り組んできました。しかし、各社が独自でシステムを構築したため、物流センターに集まる荷物の形状や伝票の仕様などはバラバラのまま。これが自動化を阻む大きな原因になっています。業務の効率化を図るには、物流企業だけでなく荷主や着荷主も巻き込んだ標準化が不可欠です」(矢野氏)
【図表2】トラックドライバーの荷待ち時間の内訳
出所:厚生労働省・国土交通省「トラック輸送状況の実態調査」(2015年9月)
【図表3】トラック運転者と全産業平均の年間労働時間
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2018年)
モーダルシフトを含む物流改革で業務を効率化
問題は、今の仕組みのままでは、近い将来に必要な荷物が運べない事態を招きかねないことだ。そうした状況に危機感を募らせるのが物流業界だけではないことは、企業の垣根を越えた協業が増えていることからもうかがえる。
例えば、味の素・カゴメ・ハウス食品グループ本社・Mizkan・日清オイリオグループ・日清フーズの6社は、北海道において2016年に共同配送を開始。さらに、2019年からは九州エリアでもスタートさせるなど、物流の効率化を目指す取り組みが広がっている。
「この事例では配送拠点と輸送車両の共同利用に着目しがちですが、注目していただきたいのは、受注や納品などを含めた物流システムの標準化に着手したこと。伝票フォーマットの統一などによって、物流現場の業務効率が飛躍的に改善した成功事例と言えるでしょう」(矢野氏)
また、2017年1月に始まったキリンビールとアサヒビールによる共同輸送は、ライバル企業同士が手を組んだモーダルシフトの事例である。モーダルシフトとは、自動車で行っている貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することだ。
この取り組みでは、トラックと鉄道を組み合わせて北陸向けの商品を共同輸送することで、温室効果ガスの削減や将来のドライバー不足に備える仕組みを構築した。リスクを軽減する輸送モードの分散によって商品を安定供給する試みは、2017年にはサッポロビールやサントリーを加えたビール大手4社による共同輸送(北海道地域)につながっている。
「複数の輸送モードを活用するモーダルシフトは従来から議論されていましたが、ここに来て活用事例が増えています。働き方改革関連法案をはじめとする法整備が進むと同時に、ドライバーの拘束時間の厳守が求められることにより、トラックによる長距離輸送がますます難しくなっているためです」(矢野氏)
そもそもモーダルシフトは、温室効果ガスの排出量削減を目的に1980年代から議論されてきた。そうした環境保護面の要請に加え、毎年のように自然災害に直面する日本ではBCP/BCM(事業継続計画/事業継続マネジメント)の観点や近年の働き方改革の推進が重なり、高い関心が寄せられるようになっている。中でも、矢野氏が特に有望視するのがフェリーの活用だ。
「フェリーは運行状況が比較的安定しているし、最近は混載を請け負うフェリー会社もあるので、中小規模の事業者にとっても使いやすいと思います。輸送時間はトラック輸送よりも1日程度は長くかかりますが、生鮮食料品であっても温度管理によってトラック輸送と同レベル、もしくはそれ以上に鮮度を維持できることが実験などで実証済みです」(矢野氏)
物流危機によって、数年前からトラック輸送の運賃は上昇傾向にある。その意味でも、長距離輸送におけるモーダルシフトや共同配送を検討する価値は十分にあるだろう。
効率化に向け発想転換を
コロナショックによってビジネスの仕組みやライフスタイルの見直しを迫られる今は、持続可能な物流を考える絶好のタイミングでもある。
すでに国土交通省は、トラック輸送における取引の適正化や労働環境の改善に向けて、「改正貨物自動車運送事業法」を2018年12月に公布。2020年4月には、「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」を告示した。距離や時間ごとの基準運賃が社格別で具体的に示されたほか、待機時間や積み下ろしなどの付帯業務についても、運賃とは別に収受できることが明記されている。
ただ、こうした基準が一部の荷主にとって物流コストの上昇につながることは確かだ。その点について懸念の声も上がるが、矢野氏は「標準化や情報の電子化を進めて付帯業務の効率化を図ることで、荷主と物流事業者はWin-Winの関係を築くことができる」と前向きに捉える。
「ドライバーの付帯業務を減らすことは、荷主にとって物流コストの削減につながります。また、商品価格には物流コストが含まれていることが多いので、着荷主がドライバーの付帯業務を引き受ければ、取引先(荷主)と共に商品価格を見直すことも可能になる。付帯業務の効率化は、荷主・着荷主・物流事業者それぞれにメリットがあると考えています」(矢野氏)
さらに、生産性向上につながると矢野氏が期待を寄せるのが、新たなプレーヤーの登場だ。手荷役が多く業務の効率化が進んでいないのが物流業界の特徴だが、見方を変えれば、少しの変化で大きな効果が得られる有望な市場とも言える。
「これまでは既存のプレイヤーが先頭に立ってロジスティクスを変えてきましたが、最近は新しいプレーヤーが新技術によって状況を大きく変える事例が目立つようになっています。課題が多く残されている物流業界は彼らにとって『フロンティア』です。新規プレーヤーの登場で、周回遅れだった業界が一挙に変わる可能性は大いにあると思います」(矢野氏)
企業をつなぐ物流システムの標準化と情報の電子化が改革の鍵となります
流通経済大学 流通情報学部 教授 矢野 裕児(やの ゆうじ)氏1957年生まれ。横浜国立大学工学部卒業。日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。日通総合研究所、富士総合研究所、流通経済大学助教授を経て、流通経済大学流通情報学部教授。ロジスティクス・イノベーション推進センター長。工学博士。専門はロジスティクス、物流、流通、都市計画。共著に『物流論(第2版)』『現代ロジスティクス論』(共に中央経済社)など。
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