中堅メーカーが与えるインパクトと求められる役割
製造業は日本のGDP(国内総生産)の約20%を占める規模であり、国の経済を支える中心的な産業である。また2012~2022年の1人当たり名目労働生産性※1の推移は、全産業平均がほぼ横ばいであるのに対し、製造業は上昇傾向にあり、2022年は全産業平均の1.2倍に当たる1031万円となっている。
製造業全体の営業利益の推移を見ると、2022年は製造業全体で約19兆円と過去10年で金額が最も大きく、2023年も製造業全体で約17.9兆円と高水準にある※2。つまり、製造業の停滞は日本全体の停滞につながり、逆に製造業が元気になれば日本全体が元気になるのである。
2024年の「中堅企業」数は9229社であり、そのうち製造業は16.3%(約1500社)を占める※3。
経済産業省は、中堅企業を地域経済のけん引役と位置付けている。成長余地の大きい中堅企業を支援し、賃上げや国内投資の後押しを行うことで、国内経済の持続的な成長につなげることを見込んでいる。こうしたサポートを追い風に、中堅企業は国内経済・地域経済のけん引役となることを期待されている。つまり、中堅メーカーは、国内経済の成長や地域経済の活性化、地域の雇用創造など、果たす役割のインパクトも大きい。
中堅メーカーが成長する3つの着眼点
中堅メーカーが成長するためのポイントについて、①中堅メーカーが抱える課題の整理、②チャンスとなる未来の製造ドメインの理解、③中堅メーカーが取るべき5つの戦略、という3つの着眼点で整理する。
❶ 中堅メーカーが抱える課題の整理
海外情勢の不安定化など外部環境の変化に伴う課題が顕在化する中、中堅メーカーは近年、人材不足、コスト管理、品質管理、デジタル化、サプライチェーンの管理、環境配慮、競争激化、技術革新、顧客ニーズの変化、規制・法令順守という10の課題への対応が求められている。
これら課題は互いに関連する内容も多い。例えば、人材不足とデジタル化への対応は関連があり、海外の環境変化は原価上昇や規制の強化と関連する。自社にとっての本質的な課題、つまり、改善することで他の課題も連鎖的に解決に向かう「根源的な課題」に、まずは目を向けるべきである。
また、自社のみでは対応が難しい問題もある。それらも含めて優先順位を決めなければならない。手を打つことをこまぬいていては傷口が広がる。本質的な課題であり、かつ自社ですぐに取り組める課題から遅滞なく手を打つことが重要である。
❷ チャンスとなる未来の製造ドメインの理解
未来の製造業に目を向けると、成長するドメインや主要となるテクノロジーがあり、これらを取り込んでいくことが、未来の中堅メーカーにとってチャンスとなる。(【図表】)
【図表】「新市場×戦略」で中堅企業の成長を促す
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
宇宙産業や次世代エネルギー、スマートシティーなど規模感の大きなドメインテーマを見ると、自社ではなかなか取り組みづらいと感じるかもしれないが、バリューチェーンで分解すると、非常に多くのプレーヤーが関わっていることに気づくだろう。実際、宇宙産業分野では和歌山県が官民連携でプロジェクトを推進。学生への教育においても宇宙がテーマに取り入れられている。
今後、これらのドメインに関連する新たなニーズが多数顕在化してくると考えられる。常にアンテナを張ることが、新たな課題へのソリューションに目を向けることにつながる。
こうした分野への取り組みが、若い人材を引き付ける企業へ成長する足掛かりとなり、地域を活性化させる突破口の1つともなる。企業価値を向上させ、優秀な人材が集まり、顧客や地域など幅広いステークホルダーへ正のインパクトを与えることにつながる。これこそ中堅企業が取り組むべきテーマである。
❸ 中堅メーカーが取るべき5つの戦略
現在の課題へ対応しながら未来の新産業としてのチャンスに向けて取るべき戦略を、5つに集約して提示する。
【テクノロジー戦略】
自社の技術を徹底的に磨き上げ、湧き上がる未開のマーケットにアジャストした中堅企業ならではのソリューションを創造する(ミッション・ビジョンを実現するソリューションに必要なテクノロジーに投資する)
【デジタル戦略】
未来の製造業はデジタルなくして成長できない。攻めと守りの両面でデジタル戦略を精緻に構築する(デジタルの活用で人にしか発揮できない価値に集中する)
【アライアンス戦略】
自社の強みを、異業種を含む他企業や自治体などの強みと掛け合わせることで、変化の激しい未来のマーケットに挑戦する(長所と長所を結ぶ長所連結経営の思想が新たな価値を生み出す源泉になる)
【サステナビリティ戦略】
地球規模でサステナビリティの重要性は高まっている。強固なグローバルバリューチェーンを構築し、顧客に選ばれる存在となるために、サステナビリティは不可欠である(持続可能な戦略・戦術でなければ未来における企業や経済の成長はあり得ない)
【サービス戦略】
ハードに加えてソフトも提供することで、新規参入などの脅威に対抗するための新たな企業価値を創造する(製造業がサービス業化することが新しいビジネスモデルとなる)
これらの戦略の全てを実行する必要はないが、自社の企業価値を最大化させるために必要な戦略に対しては、遅滞なく取り組むべきである。
まとめとして、中堅メーカーが取り組むべきは次の3点である。
❶ デジタル人材・グローバル人材などの育成に、体系的に取り組む
❷ 既存事業をイノベーションし、新しいソリューションを持つ事業でポートフォリオを組み直す
❸ デジタルを活用し、本質的課題の解決と製造未来モデルの構築の両面で企業価値を向上させる
これらのテーマにおいて、大企業にも中小企業にもできない、中堅企業ならではの差別化した取り組みを組み立てていただきたい。
製造未来モデルとは自社の強みをベースとし、未来に成長するドメイン×戦略で創り上げる新たなビジネスモデルである。自社の強みを生かすことのできる未来の製造ドメインと、そこへ向かう戦略で事業ポートフォリオを組み直すことが、自社ならではの製造未来モデルの構築につながる。
※1 名目労働生産性=経済活動別付加価値の合計÷就業者数
※2 経済産業省「2024年版ものづくり白書」(2024年5月31日)
※3 東京商工リサーチ「2024年の「中堅企業」は9,229社(2024年4月23日)

ストラテジー&ドメイン エグゼクティブパートナー
専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中・長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けている 。