サイボウズのワークスタイル制度
社員のライフスタイルや考え方に沿って
それぞれが望む働き方を実現
サイボウズの制度はジョブ型雇用※の要素を取り入れているものもある。例えば、やくわリストや大人の体験入部は、新しい仕事や業務を見つけられるため、スペシャリストとしてのキャリアを歩む手助けになる。また、同社の働き方を象徴する働き方宣言制度は、勤務時間や働く場所が限定できる点においてジョブ型雇用と共通する。
「当社はジョブ型雇用を目指しているわけでありません。最終的な目標である100人100通りの働き方を実現するために、『型』にとらわれることなく最善と思う方法を選んでいくのが基本的な考え方です。ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のそれぞれの良い点を抽出したハイブリッド型で、今後も改革を推進していきたいと考えています」(青野氏)
働き方が多様化すると、一律の階級やグレードはなくなり、給与モデルもなくなる。そのため同社では、給与を市場価値(社外的価値)に社内的価値を加味して決める方法を用いている。転職支援会社のデータやサイボウズに転職した人の前職年収、年齢などを活用して「相場」を算出する。
「もちろん、厳密な市場価値の算出は難しいです。そこで、人事部が各種データを用いて社員の市場価値を割り出す一方、社員も自分の市場価値を把握した上で給与交渉を行います。売り手と買い手の価値が一致して商品の売買が成り立つのと同じです。会社側も、社員が自分の価値を把握して会社に交渉することを推奨しています。これにより、自分に合う働き方と報酬をセットで考えられる自立した人材になれるはずですから」(青野氏)
※職種を通じて「会社と個人の対等な取引」を根本的な理念とする制度。事業・戦略の方針により組織と必要な職種が定義され、結果としてあるべき要員が定まる
人が人を管理することを諦め
マネジメントを軽量化する
全社員との給与交渉や多様化した働き方をマネジメントする手法について、青野氏はこう答えた。
「キントーンを活用することで負担を軽減しています。例えば、給与交渉は『給与希望アプリ』を作成し、給与額が決定したら関係者へ共有するまで全てオンラインで完結できるので、それほど煩雑な業務はありません」(青野氏)
さらにサイボウズは、全社を挙げて「マネジメントの軽量化」を打ち出している(同社は「人が人を管理することを諦める」と表現する)。マネジャーが部下を管理することをやめ、情報の徹底公開や社員間の「説明責任と質問責任※」を果たすことで、マネジャーの仕事を軽減している。社員の多様な働き方を実現すればするほど、従来のマネジメントは通用しなくなる。今まではマネジャーしか知り得なかった情報もオープンにすることで、社員一人一人が自己マネジメントしやすい環境をつくろうとしているのだ。
同社は現在、大部分の社員がテレワークで働いている。社員アンケートを行ったところ、「今後も出社しない」と回答した社員が6割近くに及んだという。
「新型コロナウイルス感染拡大前のアンケートでは、出社を望む社員は8割ぐらいだったのが少数派になった。そうなるとテレワークをメインの働き方として考えなければいけません。当社では2010年ごろからテレワークを導入しており、ある程度は体制が整っています。ですが、今後はさらに100人100通りの働き方の実現に向け、新しい仕組みをつくることが必要になります。
例えば、朝早くから働きたいという人がいれば、夜型という人もいる。夜間勤務の場合は特別手当が必要なのかといった法律に関わることも含め、新しい枠組みが必要になります。また仕事内容によっては、社員ではなく業務委託で生産性が高まるケースもあるかもしれません」(青野氏)
オンライン上での社員の体調管理手法や、現地に行かずとも自社で講演会などを行える専用スタジオの開設など、あらゆる可能性を想定しながら制度の策定を進めることが必要になると青野氏は言う。サイボウズの働き方改革は、新たな局面に一歩踏み出している。
※社内制度や人間関係、誰かの発言などに対して意見があれば、小さなことでも質問・意見する責任があり、また、質問された側はそれに対して答える責任があるというサイボウズ独自の文化
PROFILE
- サイボウズ(株)
- 所在地:東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー27F
- 設立:1997年
- 代表者:代表取締役社長 青野 慶久
- 売上高:134億円(連結、2019年12月期)
- 従業員数:741名(連結、2019年12月現在)