メインビジュアルの画像
コラム
イベント開催リポート
タナベコンサルティンググループ主催のウェビナーやフォーラムの開催リポートです。
コラム 2024.11.01

「meviy」の成長を支えた営業マーケティング改革 ミスミグループ本社

タナベコンサルティングは2024年9月25日、「DXフォーラム」を開催。「デジタル活用から成果へ。推進事例に学ぶ、人材育成と生産性改革」をテーマに、日本オラクル、ミスミグループ本社の取り組みと、タナベコンサルティングによる講演をリアルタイムで配信した。

※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員 兼 ID企業体社長

吉田 光伸 氏
国内事業・海外事業・新規事業を経て、機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」立ち上げに関わる。meviyは「ものづくり日本大賞」にて最高峰である内閣総理大臣賞を獲得し、国内シェアは4年連続ナンバーワン、製造業におけるDXをけん引している。当社入社前は、国内大手通信会社、外資系大手ソフトウエアベンダーにて、インターネット黎明期からデジタルを活用した新規事業の立ち上げ・事業拡大に数多く携わる。

 

製造業の課題は日本産業の課題

ミスミグループ本社は、グローバルで約1万1000名の従業員と108の拠点を持ち、3000万点以上の商品を提供、そのバリエーションは800垓(1兆の800億倍)と桁外れの多さを誇る。受注生産品でありながら標準納期を2日とし、99.7%の納期順守率を達成していることから「電気、ガス、水道、ミスミ」と呼ばれるほど、日本の社会インフラを支えている。顧客は約32万社におよび、海外売上比率は53.4%と、国内外での市場リーダーシップを確立している。

当社の真の価値は、顧客側と生産者側の両面での革新を実現したことである。カタログ販売を業界に先駆けて導入し、従来であれば顧客が一つ一つ図面を書いて発注していたものを製品番号と寸法を選ぶだけで簡単に注文でき、価格と納期も明示しているため、透明性の高い購買体験を提供している。また、生産者側でも標準化を進め、事前に製品をコストの低い国で大量生産し、最終仕上げを国内拠点で行うことで、「早く、安く」を実現している。


出所:ミスミグループ本社講演資料
日本の製造業は、GDP(国内総生産)の約2割を占める基幹産業であり、日本経済において重要な割合を占める。しかし、労働生産性の低さや人口減少、時間不足といった課題に直面している。製造業の労働生産性は1990年代から低下傾向にあり、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で中位以下に位置している。これにより、日本製造業の競争力は相対的に低下し、国際市場での地位も揺らいでいるのが現状だ。

経済産業省の「2023年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」(2023年6月)によると、日本製品は国際競争力が高く、220品目が世界シェア6割を超える。しかし、少子高齢化に伴い労働力人口は減少し、従来の長時間労働に頼る生産体制は限界に達している。

「働き方改革」が進む中、労働時間の削減が求められ、今後は「量」よりも「質」に重きを置いた転換が不可欠だ。この課題に対処するためには、労働生産性の向上を目指したデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が急務である。


出所:ミスミグループ本社講演資料
日本の製造業が今後も生き残るためには、パラダイムシフト、つまり、根本的な考え方の変革が必要である。以前は、労働力は十分にあり、徹夜や残業も当たり前とされていた。しかし、現在は少子高齢化によって労働力人口が縮小し、加えて「働き方改革関連法」の施工により、1人当たりの就業時間も制限されている。日本製造業の総労働時間は減少し続けているのだ。

この減り続けるリソースで、過去と同等、あるいはそれ以上の成果を生み出すことが今後の課題である。

「meviy」の活用による労働生産性の向上

当社は、製造業の調達プロセスが紙媒体に依存していたことに着目し、その課題を解決するために機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」を提供している。日本の製造業企業の約98%がファックスを利用するなど、いまだにアナログな対応をしている現状があり、これが生産性向上を妨げるボトルネックとなっていた。meviyは、設計から調達までのデジタル化を推進し、紙媒体の利用を不要にすることで、効率的な調達を可能にする革新的なサービスである。

例えば、工場で使用する装置のために1500点の部品を調達する際、従来のプロセスでは、見積もり作成や調達手続きに合計で約1000時間もの時間を必要とする。meviyでは、設計者がデジタルで作成したCADデータをクラウドにアップロードすると、AIが形状を自動的に認識し、即座に見積もりと納期を提供するため、このプロセスを大幅に効率化し、わずか3分以内に結果を得ることができる。

また、「デジタルものづくり」のプロセスを導入しており、クラウドにアップロードされたデータを基にAIが生産プログラムを自動生成し、工場の機械に自動で転送する。この仕組みによって、見積もりから生産までの一連の流れが全てデジタル化され、手作業の介入が不要となるため、工場の生産性は飛躍的に向上した。約92%の「時間の創出」が可能となっている。meviyによって生み出された時間は、エンジニアがより創造的で付加価値の高い業務に充てられるようになり、製品の品質向上や新製品の開発など、競争力を高めるための業務に活用されている。

 
出所:ミスミグループ本社講演資料
meviyは、その革新性から産業界で高い評価を受け、経済産業省の「第9回 ものづくり日本大賞」において内閣総理大臣賞を受賞した。meviyによる時間創出が、製造業全体の抱える時間不足や人手不足に対する答えとして高く評価された結果である。

営業・マーケティング改革の「三本の矢」

ミスミグループ本社の従来の営業体制は、各担当者が全てのプロセスを担う構造となっていたため、営業・マーケティングの効率に限界が生じていた。生産性にムラが生まれ、中途半端なセールスマーケティングプロセスとなっていた。この問題を解決するために、当社は「ザ・モデル」という概念に注目した。

ザ・モデルのコンセプトは、顧客のステータスを「未認知・認知未購入・一般顧客・ロイヤルティー」の段階に分け、各段階にマーケティング、フィールドセールス、カスタマーサクセスといった役割を明確にする分業体制を構築するもので、製造業の「工程管理」に近いアプローチだ。

この分業化により活動の効率化を図り、各段階でのKPI(重要業績評価指標)管理と活動履歴のデータベース化が可能となり、プロセス全体の可視化が実現した。工程別に明確化、専任化することで、全体のリードタイム短縮を実現した。

さらに当社は、営業・マーケティング体制の改革において、⑴標準化、⑵一元化、⑶自動化、の「3本の矢」を打ち出した。

(1)標準化
これまでの当社の営業活動は属人的であり、各担当者が顧客対応を自由に行う状況だった。そのため、対応の質が安定しておらず、担当者ごとのスキルや知識のバラつきが課題となっていた。

これを解決するために、当社は営業プロセスを細分化し、各段階での対応方法を標準化。顧客に対して一貫性のある質の高いサービスを提供できるようになった。

(2)一元化
顧客データや営業プロセスに関する情報を、クラウド上で一元管理するプラットフォームを導入。これにより、全社で共通の情報基盤を使用し、リアルタイムでの情報共有が可能になった。

以前は、顧客情報を分散管理しており、担当者は複数のシステムから情報を集める必要があったが、現在はクラウド上で顧客の全体像が一目で把握できるようになり、効率が大幅に向上した。

この統合により、顧客への対応の準備時間が3分の1に短縮され、営業プロセスの円滑化に成功した。

(3)自動化
MA(マーケティングオートメーション)ツールを駆使して、営業プロセス全体をデジタル化した。これにより、購買履歴や行動データをもとに、顧客の興味を引きそうなコンテンツやプロモーションを自動で配信する仕組みをつくった。「Right Information, Right Timing(適切な情報を、適切なタイミングで)」という考えのもと、顧客の関心を高めつつ、自然な形で関係を構築している。

これらの改革により、ユーザー数は順調に推移し、国内オンライン部品調達シェアで4年連続ナンバーワンを達成している。

持続的な成長とグローバル化

当社は、さらなる労働生産性の向上を目指して今後もmeviyを進化させるとともに、グローバル展開を加速させていく方針だ。その一環として、製造業界内でのオープンイノベーションとアライアンスを積極的に推進。2021年から海外展開を開始し、meviyの開発を専門とするIT子会社を立ち上げて、グローバル事業を拡大している。

meviyは、「ものづくりに創造と笑顔を」をミッションに、人間にしかできない創造的な仕事時間の創出を目指している。meviyを通じて生まれる時間によって、エンドユーザーにより良い製品を提供し、最終的にはエンドユーザーの笑顔をつくり出すことが、当社の最大の目標だ。

さらに、図面データの共有・類似検索を支援するサービスとして、無料で利用できる「meviy Finder」などのAI活用ツールを提供し、顧客支援に貢献している。図面管理のプロセスを大幅に効率化し、設計部門間でのデータ共有を容易にすることで、さらなる生産性向上を実現していきたい。


出所:ミスミグループ本社講演資料
ミスミグループ本社の提供価値は、部品供給だけでなく、顧客が創造的な仕事に集中できる時間を創出することにある。今後も、製造業全体の非効率を解消するソリューションを提供し、生産性向上に貢献していく。