トラス 代表取締役 久保田 修司氏2014年にトラスを起業。「日本の建材が豊富なら、その材料選びも大変なのでは」という考えが湧いてきたのが起業のきっかけです
膨大な数の外壁、内装材、断熱材などをメーカー横断で簡単に検索でき、しかも性能や価格を比較できる建材情報のプラットフォーム「truss」。このウェブサイトによって、建築設計はどのように変わるのだろうか ――。
煩雑な建材選びが簡単なウェブサービスを考案
建材(建築材料)の種類は膨大だ。一戸建て住宅1棟当たりの部材・部品数は1万点以上とされる※1。それぞれの素材や性能、サイズ、色などを含めると数十万点にも達している。設計者(建築士)は、何百社ものメーカーがそれぞれ発行している分厚いカタログのページをめくり、膨大な種類の製品群の中から使いたい外壁や内装材など、適切な建材を選ばざるを得ない。
設計者は業務の一部にすぎない建材選びに多くの時間を割かなければならず、煩雑なことこの上ない。そんな設計者の悩みを解決しようと生まれたのが「truss」である。2016年9月に建材検索サイトとして開設され、掲載している建材数は33万7976製品(2019年12月現在)。主要メーカー約80社の製品を横断的に選べるとあって、3000名を超える設計者が利用している。
同サイトを立ち上げたのは、トラス代表取締役の久保田修司氏だ。東京大学大学院を修了後、大手総合商社の丸紅に入社。建材検索サイトを立ち上げるために退職し、2014年にトラスを起業した。久保田氏は学生時代、建築を専攻していたが、当時の建設業界は給与や長時間労働など待遇面があまり良くないことを知り、大きな建設プロジェクトと携われる商社に就職した経歴を持つ。
「丸紅では海外の水道インフラの整備や海水を真水にするプラントの仕事に携わっていました。海外赴任の際、たまたま仕事でヨーロッパに3週間程度行った時に統一された外壁など、街並みの美しさに感動したんですね。ところが、日本に帰国したら建物の色やデザインはバラバラ。良くも悪くも(日本は)建材の種類が豊富ということが分かりました。建材が豊富ならその材料選びも大変なのでは、という考えが湧いてきたのがそもそものきっかけでした。事実、知り合いの小さな設計事務所に行くと、その規模に不釣り合いなほど数多くの建材カタログが並べられているのを見て、この状況を何とかしようと起業しました」(久保田氏)
久保田氏は早速、資金集めのための投資家へのプレゼンテーションと同時に建材メーカーを回った。各メーカーに、建材検索サイトの構築に当たって協力を要請するためだった。が、なかなか人と会えなかったり、面会しても色よい返事をもらえなかったりすることが多かった。それでも2年ほどの間に約60社から同意を得て、トラスの設立にこぎ着けた。
※1 野村総合研究所「建設資材の物流に関する現状と課題について」(2018年12月21日)
建材の検索ページサイズや価格だけでなく、使用する建物の種類や柄など多彩な項目から建材を検索することが可能
スペック表記の統一や比較検討できる機能も
久保田氏は建材メーカーの同意を得る作業と並行して、建材検索サイトの構築も進めていった。しかし、そこである問題が浮上した。建材のスペック(性能)などを示す表記をどうするかである。
建材の色・柄・素材・特性・サイズなど、製品の選択に不可欠な要素の表記が、メーカーによってバラバラだった。例えば、同じブルーでもA社は「スカイブルー」、B社は「アクアマリン」といった具合である。単位についても「m2」「坪」「ケース」など各社によって異なっていた。
建材を検索するサイトとしては、表記を統一しないと使い勝手が悪い。そこで設計者の意見をヒアリングし、統一表記を決めて検索できるようにした。これらの膨大なカタログ情報は、建築設計の経験がある社員が集めてチームをつくり、データベース化していった。
「例えば、外壁や内装材のサイズ表記はm2単位に統一しました。これによって設計者は複数メーカーの製品のm2当たり価格がすぐ分かるようになり、コストの比較検討もしやすくなりました」(久保田氏)
もちろん、サイズや価格だけでなく、色や柄のデザイン的な要素、耐火構造やシックハウス規制などの法規、熱伝導率や抗菌、耐荷重といった性能なども表記統一した。必要な項目を指定すると、それらに適した建材がリストアップされる。
さらに、truss では他の資材系サイトに見られない機能を搭載した。設計者が選択した建材について、各メーカーの製品の性能値や価格の分布をグラフ上に点として表示(ドットプロット)するサービスだ。例えば、断熱材では縦軸に「熱伝導率」、横軸に「価格」を置いた点グラフが表示される。縦軸では下にいくほど熱伝導率が低い(性能が優れている)ことを示し、横軸では左側にいくほど安いことを意味する。つまり、グラフ図の左下に位置する断熱材は「熱を通しにくい上に価格が安い製品」ということが一目瞭然に分かるのだ。
「グラフ上の点をクリックすると、該当製品の詳細情報を見ることができます。そこから詳細な機能や価格なども把握でき、スピーディーに目的の製品を探すことが可能になりました」(久保田氏)
そんな利便性の高い機能が、設計者から支持を得ているのは言うまでもない。
ドットプロット検索した建材の性能値・価格をプロットしたグラフで、候補製品の比較と絞り込みが可能
さまざまな条件での建材検索(無料)が可能なプラットフォーム。仕上げ表をウェブ上で記録・共有することもできる。仕上げ表は一部ユーザー(ゼネコン、設計事務所)の利用に限られるが、間もなく公開予定だ
ウェブ仕上げ表作成で建材を一括管理できる
建材検索サイトとしてスタートし、多くの設計者が登録するtruss は今、さらなる進化を遂げている。建材を選べるだけでなく、ウェブ上で「仕上げ表」(内外装の建材を使用箇所や間取りごとで表にまとめた仕様書)の作成機能を付加した。これにより、設計者が選んだ建材を仕上げ表に登録して、一元管理ができるようになる。
具体的には、1階、2階などのフロアごと、またフロアやロビー、ラウンジ、トイレなどスペースごとに選んだ建材を、候補品として仕上げ表に貼り付けることができる。作成した仕上げ表は設計者だけでなく、施主、積算担当者、現場監督、購買担当者、現場作業員などと情報共有できるため、仕上げ表を見ながら意見交換をして使用建材の更新・決定が可能だ。
「仕上げ表の建材の品番から、色や柄などを製品カタログのデータベースで画像として確認できます。施主確認画面で実際に選んだ各部屋の建材の画像を一覧表示でき、部屋のイメージと指定した品番が合致しているか共同で確認できます。設計者と施主の意思疎通もスムーズになることは間違いありません。現在、大手ハウスメーカーやゼネコンと共同開発を進めており、近々、公開できると思います」と久保田氏は言う。
建材画像の自動生成機能を備えたtrussは、全ての登録者が利用できるようになる。設計初期段階で建材の詳細な検討・品番指定が行えることで、施工段階でよく起こりがちな建材変更の負担を削減できる(フロントローディング)。設計現場での業務効率化から関係者との情報共有に至るまで、大きな力を発揮することが期待されている。
また、作成した仕上げ表は、建物のデジタル3D(3次元)モデルにコストや管理情報などを一元管理できるBIM ※2(ビルディング・インフォメーション・モデリング)へ、属性データを入力するための有効なインターフェース(伝達方法)となる。
そのため、現在はBIMとの連携を想定し、開発を進めている。trussで作成したウェブ仕上げ表の製品画像や属性情報をBIMの仕上げ表に自動反映できれば、3D設計図面上で室内環境への効果なども割り出すことができる。例えば、どの部屋でどういった断熱材を用いれば、断熱効果によってどの程度の出力のエアコンを導入すべきなのかといった設備機器の選び方も容易になる。
このように建材の属性データを活用できれば、従来の設計の在り方を大きく変えることにつながる。
建築法規が検索可能なシステムの開発も視野
trussの建材検索サービスは、会員登録をすると無料で利用できる。そのためトラスの現時点での収益源は、建材メーカーからの製品掲載料のみだ。今後は仕上げ表機能の利用料を検討しているほか、将来的にサイト内での建材販売なども視野に入れているという。
また、trussは建材検索に特化したシステムだが、設計者の周辺業務の負担軽減を図る考えから、今後は建築法規の「遵法性調査」(法令・条例と建物の適合性調査)業務を軽減するシステムづくりに着手する予定だ。
「建築物は法律でさまざまな規制がされていて、それに沿って建設されています。国の建築基準法だけでなく、地方自治体による条例もあります。分厚い法規関連の書籍から該当する項目を見つけて、それを読み込んで法律に沿った形で設計しています。この業務も建材選びと同様にかなりの労力を要するため、すぐに調べたい法律が検索できるシステムをつくり、設計者の業務軽減を図りたい。設計業務に携わる人たちの長時間労働の軽減など、働き方改革にも貢献できるはずです」(久保田氏)
設計者を取り巻く作業環境の改善とともに、建築物で使用する建材データが一元管理されることで、耐久性などの品質も見える化できる。これは建築物の質的向上にもつながる。
「現在の不動産価値は、駅からの距離、築年数、木造やRC造(鉄筋コンクリート造)、S造(鉄骨造)などの構造で決まっています。しかし、どういう材料で作られた建築物であるのかが分かれば、不動産価値の評価も変わるはずです。耐久性に優れた高品質の建材が使用されている建物であれば、何十年経過しても価値が維持され売買しやすくなる。より良い材料を使った質の高い建物が高評価を受けられるようになれば、建築物1件当たりの費用も高くなる。そうなれば、建設に関わる設計者や施工する職人の給料も上がるはず。そんな好循環サイクルの変化を期待しています」(久保田氏)
かつて待遇面の悪さに嫌気が差し、建設業界から距離を置いた久保田氏だったが、今は建築現場の就労環境や不動産業界の価値基準を変えるという壮大なゴールに向かって走り始めている。これからのtrussは、どのような役割を果たしていくのか。建設系スタートアップの旗手として大いに注目される。
※2 バーチャルな建物をコンピューター上で構築し、設計・施工のミスや工数の削減を図るシステム。建材の仕様・費用・施工時間など詳細なデータを入力でき、シミュレーションが可能
今後は建築法規の「遵法性調査」業務を
軽減するシステムづくりに着手する予定です
PROFILE
- ㈱トラス
- 所在地 : 東京都品川区東五反田1-11-7 三ツ星ビル1号館5A
- 設立 : 2014年
- 代表者 : 代表取締役 久保田 修司
- 従業員数 : 10名(2019年12月現在、社外協力スタッフを含む)