ブライダル事業進出から15年。新業態を成功させるポイントを挙げるとすれば、出口氏の卓越した経営センスや新規事業に対する情熱、失敗から謙虚に学ぶ姿勢、さらに、社員に共有される価値観や人を育てる仕組みであろう。これらが、失敗をのみ込みながら成長し続ける柔軟な組織をつくり上げている。
また、バラバラに見える事業展開に、一つの軸が通っていることも重要なポイントになる。それが、先代から受け継がれる「喜び上手、喜ばせ上手」という価値観だ。人に喜んでもらえる事業であることが、同社にとって事業化するかどうかの最初の判断基準になっている。その上で、出口氏が求めるのは「チェンジバリュー」。その事業が、これまでの常識を変える新しい挑戦かどうか。出口氏流に言えば、「おもろいか?」だ。
「事業に失敗はつきものです。勝率は上がっていますが、ゼロにはなりません。問題は、失敗したときにどう捉えるか。提案が企業理念や『人の価値観を変える』というミッションに沿っており、かつワクワクするのであれば、挑戦します。失敗したとしても得るものが必ずある」(出口氏)
このチャレンジ精神は、2020年オープン予定の福岡市の宿泊付きブライダル施設にもふんだんに盛り込まれている。例えば、ゲストハウスウエディングでよく見掛けるプールは、維持管理の観点から深さはだいたい60㎝程度。しかし、同社は人が泳げる深さのプールを作る計画だ。決め手は、「プールに入って結婚式ができたら面白い」(出口氏)という考えから。しかし、そこには出口氏の「日本に、ブティックホテル※をつくりたい」という夢も込められている。
「ブライダルや飲食、写真スタジオ、フィットネスジムなど、多様な事業を手掛けてきた当社にとって、ホテルは経験を生かす大きなチャンスです。結婚という人生の一大イベントを起点に、家族を連れて何度も訪れたくなるような、ライフスタイルに寄り添った施設があったら面白いはず。もっと自由に、大胆にビジネスを広げていきたいと考えています」(出口氏)。その出発点になるのが、福岡市のプロジェクトというわけだ。
さらに、2025年に100億円企業になることを同社は約束している。「その道筋は社員にも見えているはず」と出口氏。奈良のアトツギベンチャーは、幾多の挑戦を繰り返しながら、これからも常識を変え続けていくだろう。
※ 独創性の高いコンセプトやデザイン、きめ細かいサービスを売りにする比較的小規模な高付加価値・高価格帯のホテル。2000年ごろから世界中に広がり人気を集めている
Column
全社員が共有するコアバリュー
躍進を続けるディライトにおいて、社員の行動指針になっているのが「CORE VALUE」(コアバリュー)だ。主体性、人間性、創造性、先見性、革新性という五つからなるコアバリューは、社員との話し合いによって決められた価値観。業務に関する課題解決や提案などの話し合いも、全てこれに照らし合わせて行われている。
「仕組みを変えながら取り組んでいますが、ここ1年でかなり浸透していると実感しています」と出口氏。例えば、同社には役員や幹部が体験したことや感じたことを書き込む日誌と、社員が誰でも書き込める日誌の二つがある。いずれも、社員であればスマホなどで自由に閲覧できて、コメントを書き込めるため、毎日新しい投稿やコメントが寄せられているそうだ。
「組織がおかしくなる原因の一つはコミュニケーション不足。コミュニケーションツールを作るなど工夫を凝らしていますが、やはり同じ価値観を持つ同志を社内に増やしていくことが重要だと考えています。特に、良いこと、悪いことの基準をきちんと共有するよう力を入れており、時には時間を掛けて話し合いをするなど全員で取り組んでいます」(出口氏)
地域を越えて多店舗、多角化を進める企業にとって、価値観の共有は生命線と言っても過言ではない。こうした外から見えない努力によって、今日の同社がつくられている。
PROFILE
- ディライト㈱
- 所在地:奈良県奈良市春日野町98
オリックス名古屋錦ビル9F - 創業 : 1950年
- 代表者:?代表取締役社長 出口 哲也
- 売上高 : 40億円(2018年3月期)
- 従業員数:350名(アルバイト含む、2019年9月現在)