産官学が抱えるニーズや課題を結び付けて事業化
―― 若手社員が集まり、ボトムアップでヨコハマ探究学習プログラムの企画がスタートしたのですね。コロナ禍で先が見えない不安や、それを打開しようとする社員の思いが伝わってきます。
組織の風通しの良さもポイントと言えますね。当時、企業や行政、学校はどのようなニーズや課題を抱えていたのでしょうか。
小野 2020年ごろからSDGsが盛んに取り上げられるようになっていましたが、一般企業の中にはSDGsにどのように取り組み、いかに発信するかに課題を抱える企業も少なくありませんでした。また、特に中小企業では中長期的な人材確保に対する課題感もあり、若い世代との接点を求めていました。
一方、学校からは、SDGsは学校で教えるべきテーマではあるものの、学ぶ機会や素材が少ないといった声を聞いており、そうした企業の課題感と学校のニーズをマッチできるのではないかと考えました。
特に横浜市は2018年に「SDGs未来都市」に選定されており、目標達成に向けた取り組みや事業を推進していたので、行政のニーズとも合っています。早速、官民連携で設立された「ヨコハマSDGsデザインセンター」に連絡を取り、2020年5月から3者の強みを生かした探究学習プログラムの開発がスタートしました。
―― それまでもSDGsを学ぶプログラムはあったと思います。従来と異なる点やプログラムの特徴を教えてください。
齋藤 今回は企業や学校、ヨコハマSDGsデザインセンターも含めて企画を練る中で、「探究学習」をSDGsと並ぶ軸として据えました。
探究学習は、「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という3部構成からなり、旅マエは自己学習の時間。実際に現地での体験を高めるために、SDGsや訪問する企業について情報収集して気付いた点や詳しく聞いてみたい点などを整理していきます。
旅ナカは、実際に企業や施設を訪れて体験する時間。本プログラムでは単に見たり聞いたりするだけでなく、生徒側から企業に対して調べた内容やアイデアなどのプレゼンテーションを行います。
旅マエを使ってプレゼンの準備をした上で参加することで、体験の質やプログラムの効果が上がる仕掛けになっています。そして旅アトは、現地で収集した情報を整理する振り返りの時間です。学びや体験を通して、最後に2030年のゴールに向けて自分がどのようなアクションを起こしていくかを考え、落とし込んで終わります。
―― 見たり聞いたりするだけでなく、生徒側から企業にプレゼンするのは興味深いですね。
齋藤 多くの生徒にとって、普段接する大人は限られています。保護者や教員以外の大人と接する機会を提供すること。インプットだけでなく、プレゼンというアウトプットの機会を組み込むこと。SDGsを自分事として捉える機会を提供すること。これらをプログラムの3つの柱と位置付けています。特に、生徒からのプレゼンについては、企業から「ハッとさせられた」という声を多く頂いています。
―― 若い世代の意見は、企業としても貴重ですね。
亀﨑 実際に、プレゼンがきっかけで企業側の行動変化が起こった事例もあります。
例えば、横浜桜木町ワシントンホテルでは、「宿泊客が捨てる使い捨てコンタクトレンズの空ケースはリサイクルできる」という生徒のプレゼンがきっかけとなり、それまで廃棄していた使い捨てコンタクトレンズの空ケースを回収し、リサイクルに回しているそうです。企業の行動変化が起こったことは、学校側にもお伝えしてとても喜んでいただけました。
そのほか、横浜・八景島シーパラダイスの飼育員の方から「細かくメモを取るなど生徒の熱心な姿勢に驚いた」「施設について詳しく調べているプレゼンを聞いて感動した」といった感想が寄せられるなど、企業にも良い影響を与えています。
―― 学校側の感想はいかがでしょうか。
齋藤 教員の方々からは、学校では教えられない経験や知識が得られる点や、企業の視点からSDGsを学べる点について高い評価を頂いていますし、生徒はもちろん教員からも勉強になったといった声が寄せられており、修学旅行として翌年度もリピート参加される学校もあります。
「ヨコハマ探究学習プログラム」の授業風景。生徒からの提案を受け、企業が行動を変えることもあるという
共創をテーマに掲げ、産官学の「三方よし」を目指す
―― 参加する学校が増えると、さらに共創の輪が広がりそうです。最後に、ヨコハマ探究学習プログラムの今後の展開と産官学連携についてお聞かせください。
小野 ヨコハマ探究学習プログラムの特長は事業化されていること。学校には修学旅行の一環として利用していただいていますし、少ないながらも企業に対価を支払うなど実装されているプログラムです。
今後の展望としては、もっとたくさんの学校に参加いただきたいと思っていますし、特に修学旅行は計画から実施まで2年ぐらい期間がありますから、着実に成果は上がってくるだろうと予測しています。ただ一方で、現時点では受け入れられるキャパシティーは限られており、参加企業をいかに増やしていくかが事業拡大に向けた課題になっています。今後は、大規模な施設を持つ企業などへもアプローチしながら、基盤を整えていきたいと考えています。
産官学連携については、まずは各営業担当者がしっかりとお客さまのニーズや課題を引き出すこと。その上で、よりコンサル的な視点から課題解決に向けて連携させていく役割が求められていくと思いますし、そこを結び付けられるのが当社の強みです。全社的に「つながり」や「共創」をテーマに掲げており、今後も「三方よし」を実践できる産官学連携に積極的に取り組んでいきたいと考えています。
(株)JTB
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