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コンサルティングメソッド
コンサルティング メソッド
タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティングメソッド 2024.11.01

IT化構想の確立による「働き方改革」の実現 寺井 秀一

DXの現状

経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月)では、DXの取り組みを「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の3段階で示している。(【図表】)

【図表】DXの構造

出所 : 経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(2020年12月)より タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
デジタルツールを導入し、自社内の特定の工程における効率化を推進するデジタイゼーション、自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化し、生産性と付加価値を高めるデジタライゼーション。

デジタルトランフォーメーション(DX)は、デジタル技術の活用による新たな商品・サービスの提供やビジネスモデルの開発を通じて、業務プロセスや組織、働き方そのものを変革することで競争優位性を獲得するという概念である。

少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が見込まれる日本において、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態によらない公正な待遇の確保などの「働き方改革」を実現するためには、各企業の経営トップがDXの重要性を理解し、全社の取り組みとしてDXを推進しなければならない。

DXを推進していくために、まずはアナログ業務のIT化であるデジタイゼーション、デジタライゼーションが必要となるが、取り組みの進捗は収益構造や事業規模の分布、外部環境といった産業別の特性により差が生まれている。

情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2024」(2024年6月)で、DX・IT化の取り組み状況を従業員規模別に見ると、「1001人以上」の企業はすでに96.6%が取り組んでいるが、「100人以下」の企業は44.7%と半数以下しか取り組んでおらず、2倍以上の差がある。業種別では、「金融業・保険業」が97.2%、「製造業など」が77.0%と高い一方で、「サービス業」は60.1%と低い。日本の企業全体としてはDXの取り組みが年々増加しているが、生産性が低く、働き方改革が求められる中小企業やサービス業では取り組みが遅れる企業が多い状況である。

「IT化構想」の確立

DXの推進はあくまで手段であり、目的ではない。DXを推進し、働き方改革を実現するためには、そもそもの目的であるビジョン・戦略レベルから見直しを図らなければならない。戦略なきDXは成功しないのだ。

不安定で不確実性の高い現代の経営環境において、全産業に共通する主な経営課題は次の3つである。

❶ 就労環境の整備や人材の定着化など「働き方改革関連法」への対応
❷ 現場生産性の可視化やデジタル技術を活用した遠隔化・自動化の推進
❸ 労務費、原材料費、エネルギーコストの高騰に対する価格転嫁と原価管理の高度化

企業が生き残るためにはDX推進が不可欠であり、目まぐるしく変化する環境変化に対応し、事業やサービス、経営資源のパフォーマンスとシナジー(相乗効果)を最大化する必要があるが、「2025年の崖」に陥る企業も少なくない。

2025年の崖とは、経済産業省の「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」(2018年9月)で提示された言葉である。同レポートには、「複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムが残存した場合、2025年までに予想される IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失は、2025 年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性がある」と記されており、企業に衝撃を与えた。

その後、多くの企業がデジタル技術の活用を進めたが、DXの前段階であるデジタル化にとどまっており、本格的にDXを推進できている企業は少ない。

DX推進を望んでも、経営層や現場の抵抗、長年続いたシステムの過剰なカスタマイズ、部分最適のメンテナンスを繰り返し行ったことで、システムが複雑化している企業が多い。また、既存システムは単独業務を管理するものが多く、他のシステムとのデータ連携がスムーズに行えないため、エクセルやCSVデータによる再加工の手間が増えている。

このような非効率で複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムを「レガシーシステム」と呼ぶが、このレガシーシステムの見直しが重要である。そのためには、全社・経営視点での業務とシステム運用のあるべき姿を策定し、最適なDX戦略とIT化・システム構想を可視化する「IT化構想」の確立が求められる。

IT化構想の確立は、次の2フェーズで展開する。

フェーズ1:調査・分析

経営幹部や管理者へのインタビューや現場業務ヒアリングを通じ、業界特有の業務プロセスを踏まえ、業種および企業規模に応じた在るべき姿のIT化に向けた課題の可視化や、ボトルネックとなる課題の抽出を行う。その後、システムに求める課題と、業務上で問題となっている課題の平衡点を検討し、システムで解決すべき課題を整理する。

フェーズ2:IT化構想の確立

重要課題・基幹システムの在るべき姿を可視化した調査・分析結果を基に、目指すべきDX戦略・IT化構想を体系的にまとめ、可視化された各種システムの利活用状況を踏まえて、改善すべきポイント・着手すべき優先順位などを整理する。

目指すべきIT化構想として、ITを活用してビジネスを成功させるための戦略をまとめた「DX戦略マップ」や、目標とするIT環境、システム構成図などをまとめ、DX戦略の推進体制や業務改善施策、実行スケジュール(アクションプラン)を明確にすることが、DX成功のポイントである。全社最適の視点でDX化を推進し、働き方改革を実現していただきたい。

 

PROFILE
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寺井 秀一
SHUICHI TERAI
タナベコンサルティング
マーケティング&マネジメントDX ゼネラルパートナー
小売専門チェーンにて店舗運営マネジメント、全社の管理業務などの幅広い経験を経てタナベコンサルティングに入社。企業の持続的成長に向けた事業・営業戦略の策定、組織・経営システムの構築を中心にコンサルティングを展開している。特に、クライアントのミッション策定から非価格競争を実現するブランド戦略の構築・展開を得意とする。多様化する価値観に対応し、戦略を強力に推進する組織デザインと、社員の貢献価値を最大化する取り組みで、クライアントから高い信頼を得ている。