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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
コンサルティング メソッド 2023.05.01

コーポレートファイナンス概論 :福元 章士

コーポレートファイナンスの目的
  コーポレートファイナンスの目的とは何だろうか? 端的に言えば、「企業とさまざまなステークホルダーの良好な関係を通じて、企業価値向上や価値創造を実現していくこと」である。ファイナンスは「財務」「金融」という意味であり、主要な役割は資金調達や調達した資金の運用による事業成長、そして事業の成長を株主や債権者へ還元することである。   しかし、最近は企業と投資家との関係に焦点が当たることが多く、特に気候変動やESG(環境・社会・ガバナンス)を意識した事業投資、M&Aなどのファイナンスも重視されている。単なる会計管理ではなく、財務の視点から経営全体でどのように企業価値を向上させるかというアプローチが不可欠になっている。   コーポレートファイナンスにおけるテーマを外部環境やキーワードで整理すると【図表1】に集約される。     【図表1】コーポレートファイナンスの主要テーマ 出所:タナベコンサルティング作成   価値を創造し、向上させる主体は企業である。企業は、ヒト・モノ・カネ・情報・ブランド・技術・ノウハウなどの経営資源を用いて事業戦略・経営戦略を実行し、社会に貢献することで価値を創造する。すなわち、企業の目的は、自らの価値を上げ社会貢献することである。    
日本企業における企業価値の現状
  企業価値は経済的価値と社会的価値から成る。経済的価値の向上は、主に財務戦略として成長分野への投資による将来の収益とキャッシュフローを最大化することである。一方、社会的価値の向上は、主に非財務戦略として、ESGへ配慮・注力し、将来へ向けて持続的な成長を実現することである。   先行き不透明な現代において、財務資本(有形資産)だけでは企業価値が測りにくくなりつつあり、今後はさらに非財務資本(無形資産)の定量化による総合的な企業価値向上の施策が必要になっている(【図表2】)。   【図表2】非財務資本と財務資本の関係性 出所:タナベコンサルティング作成   企業価値を測る指標として、近年よく使用される指標が「PBR(株価純資産倍率)」である。この指標は、「PBR=時価総額÷純資産」で算出され、非財務資本が企業価値にどれだけ寄与しているかを表す。詳細にいえば、PBRが1倍であれば、会計上の価値(純資産)と企業価値(時価総額)は同等であり、PBRが1倍より高く会計上の価値を超えている分は、非財務資本による付加価値と言える。   PBRが1倍未満の企業の割合は、米国(S&P500)で3%、欧州(STOXX600)で18%なのに対して、日本(TOPIX500)は43%と極めて大きい※1。   この現状から、非財務資本による企業価値向上を実現している企業の割合が、欧米に比べて非常に低い状況にあることが分かる。   次に、時価総額に占める無形資産の割合を見てみると、米国市場(S&P500)の時価総額に占める無形固定資産の割合は年々増加しており、2020年には時価総額の90%と、企業価値評価において非財務情報に基づく評価が大半を占めている。これに対し日本市場(日経225)では、無形資産32%、有形資産68%と有形資産が占める割合が大きい※2。   また、日本の上場企業のCFO(最高財務責任者)に対するアンケート調査(有効回答数:461社)によると、企業価値に大きな影響を与えると考えるサステナビリティ関連項目は、「人的資本の開発・活用」が77%と最も高く、「気候変動」(69%)、「ダイバーシティー」(53%)、「知的資本の開発・活用」(34%)が続いている※3。   日本の経営者が、非財務情報で最も重視している項目は「人的資本」だが、実態としては人材投資が他国に比べ圧倒的に少ない。   欧米に比べたときの人的投資のGDP(国内総生産)比の低さに加え、年々減少している人材投資が、日本の企業価値や生産性の低さの要因の1つと考えられている。   ※1 経済産業省経済産業政策局「グローバル競争で勝ちきる企業群の創出について②」(2022年4月) ※2・3 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局、経済産業省経済産業政策局「基礎資料」(2022年2月)        
企業価値向上に必要な7つの重点テーマ
  非財務情報であるESG活動には、当然、コスト・時間・人材がかかる。これまではこの活動が財務的な効果を生まないと考えられてきたが、近年はこのESG活動が、さまざまなステークホルダーとの長期的な価値創造の基盤という考え方が主流を占めるようになった。   タナベコンサルティングでは、企業価値の向上を図るために重点的に実施すべき7つのテーマを掲げている(【図表3】)。これまで述べてきた通り、財務戦略に加え、非財務戦略も踏まえた企業価値向上に必要なテーマとして捉えていただきたい。   【図表3】企業価値向上に必要な7つの重点テーマ 企業価値向上に必要な7つの重点テーマ ※B/Sは貸借対照表、P/Lは損益計算書、C/Fはキャッシュフロー計算書の略   ❶ パーパスの再定義とMVVの確立   グループ全社共有の価値判断基準の明確化である。自社のパーパスを見直し、パーパスと整合性の取れたMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を明確にすることが大切である。   パーパスとは、企業としての存在価値・在り方やステークホルダーに対する考え方で、「事業を通じて社会に貢献する価値(貢献価値)」を示す。ミッション(企業使命)とは、企業の社会的役割で社会の中におけるどのような課題を解決するのかを示す。   ビジョン(在りたい姿)は、目指すべき社会性、心から達成したいと願う自身の未来像、自社らしさを示す。バリュー(価値観)はミッション・ビジョンを実現する(できる)ために優先すべき価値判断や行動規範を表現したものである。   ❷ 長期ビジョンと戦略ロードマップの策定   パーパスを軸に企業価値を最大化させるポートフォリオ設計である。事業ポートフォリオを実現する戦略オプション(M&A戦略、他社との提携など)の検討と計画策定がメインになる。この事業ポートフォリオ戦略を具体化するため、従来のバリューチェーンの再設計や事業間シナジーを発揮させる組織・マネジメント体制まで時系列にロードマップとして落とし込む。   ❸ 価値創造ストーリーの策定   財務資本と非財務資本の可視化により、どのように価値を向上するかというストーリーの明示である。まず、企業価値の源泉である財務資本、非財務資本(製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本)が何かを明らかにすることと、非財務資本についてのKPI設定が重要なポイントとなる。   この6つの資本がインプットとしてビジネスモデルに投入され、事業活動を通じてアウトプットを生み出し、アウトカムとして6つの資本が強化されるロジックを明示することである。   ❹ 人的資本計画の策定   非財務資本の中核を成す人的資本の可視化と人材投資計画の策定である。人的資本戦略において大切なことは、3つの視点と5つの共通要素で現状の取り組みを評価することだ。   3つの視点とは、①経営戦略と人材戦略が連動しているか、②現状と目指すべき姿のギャップが定量的に押さえられているか、③企業文化として定着しているか。5つの共通要素とは、①動的な人材ポートフォリオ、②知・経験のD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)、③リスキリング(デジタル・創造性など)、④従業員エンゲージメント、⑤場所や時間にとらわれない働き方である。   3つの視点と5つの共通要素で、現在の人事施策である採用、評価、報酬、教育投資、HRテックの活用、兼業・副業、リモートワーク、リモートワーク時のマネジメントスキルの向上などを確認していただきたい。そして、全ての項目を外形的に当てはめるのではなく、自社固有の状況から優先順位と時間軸を設計し、ロードマップへと落とし込む。   また、「人的資本」で大切なもう1つのテーマは、「サクセッションプラン(後継者育成計画)の策定」である。これは、すでに「コーポレートガバナンス・コード」で情報開示を求められている通り、次世代の経営人材をどのように育成しているかを明示するものである。次世代の経営人材が安定的に輩出されなければ、持続可能な経営とは言えない。将来の経営者候補を時系列で選抜して育成する仕組みの構築も、ロードマップに落とし込む必要がある。   ❺ 中期経営計画の策定   策定の考え方が大切である。単に3~5年の積み上げ式の計画立案に終始するのではなく、立案した長期ビジョンからバックキャスト(逆算思考)で中期経営計画を描くことが大切だ。10年ビジョンであれば3カ年中期経営計画を3回転させるイメージで、アクションプランと戦略推進における数値基準まで設計する。   ❻ ガバナンス・リスクマネジメント体制の確立   企業価値向上において価値毀損要因を排除するためのガバナンス体制を設計する。特に、意思決定における取締役会の位置付けと機能の設計が重要になる。   形式的な取締役会ではなく、経営の監督と執行の分離を目的とした取締役会の再設計、監査役会・監査委員会・指名委員会の設置を含めた自社における最適なガバナンス体制を構築する必要がある。また、決めたルールがしっかりと守られているかをチェックする監査システムの設計も不可欠である。   監査の信頼性担保の仕組みとして、3線ディフェンス※4や、内部監査部門が取締役会および監査役会に直接報告を行うデュアル・レポーティングラインの構築などがある。   ❼ IR・SDGs戦略   さまざまな取り組みをいかに株主に伝えていくかである。昨今改訂されたコーポレートガバナンス・コードに対応し、「投資家と企業の対話ガイドライン」にのっとって情報開示を進める必要がある。ステークホルダーへの適切な情報開示と発信が企業価値にも大きく影響するからだ。   例えば、株主通信の見直しとして業況報告や商品情報だけではなく、株主に訴えたい話題を幅広く捉えた情報発信とすることや、オンラインアニュアルレポートを策定し、中期経営目標やトップコメントなどをインタラクティブ(双方向的)かつリアルタイムに発信する。コーポレートコミュニケーションの一環として、これまで発信してきたコンテンツ(動画・映像)をより視認性・閲覧性の高い発信方法へ改善することも不可欠である。   サステナブル経営を実践する企業は、優秀な人材を獲得し、働きやすい環境を創り、社員のエンゲージメントを高めている。そして、非財務資本を財務的価値に結び付けるコーポレートガバナンスの体制を構築し、社会課題を解決して社会価値に貢献することで企業価値を高めていく。   このように、これまで非財務と呼ばれてきたESGに関して、コーポレートファイナンスとの接点が非常に多くなり、今後ますますコーポレートファイナンスの領域が広がっている。まずは7つの重点テーマにおいて、何を優先的に取り組まなければならないのかを確認していただきたい。その早期実装こそが、今後の自社の持続的成長を決める重要な要素になる。     ※4 COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)「内部統制の統合的フレームワーク」で示されている考え方。組織の部門を①現業部門、②管理部門、③内部監査部門に分類し、それぞれに対し、リスク管理における3つの役割(ディフェンスライン)を担わせることで内部統制を実行していく     コーポレートファイナンス概論を語る福元章士  
PROFILE
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福元 章士
Shoji Fukumoto
タナベコンサルティング 上席執行役員 収益・財務戦略構築を専門分野として、建設、住宅、製造、小売業など幅広い業界でコンサルティングを実施。企業再生、組織再編、事業承継などのターンアラウンド支援も数多く手掛けてきた。「1社でも多く企業の成長を誠心誠意サポートする」をモットーに、さまざまな経営課題を解決に導く経営者のパートナーとして高い信頼を得ている。