“ 暮らしにプラスαを”をスローガンに、「住」をベースとした多様な事業を展開する明治産業。2019年から人材育成にアートプログラム研修「VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)」を導入し、ユニークな試みにチャレンジしている。
VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)アート鑑賞を通して「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する教育カリキュラム。以前は教育分野で広がりを見せていたが、近年は欧米で企業研修に取り入れられている
明文化を徹底しビジュアルで感性に訴える
オレンジを基調とした明るいオフィス。季節のディスプレーが随所に施され、タイプの違う全面ガラス張りの会議室にはアート作品があちこちに飾られている。廊下にはアート作品に交じり、社長や社員を映画の主人公に見立てたオリジナルポスターがズラリ。誰でも息抜きに弾けるようにと、ビンテージのピアノも置かれている。
「社員にとって、働く空間が一番大切だと思います。このオフィス、ワクワクするでしょう? お客さまとの会話も自然と弾みます」
そう笑顔で話すのは、明治産業の代表取締役・明永喜年氏だ。
2019年7月には、企業PRの一環として各事業を海賊のキャラクターに仕立てた「アメージングワールド」を発表。インパクトのあるキャラクターたちが描かれたラッピングバスが福岡市内を走った。
まるでベンチャー企業のような雰囲気の同社だが、設立は1961年にさかのぼる。明永氏の父に当たる先代が、LPガス小売業を個人創業し、ガス事業をベースに事業を着実に展開してきた。現在では不動産管理、賃貸経営マネジメント、リフォーム、FP(ファイナンシャル・プランニング)など、取り扱う事業は多岐にわたる。“住のソリューションプロバイダー”として、暮らしに関するサービスをワンストップで提供し、飛躍を遂げている真っ最中だ。
“挑戦する老舗”をモットーとして掲げている同社が徹底しているのは明文化。名刺やホームページには、経営理念であり、社員の行動方針でもある「MEIJI SPIRITS」=「チャレンジ・アグレッシブ・チームワーク」のキーワードが強く押し出されている。会社や事業を紹介するユニークな動画も続々と配信しており、従来の不動産関連会社のイメージを覆すような試みに挑戦し続けている。
「毎日見るもの、感じることって、私たちが仕事をして社会に貢献する上で、とても大切だと思います。基本的に仕事は楽しいものでありたいですから」(明永氏)
オレンジを基調としたエントランス
「仕事は楽しいもの」から始まったユニークな企画
“出るくいは打たれる”=自分の言葉を失う
人材育成における研修も独特だ。主に、論理的思考を養うためのさまざまなセミナーを実施。外部から講師を呼び、研修を行ったこともあったという。挑戦し続けることで、人材育成も順調に進むと思い込んでいたが、そうではなかったと明永氏は語る。
「研修の日だけ盛り上がり、次に続きませんでした。だんだん社員が受け身になってきて、MVP活動においても、前例やマニュアルを聞いてくるようになり、何かテコ入れをしなければいけないと感じました」
そこで2019年1月に取り入れたのが「VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)」だ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)が1980年代に開発した鑑賞教育法で、アート鑑賞を通して「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する教育カリキュラム。以前は教育分野で広がりを見せていたが、近年、欧米で企業研修に取り入れられている。
明治産業は、スクリーンに映し出された絵画を2分間鑑賞し、絵画にどんな感情や感覚を抱いたか、絵画がどのようなストーリーを描いているかを社員それぞれがプレゼンテーションをする研修が行われていた。
例えば、女性とトラが向き合っている絵画では「タイトルは運命。トラと女性は恋に落ちて結ばれる幸せを描いた物語」という感想や、「女性は亡くなる寸前で、強いトラに出会い復活を遂げる再生の物語」という意見など、受け取り方はさまざま。
VTS研修は、直感と感性を言葉にして表現し、固定観念にとらわれることなく、新たな課題を発見する方法を身に付けられる。注目を浴びている手法だが、日本では人材育成にVTS研修を取り入れている企業は少ない。
海外出張が多く、アート鑑賞が趣味の明永氏自身が身をもって必要だと感じたというVTS研修。
「海外ではアート鑑賞が日常的で、絵画の前でディスカッションしている光景がよく見られます。日本ではアートは敷居の高いものという意識が強く、意見を言えない雰囲気がある。組織においても同じで、意見を言うと出るくいは打たれるから黙っておこう、穏便に済ませようという傾向にある。しかし、それは同時に自分の言葉を失うということなのです」(明永氏)
AIにできないスキルを磨き選ばれる人材へ
VTS研修を始めた結果、社員の潜在能力が引き出され、再び積極的になったと明永氏は話す。個人の意見を受け入れることも大きなポイントであり、ダイバーシティーへの理解を深めることにつながるという。
「もはや受け身ではいられないのです。『作者がどうしてこの絵を描いたのか』という受け身の視点から『自分がこの絵を見てどう思うのか』という主体性のある視点に切り替わっていきます」(明永氏)
対象となる絵画は司会に選ばれた社員が探すのが基本だが、時には社員たちが描いた絵を張り出すこともある。偶然にもその絵が形の概念にとらわれず、色だけで塗りつぶされたものが多く、社員の心情を解放するきっかけにもなっているという。
「世の中は何でも自動化が進み、AIによって仕事がなくなってしまうという風潮がありますが、果たしてそうでしょうか。何かに気付き、生み出すことができるのは人間しかいません。だからこそ、感性を磨くことが必要なのです。今後はそういった人材になっていくことが求められます」(明永氏)
社員からは「こうでなくては、気に入られなくては、という意見ではなく、うそではない自分の意見が言えることで、気持ちに余裕が生まれ、行動の選択肢が広がった」という意見が上がっている。
「人は育て方によって大きく変わります。“人財”とよく言いますが、あらためて言葉の意味を実感しています」と明永氏は確信に満ちた表情で語る。プレスリリースも積極的に配信している同社。VTS研修の輪は今後、九州から全国へと広がっていくだろう。
Column
アート鑑賞の楽しさを感じました
同じ絵を見ても、人によって違う感想を持つことに驚き、アート鑑賞の楽しさを感じました。同じ物事でも捉え方や価値観は人それぞれで、自身の固定観念を捨て、他者の価値観を受け入れることで良い人間関係が築け、さらに自分の成長につながるのではないかと思います。これまで美術館に行くことがあまりなく、作品に込められた作者の意図を考えたことはなかったのですが、研修を通してアートの楽しみ方を知ったので、プライベートでもアート施設に足を運ぶ機会をつくりたいですね。
司会を務めた明治産業の西口氏
明治産業代表取締役 明永 喜年氏(左)営業部 永末 有希氏(右)
PROFILE
- ㈱明治産業
- 所在地:福岡県福岡市中央区薬院1-14-5 MG薬院ビル4F
- 創業:1961年
- 代表者:代表取締役 明永 喜年
- 売上高 : 61億円(2019年6月期)
- 従業員数: 44名(2019年9月現在)