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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.12.02

産学連携による事業開発戦略  河村 周平

産学連携のトレンド変化

 

グローバル競争が激化し、社会課題の複雑化が進む現代、1社での新たな事業開発推進は困難になってきている。本稿ではオープンイノベーションによる事業開発戦略として産学連携をテーマに取り上げる。

産学連携とは、大学や研究機関と企業が協力して研究開発や事業開発を行うことを指す。限られたリソースを最大限に活用し、持続的な成長を実現するために、産学連携の重要性は増している。経営資源として、企業内部だけではなく外部リソースを活用する視点を持つことが非常に重要なポイントとなる。



❶ スタートアップ企業が与える経済インパクト
社会課題解決・社会貢献の担い手としてスタートアップへの期待は高まっている。新型コロナワクチンは、ビオンテックやモデルナなどのスタートアップ企業がいち早くワクチンを開発・実用化した。

またWOTA(東京都中央区)は能登半島地震の被災地に対し、断水時でも機能する小規模分散型水循環システムの提供を行うなど、さまざまな場面でスタートアップ企業の技術が生かされている。

実際、スタートアップ企業によるGDP(国内総生産)創出額は、直接効果で10兆4700億円、間接波及効果を含めると19兆3900億円(北海道の名目GDP額と同規模)※1にも上る。2022年には政府が“スタートアップ創出元年”と銘打って「スタートアップ育成5カ年計画」を発表し、今後は国として積極投資を進めるという姿勢を示した。

 

❷ 大学発ベンチャーの創出とアントレプレナーシップ教育推進を目指す日本
大学発のベンチャー企業も増加傾向にある。経済産業省「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」の結果によると、2023年10月時点での大学発ベンチャー数は4288社で、2022年度に比べ506社増加。企業数および増加数ともに過去最高となり、2014年度から右肩上がりを続けている。

背景にはアントレプレナーシップ教育の拡大が挙げられる。大学でのアントレプレナーシップ教育が充実することで、学生や研究者が起業に対する知識やスキルを身に付けやすくなり、起業家精神を持つ人材の育成につながる。これにより、大学発ベンチャー企業の設立が促進され、企業と大学の連携が一層強化される。さらに、アントレプレナーシップ教育を通じ、学生が実践的なビジネス経験を積む機会が増え、企業との共同(産学連携)プロジェクトを活発化させている。

 

❸ 産学連携の推進により企業側が享受するメリット
2022年度の産学連携企業による共同研究件数は3万300件(2021年度比2.2%増)、研究費約977億円(同9.5%増)※2で、いずれも増加傾向にある。

企業は産学連携を推進することで、多くのメリットを享受できる。まず、大学の最新研究成果を活用することで技術革新を迅速に進めることができ、競争力が大幅に向上する。また、研究開発費用を大学と分担することでコスト削減が可能となり、リスクも分散される。

さらに、産学連携を通じて優秀な学生や研究者をリクルートする機会が増え、将来の人材確保が容易になる。産学連携プロジェクトに参加することで、企業のブランドイメージが向上し、社会的評価も高まる。このように、産学連携により機能補完を行うだけではなく、多角的なメリットが存在しているのだ。

 

産学連携における壁と成功に向けたポイント

 

複数の大学・企業とのコミュニケーションを通じて考察したところ、産学連携プロジェクトが抱える課題は大きく3つに分類できる。

❶ 事業化の壁
産学連携プロジェクトが学生の「学びの機会」として機能する一方、「成果の不明瞭さ」が課題となるケースがある。実際、「企業側からの課題・テーマ」に対し、アウトプットを出すことが目的となり、事業化に至らない短期的な取り組みとなってしまう例が数多く発生している。

これは大学側だけではなく、連携先企業の熱量も課題となる。アウトプットを出して終わりではなく、その後の事業インパクトにまでこだわり、企業のビジョン・社会的使命を理解し、社会に対してどのように貢献できたのか。産学連携によるアウトプットで解決する社会課題に対して共通の意識・ビジョンを持つ取り組みに昇華させることが必要となる。



❷ 持続性の壁
産学連携プロジェクトは企業・学生ともに本業を抱える者同士の連携となる。そのため、スタート段階では双方の意識が高くても、時間経過とともに大学(学生)・企業の熱量が低下し、成果につながらないケースもある。

産学連携は、大学側では教授・学生・運営、企業側ではプロジェクトメンバーなどさまざまなステークホルダーが関わりながら推進される。コミュニケーションやプロジェクトマネジメント力の不足は致命傷となり、プロジェクト全体に遅れが生じたり、途中で頓挫してしまったりすることもある。双方の立場を理解したプロジェクトマネジャーの存在が重要となる。



❸ 認知の壁
企業と大学をつなぐ「誘致力」「マッチング力」も大きな壁となる。企業の立場では、「どの段階で相談すれば良いのか分からない」「知的財産の流出につながるのではないか」「事業化後の大学との契約はどうなるのか」など、依頼事項や推進方法の認知・解像度が低く、特に中堅・中小企業は連携先に「大学」を想定するケースがまだ少ない現状がある。

産学連携という取り組みを理解し、課題を持ち込む企業側、そして持ち込んでもらう大学側のマッチングを促進することが重要なポイントとなる。

3つの壁を超えるに当たり、企業と大学のニーズや期待を事前に調整し、共通の目標を設定することが重要である。定期的なミーティングやフィードバックを通じてプロジェクトの進捗しんちょくを確認し、必要な調整を実施。プロジェクトの成果を適切に評価し、次のステップを計画することで、成果を最大化できる。

タナベコンサルティングでは、大学と企業をつなぐ産学連携プロジェクトとして、大学に対する企業マッチングから事業化構想までのプロジェクト推進支援を行っている。対象企業の新規事業創出から具現化までを推進するプログラムである。

また、その企業固有の課題をテーマにした学内の講座開講なども行い、創業65年超の歴史の中で培った実証済みのコンサルティングメソッドを生かし、経営に関する外部有識者として産学連携による事業開発を支援している。

産学連携による事業開発は企業にとって成長の機会となり、多くのメリットが存在する。一方で、明確なビジョンがなければ、壁に阻まれるのも事実である。まずは、事業・サービス・製品開発において、オープンイノベーションとして社外のリソースの活用について視野を広げてみてほしい。その上で、産学連携により複雑化する社会課題の解決による事業創出へ挑み、新たな競争力を獲得するための取り組みを検討いただきたい。

 

※1 経済産業省「スタートアップ育成に向けた政府の取組 スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」(2024年9月)
※2 文部科学省 科学技術・学術政策局「大学等における産学連携等実施状況について 令和4年度実績」(2024年2月)

PROFILE
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河村 周平
SYUHEI KAWAMURA
タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメイン ゼネラルマネジャー

電気機器業界にて営業、営業企画・商品開発部門マネージャーを経て、タナベコンサルティングに入社。業界・規模問わず、企業ごとのコアコンピタンスを活かした事業戦略構築・新規事業立ち上げ支援を得意とする。また、SDGsの立ち上げから社内推進/戦略構築/企業ブランディングなどの実績も多く持つ。