案件の前に、まず組織をつくる
連続M&Aの成否は、「組織としてM&Aを回す力」に大きく左右される。https://review.tanabeconsulting.co.jp/consultingmethod/20260630102812/で示したM&Aバリューチェーンの起点がコーポレート戦略にあるのは、M&Aが単なる投資ではなく、企業成長を支える経営システムだからである。
中堅企業では依然として、M&Aは非日常業務であることが多い。そのため、社長や役員の経験、勘、人的ネットワークに依存し、案件が持ち込まれた時だけ動く体制になりがちだ。これでは良い案件が来ても検討が遅れ、買収後の統合も現場任せとなり、再現性ある成長にはつながらない。
だからこそ、連続M&Aの第一歩は案件探索ではなく、組織づくりにある。社長個人の判断力を、組織の判断力へと転換することが、コーポレート戦略の中核である。どこにM&A機能を置くのか、誰が責任を負うのか、どの会議体で何を議論し、どこで意思決定するのか。さらに、買収前の検討から買収後のPMIまでを、どの部門がどうつなぐのか。この設計が曖昧であれば、M&Aは毎回ゼロベースで進める属人的な仕事になってしまう。
組織づくりの第一歩は、専門組織ないし専門機能の設置である。最初から大規模な専任部署をつくる必要はないが、少なくとも責任者を明確にした常設機能は必要である。実務的には、社長直轄または経営企画部門の下にM&A推進責任者を置き、財務、法務、人事、情報システム、事業部門を横断して束ねる形が現実的である。
重要なのは、案件が発生した時だけ集まる臨時チームではなく、平時から機能する体制を持つことだ。対象市場や隣接業界の調査、候補企業の整理、投資基準の明文化、外部専門家とのネットワーク形成は、平時に準備してこそ意味を持つ。連続M&Aは、平時の設計と準備が勝敗を分ける。
連続M&Aを担う人材を育てる
次に必要なのが、担当者の知識と経験値の蓄積である。M&Aでは、仲介会社、FA、弁護士、公認会計士など外部専門家の力を借りる場面が多い。しかし、最終判断と統合責任は自社にしか持てない。外部専門家は論点整理や技術支援はできても、「この会社を買って本当に自社の成長につながるのか」「買収後にどのように価値を高めるのか」という問いには、社内の責任者が答えなければならない。
したがって、担当者には企業価値評価や契約知識だけでなく、事業構造を読む力、経営者との対話力、PMIを見据えた論点設定力、社内外を巻き込む調整力が求められる。外部から即戦力を採用するだけでは足りない。自社事業を深く理解した人材を案件に巻き込み、経験を通じて育てる仕組みが不可欠である。
意思決定とPMIを型化する
加えて重要なのが、M&A推進と意思決定の「型化」である。連続M&Aが進まない企業では、毎回論点がぶれ、誰が何を判断するのかが曖昧で、意思決定が遅い。反対に、伸びる企業は判断の型を持っている。
例えば、「自社の長期ビジョンに合致するか」「既存事業とのシナジーは何か」「人材確保や拠点戦略に資するか」「買収後数カ月で着手すべき課題は何か」といった基準をあらかじめ言語化している。会議体、決裁フロー、確認資料、デューデリジェンスの論点、PMI初期計画までを標準化することで、判断のスピードと質を両立できる。
毎年複数のM&Aを行う㈱ SHIFTは、M&A/PMIを一貫して担う体制を整備し、専属チームに蓄積された知見をもとに、案件検討からPMIまでの「型化」を進めている。実際、同社は2025年にグループ経営推進部を本部とする組織再編とPMI戦略部の立ち上げを進めており、案件検討ではLOI(意向表明書)提出前工程のチェックリスト化や100日プランの標準化など、再現可能な仕組みを構築している。
同様にM&Aで成長している㈱ GENDAは、上場後に戦略投資部、グループ経営管理部、コントロール部へと機能を分け、Pre-M&A、PMI、予算管理の役割分担を明確にした。さらに、M&A~PMIの一連のプロセス強化を進めるとともに、管理部門の担当者が集まるPMI定例会を通じて、買収後の課題を継続的に解消する運営体制を整えている。連続M&Aでは、「買う機能」「伸ばす機能」「全体を管理する機能」を切り分けつつ連携させることが重要だと分かる。
もちろん、全ての中堅企業が同じ水準の体制を一足飛びに構築できるわけではない。【図表】のように、連続M&Aを支えるコーポレート戦略は段階を踏んで機能を整えることが重要である。まずは、①社長直轄の小さな専門機能を置く、②投資判断基準を言語化する、③案件検討からPMIまでの会議体と決裁フローを定める、④案件レビューを蓄積し次回に生かす、という4段階から始めれば良い。小さくても常設の仕組みを持つことが重要であり、その積み重ねがやがて組織能力になる。
【図表】連続M&Aを支えるコーポレート設計の4段階
出所 : タナベコンサルティング戦略総合研究所作成
連続M&Aにおけるコーポレート戦略の役割は、案件数を増やすことだけではない。M&Aを企業能力として内製化し、成長の再現性を高めることである。専門組織の設置、担当者の知識・経験の蓄積、推進と意思決定の型化。この3つが整って初めて、https://review.tanabeconsulting.co.jp/consultingmethod/20260630101419/で扱うM&A戦略とソーシングは、「紹介を待つ活動」ではなく、「自社の未来から逆算して狙って取りにいく活動」へ変わるのである。
タナベコンサルティング M&Aコンサルティング ゼネラルパートナー
金融機関や会計事務所とパートナーシップを築き、後継者を育成する企画や取引先企業が抱える経営課題とコンサルティングソリューションをマッチングするアライアンス事業を推進。M&A部門の事業化、仕組みづくり、商品開発、実績づくりを行い、大手企業のバイサイド支援から中小・個人企業のセルサイド支援まで幅広い実績を持つ。