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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2025.01.06

グローバル戦略を推進する組織デザインとグローバルリーダー 村上 幸一

成長ステージ別グローバル組織戦略

 

「組織は戦略に従う」という経営戦略論における命題を提示したのは、経営史学の大家、アルフレッド・チャンドラーである。これは国内のみでも、海外に事業展開していても変わらない。ただし、企業の成長と規模拡大に伴い複雑さが増す組織経営は、海外拠点の増加とともに難易度が上がっていく。海外拠点の数に加え、事業が多岐にわたるとなおさらである。(【図表】)

一般に企業の海外取引は貿易という形でスタートする。つまり、日本のみに拠点を置き、輸出入することで海外に販売、あるいは海外から仕入れを行う。その際、組織の中に輸出課や海外貿易課などが設置され、実務を行う。それが売り上げやエリアの拡大に伴い、海外事業部あるいは国際事業部に昇格される。海外事業部は、企画型と管理型に分かれる。

企画型海外事業部は、海外との取引が複数の国にまたがり、販路が増えても現地法人を持たず、各国代理店を通じた販売を主とする場合が多い。マーケティング・営業の企画や調整、情報コントロールなどを職掌とする。カウンターパートはあくまでもパートナーであり、自社の統制範囲が限定されることが特徴である。

他方、管理型海外事業部は、生産あるいは販売拠点を現地法人として自社で所有しており、統制や調整、マネジメントを担う。自社資本の拠点マネジメントとなるため統制を取りやすい半面、管理部門としての重責を担う。 また、統制を取りやすいとは言え、海の向こうの遠隔地であり、法律や商慣習が異なり多様な困難が伴う。

海外事業が拡大し、単一事業を複数国に展開する場合、海外部門は当該事業部の中に配置され、複数事業が単一国で展開される場合は、そのまま他の事業部と独立した形で海外事業部が差配するケースが多い。さらに、多事業を複数の国で展開する場合、事業別組織あるいは地域別組織に編成される。事業と地域を掛け合わせたグローバルマトリクス組織へ進化することもあるが、マネジメントの干渉や複雑さが増し、調整と運営に多くの労力を費やすことになりやすい。

組織デザインや体制と連動する論点として重要なのが、本国本社と現地子会社がそれぞれ担う機能と役割である。海外関連組織が拡張し、グローバルサプライチェーンやバリューチェーンが伸長すれば、ブランディングやマーケティング、製品開発、仕入れ・調達、HRなど、どこが(本社、海外現地法人)、何を(機能、役割)、どこまで(決裁権限と範囲)担うのかが、組織運営や事業成長に大きな影響を与える。中央集権と地方分権のベストバランスを見極め、設定する必要がある。 グローバル組織戦略や体制に絶対的な解はないが、自社の事業戦略の最適解を見いだす参考にしていただければ幸いである。

 

【図表】ステージ別グローバルデザイン
【図表】ステージ別グローバルデザイン
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成

グローバルリーダーの重要性と3つのギャップ

 

海外事業を推進し、海外関連組織をマネジメントするためのKFS(重要成功要因)はグローバルリーダーである。全ての組織でリーダーシップが重要なのは当然だが、国際的なポジションで活躍が期待されるグローバルリーダーは希少かつ貴重である。国内外を問わずリーダーに必要な資質や能力の本質は同じであるため詳述は割愛し、その違いにフォーカスしたい。 海外拠点でマネジメントに携わるリーダーが直面するギャップは大きく3つある。

1つ目はポジションのギャップである。例えば、海外現地法人のトップを務めるのは本社の事業部長・部長レイヤー、役員は次課長レイヤーの人材が多い。つまり2~3階級特進のポジションに就く傾向にある。

2つ目は職掌のギャップだ。本国本社の場合、事業やセグメント、間接部門など専門別の組織が分化し確立している。一方、海外現地法人は規模の小ささや各国の独自性もあり、1つの組織で多くの役割を担わざるを得ず、未経験や知識不足の組織機能のマネジメントも求められる。

3つ目は成長ステージのギャップである。一般的に、日本企業は本国での事業成長・確立後、海外進出を図る。つまり、日本では成熟した市場と確立された産業構造の中で確固たるポジションを築いているが、進出先の海外では多くの場合、新規参入あるいは成長拡大のための挑戦者ポジションとなる。

海外あるいは海外事業を統括するリーダーは、通常の課題に加え、こうしたギャップに対応する柔軟性と、それを埋める頑強性が求められる。特に、最後の事業ステージのギャップに関しては、現地の内資企業を攻略する際に不可欠である。せっかく海外進出しても、日系企業だけを顧客にしていると拡張性が不足し、グローバル戦略の真の成果を得にくい。

また、日本では業績責任を担う管理職で、損益計算書(PL)に慣れ親しんでいても、貸借対照表(BS)を理解できないケースも散見される。

そして、世界共通言語である英語は多少なりとも習得しておきたい。これだけ多くを求められるグローバルリーダーシップの発揮を、本人の資質と努力のみに依存するのは適切ではない。会社として、グローバルリーダーを育成する取り組みが求められる。

 

グローバルリーダー育成プログラム

 

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が人材育成に最も有効なのは論をまたないが、体系的な育成の仕組みがなければ再現性は担保されない。そのため、タナベコンサルティングではグローバルリーダーに求められる知識とスキル、マインドを養成する約半年間の育成カリキュラムをプログラムした。 グローバルリーダーとしての本質論や3つのギャップ認識、対策アプローチ手法、異文化コミュニケーション、グローバル戦略、組織・HR戦略と同時に、会計・財務の基礎知識、財務分析手法を学んだ後、英文会計やIFRS(国際会計基準)の概要や考え方にまで展開させていく。

事業は組織によって推進され、組織はトップのリーダーシップによって動く。グローバルリーダーの育成なくしてグローバル戦略、海外事業の成功はない。その育成は最重要事項とも言えよう。

PROFILE
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村上 幸一
KOUICHI MURAKAMI
タナベコンサルティング 取締役
VCにおいて投資先ベンチャー企業の戦略立案、マーケティング、フィジビリティスタディ(事業性評価)など多様な業務に従事。豪州での現地工場の設立と運営、米国の大学とのTLO(技術・特許移転)を通じた大学発ベンチャー企業の日本市場開拓支援など、国境を越えた産学連携の実績を有する。タナベコンサルティング入社後は、事業戦略策定を軸に、ビジネスモデルの立案、新規事業開拓支援、M&Aにおけるビジネスデューデリジェンスなど多岐にわたるコンサルティングに従事。