「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げ、2015年に「女性活躍推進法」が施行された。その140年以上前から、独自の教育によって豊かな教養と専門性を兼ね備えた女性を育成している学校がある。その原点と現在の姿とは。
仕事力ある、おしゃれな女性――。「女性活躍推進法」のはるか以前から、そんな人材を輩出してきたのが大阪・北摂の地に女子大学、高校・中学、幼稚園を構える梅花学園だ。
創立者である澤山保羅は日本人初の牧師。米国留学中、当時の日本では難しかった「女性が教育を受ける」ことに感銘を受けた。帰国後、「キリスト教精神に基づき、他者への愛と奉仕の精神を備える自立した女性を育成すること」を建学の精神に、1878年、大阪・土佐堀で梅花女学校を開校した。
「全ての人が女性から生まれる。女性の地位向上に向けた知育と徳育は、日本の将来と社会を豊かにする」。高い志を胸に、澤山は教会から資金を得るミッションスクールではなく、制約を受けない自由な教育を行う学校を目指し、教会信徒の寄付金集めに奔走した。また、家政や調理が多い女子教育とは一線を画し、体育や数学など男子教育と同じカリキュラムを組んだ。
「女性の自主・自立を目指す教育の根幹は、142年たっても変わりません。それをいまの時代に体現する言葉として掲げるのが『Challenge & Elegance』(以降、C&E)です」
そう語るのは、自身も中学から大学まで10年間、“梅花人”として学んだ常務理事の藤原美紀氏だ。冒頭の「仕事力」や「おしゃれ」は、業務遂行力やファッションセンスだけを指しているのではない。さまざまな問題に立ち向かい解決していくチャレンジ精神と、品性や思いやりがあるエレガントさを兼ね備えるという意味だ。
社会に適応し、貢献する力を持った人物へと学生を育てるための取り組みで注目を集めているのが、「Baika×企業」の産学連携コラボレーションプロジェクト(以降、コラボ)だ。
梅花女子大学には年間30件近いオファーが届き、2011年の開始以来、約200件の案件を取り扱う。最大の特徴は、コラボの主体が「教授や研究室」ではなく「学生」であること。
「少子化・人口減少の新時代を迎え、どんな新しい価値を生み出すかが日本経済の共通課題です。女性の感性に基づく問題解決力が、企業の技術と融合してイノベーションを起こす。そんな梅花女子大学ならではのコラボを行っています」(藤原氏)
JR大阪駅に隣接する、グランフロント大阪ナレッジキャピタルの産学連携拠点「The Lab.」に常設ブースを置き、メーカーやリテールチェーン、放送・情報サービス、鉄道会社など多岐にわたる企業とコラボ。大手印刷会社とのコラボで19世紀の貴重な蛇腹絵本をデジタル化して展覧会を開催したところ、「美しさの感性」が高く評され、2015年にはThe Lab.の「ナレッジイノベーションアワード」グランプリを受賞した。
また、老舗の梅加工食品メーカーとは、紀州産南高梅を豆乳つゆで味わう「梅なでしこ鍋」を開発。全国のリテールチェーンで発売し、学生が売り場で鍋に合う具材を提案するなど「商品プラスアルファの価値づくり」を実践した。
「若者があまり食べない、冬場に需要が落ちる、という梅干しの課題を解決しようと、学生がメーカーの方の思いを大切にし、食べたくなる食のシーンを考案しました。また、ロボット開発のコラボでは『完璧すぎない方が親近感がある』との学生の視点を基に、作り手の思いと使い手のニーズやシーズにギャップが少ないロボットのアイデアを提案しました」(藤原氏)
学生全員が卒業までに最低でも1回、産学連携コラボに参加する。企業は、魅みせ方や価値付けを変える感性からインスパイアを受け、学生は仕事の進め方やプレゼンテーションを経験して商品化で達成感を味わう。学園も、学生の家族や同窓生に発信して学びの成果を見える化し、話題性が高まる。企業と学生、学園がそれぞれに得難い価値を与え合う関係が生まれている。
「産学連携の活動を通して、社会が何を求めているのか、どんな課題を解決すべきか、学生自らが気付くのです。成功して採用されたら喜ぶ。失敗しても、成功するにはどうすべきだったかを考えることが実践的な学びになっています」(藤原氏)