豆腐、おひたし、お好み焼きのトッピング。和食の原点とも言える、だし。どちらにも伝統食のかつお節は欠かせない存在だが、さらに日本の食の未来をつくる挑戦が始まっている。
独自のマーチャンダイジングで新たに開発したプレ節®
栄養価が高く保存に適し、トッピングにも、だし取りにもいい。マルチユースな日本の伝統食がかつお節だ。
その存在を全国で最も身近に感じる街がある。瀬戸内海西部、伊予灘を臨む愛媛県伊予市。この地に本社を構えるのが、国内シェアトップ3の一角を占め、2018年に創業100周年を迎えたマルトモである。
荒節や枯節の削り節、だしパックに顆粒「だしの素」、液体つゆ。かつお節から派生する商品群で競い合う中で、マルトモはチルド製品やサプリメント、ペットフードなど、時代のニーズや食文化の変化に合う味づくりにも力を入れてきた。そしていま、新たな商品開発で大ヒットしているのが「プレ節®」だ。
鹿児島県枕崎市の協力工場で製造したアミノ酸とイノシン酸含量の高い特許製法の枯節を、薄さ25μ(ミクロン)に削って柔らかな食感も実現。高い技術力を結集し、2015年の発売から4年連続で10%増と快調な売れ行きを見せる。
「特許製法の強みに加え、豊かな味わいを伝えるために、高級志向の『プレミアムシリーズ』という価値カテゴリーブランドを創出しました。25μのソフト削りで口溶けが良く、味を濃く感じるので、ご飯に乗せてもしょうゆ要らず。おいしく食べやすく減塩もできる“21世紀の猫まんま”が誕生しました」と、同社の取締役開発本部長・土居幹治氏は言う。
「おいしさ」のシーズと「プレミアム感」のニーズ、「食べやすく健康」というウォンツ。その三つを満たす要素がそろい、新しい食べ方も提案するプレ節®が、人気ブランドとして独走する理由がもう一つある。特許製法はすでに一部公開され、競合他社が後追いすることも可能だが、それができないのは独自のマーチャンダイジングを構築しているからだ。
生のカツオ原料をマルトモと協力工場が協議して購入し、協力工場でかつお節に仕上げてマルトモで削り節を作る。その三位一体のバリューチェーンによって、協力工場は営業活動なしに一定の仕事量を確保でき、経営が安定。マルトモも厳選の素材を安定的に入手し、トレース(履歴管理)も完璧。消費者に良いものを安価で供給できる仕組みである。
「透明なバリューチェーンで互いの信頼が深まって、思い切った商品開発の挑戦もしやすい。40年前から続くこの仕組みがあるからこそプレ節®が実現したのです」(土居氏)
25μの薄さで、口溶けの良いおいしさとしょうゆ要らずの減塩効果を実現した「プレ節®」。ターゲット顧客に定めた30・40歳代女性に好感度が高い俳優のディーン・フジオカさんをCMに起用したことも人気を後押しする
家庭用も業務用もだしを効かせた優しい塩味に
タンパク質が約70%と豊富で、体内で合成できない全9種類の必須アミノ酸をバランス良く摂取でき、疲労回復効果もある。室町時代には「花鰹」と呼ばれ、江戸時代に製法が定着して400年続いている健康食・かつお節。そのどこに着眼するかが開発成果を左右する。マルトモがこだわるのは「だし感の追求」である。
約100種類のうま味・香味成分を抽出するかつおだしは、和の食文化に欠かせないものだ。「だしが濃いと薄味でもおいしい。だから減塩効果が生まれ、低カロリーで満足できるため健康な食卓になります。また、素材の旬の味を楽しめて、味覚や人格の礎となって人間力の形成にもつながる。目指す姿は、2013年に和食が世界文化遺産に登録された理由と、ほぼ共通しています」(土居氏)
「だしを効かせたやさしい塩味」をコンセプトに新しく商品化したのが、特殊だしを配合したタレをかけ、電子レンジでおかずを作る調味料「お魚まる」「お肉まる」「お野菜まる」シリーズである。「特に、和食で難しいといわれる煮魚を、電子レンジだけで調理できるのは画期的です」(土居氏)。日本食糧新聞社の2019(令和元)年度「新技術・食品開発賞」も受賞した。
だし感へのこだわりは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの総菜や外食産業のメニューを開発する「だしコン」(だしのコンサルティング)でも発揮している。ある外食チェーンが導入したラーメンは、だしコンによりだしのうま味を生かして脂分や塩分を減らし、低カロリーのヘルシー食へと変身を遂げた。
「業務用食品の世界でレシピ提案は当たり前のことですが、私たちはそれだけでなく、だしコンによって新しい食の未来を提案しています」(土居氏)
こうした従来にない価値を持つ開発・提案を可能にするのが、レシピを数値化し味のポジショニングを分析する「マルトモメソッド」だ。おいしさを客観的に評価できるよう、人間の舌を模した味覚センサーを2004年に導入。味わいや商品コンセプトの“現在地”や他社製品との比較などが、レーダーチャートやマッピングで一目瞭然に分かる優れものである。
例えば、液体つゆは以前、コク味もうま味も高いのが売れ筋のボリュームゾーンだったが、近年はより薄味へと変化。売り手は味を薄くして特売品にでき、買い手も猛暑続きであっさり爽やかな味を好む傾向が見えてくる。そして、だしを効かせて薄味でおいしくすれば、どちらのニーズも満たすことができる。
「蓄積したデータと分析ノウハウで、トレンドも、おいしさと価格の満足度の高いバランスも分かります。それができるのは私たちだけですし、お客さまの納得度が違いますね」(土居氏)
「おいしさの現在地」が独自の分析手法で分かる味覚センサー。万人受けする売れ筋のボリュームゾーンや、少数派だが固定ファンを持つ個性派商品のゾーニングも分かる
新たなベンチマーク「普通の味」で食の未来を変える
だしを効かせた、新しい食の未来。その次なるステージを、土居氏は「普通の味、つまり家庭の味です」と語る。これまでの商品開発は極端な言い方をすると、繁盛店や有名店の「おいし過ぎる味」だったという。
味覚センサーを駆使したマルトモメソッドも、行列のできる店が「売れる味」づくりのベンチマークになってきた。「でも、その潮目を変えて、普通の家庭の味を、食の未来形にしていきたいんですよ」。そう土居氏が言う理由は明快だ。
おいし過ぎるごちそうは週に1回で満足し、健康への配慮も必要だ。だが、普通の味なら毎日食べたくなり、リピート率も高まる。しかも3食分が「1食を3人」ではなく「1人が3食」となり、商品需要が高まるメリットにもつながる。
もちろん、課題もある。普通の味とは何か、ベンチマークがないことだ。
「ただ、光明は見えています。多様な食のサンプルデータを集めて解析し、平均値を取るのです。それ以上のことは、詳しく言えませんが――」と土居氏。さらに、普通の味は開発会議で企画が通りにくいこともハードルになった。
「試食してもらった感想は『なんだこれ、普通だな』と。一口で違いが分かる繁盛店の味に慣れてしまっているのですよ。だから『一口でなく完食し、明日もまた食べてください。毎日食べたくなる味を作るんですから』と言って乗り越えました」(土居氏)
食品業界でエアーポケットとなってきた、普通の味。その可能性の大きさに業界全体が気付き始めている。
「自宅でだしを取らず調理もしない時代になり、普通の家庭の味を外食や中食に求めているなら、その受け皿を用意しないといけない。食の外部化ならぬ『だしの外部化』にチャンスがあるということです」(土居氏)
マルトモが描く食の未来は、地球環境の未来にもつながっている。生珍味やコラーゲンサプリとして販売するクラゲの保水力に着目。愛媛大学との協同研究で、天然由来で土に返り樹木の栄養分にもなる土壌改良剤「くらげチップ®」を開発した。2019年2月には愛媛県などと森林整備に関する活動協定を締結し、売り上げの一部を寄付している。
「年間5000tのかつお節の生産には、煙でいぶす焙乾工程に同量の木材が必要です。間伐材を使うだけでなく森を育てる貢献も果たしていく。食品以外で唯一の商品ですが、当社には意味のあることです」(土居氏)
地域の伝統食を継承する普通の家庭の味を守り、豊かな食をもたらす環境も守る。和食とだしの価値が世界へと浸透する中で、かつお節から始まる物語には、楽しみな「続き」が待っている。
マルトモ 取締役 開発本部 本部長 土居 幹治氏
Column
SEDAで描く「ブランド+レシピ」の企業価値
「感動を、けずりだそう」。マルトモが掲げる企業キャッチコピーは、削り節を食べた時のおいしい感動品質を、一人一人が削り出していく思いを表現している。その思いを具現化する商品開発戦略の指標が「SEDA」(下図)だ。 「SとAが持つすごい価値(ブランド)をEとDで深掘りし、現代に合う新しいカタチ(レシピ)に生まれ変わらせ、さらにお客さまに伝わるように発信する。プレ節®もそうやって誕生しましたし、『企業の価値=ブランド+レシピ』です。ただ、日本の企業はEとDで具体的な答えに落とし込むのが苦手。GAFAに勝てないのも、レシピに差があるからです」(土居氏) 「おいしくて健康」という本質的な価値を、ライフスタイルやトレンドの変化に適応する姿で、消費者に分かりやすく伝える解決策。それが、25μの薄さの実現やプレミアムカテゴリーの創出、“21世紀の猫まんま”という新しい食べ方の提案だ。良いところに磨きをかけ、変えられることは積極的に変えることで、伝統というブランドを生かしきり、目に見える新しいレシピの魅力へと導いている。
PROFILE
- マルトモ㈱
- 所在地:愛媛県伊予市米湊1696
- 創業:1918年
- 代表者:代表取締役社長 今井 均
- 売上高:222億円(2019年3月期)
- 従業員数:517名(2019年3月末現在)