タナベコンサルティングは2025年7月、「2025年度 経営者の成長投資アンケート」の調査結果を発表した。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。
人材育成投資は「年間1000万円未満」が6割超
企業の人材育成への年間投資額は、「年間1000万円未満」が64.4%と最多であり、多くの企業が限られた予算の中で育成施策を運用している実態が明らかになった。
「年間5000万円以上」(年間5000万円以上~1億円未満)(年間1億円以上~5億円未満)と回答した企業はわずか3%で、大規模な育成投資は一部の企業に限られていることが分かる。
OJTやOff-JTといった比較的コストのかからない施策が中心となっている背景には、投資余力の乏しさも影響している可能性が高く、育成に対する継続的な資源配分が課題である。
育成強化対象は8割以上が「中堅・リーダー・管理職」
今後の人材育成の強化対象として、「中堅・リーダー社員」(80.7%)や「管理職人材」(65.9%)が特に多く挙げられた。こうした層に育成投資が集中する背景には、将来の経営・変革を担う“次世代リーダー”の育成ニーズが高まっていることがうかがえる。
経営者人材に求めるスキルは「判断力」が最多
経営者人材に求めるスキルとしては、「判断力(74.1%)」「問題解決力(73.3%)」「戦略構築力(67.4%)」といった、論理的かつ複雑な意思決定を担う能力が上位を占めた。これに続き、「指導力」や「対話力」(いずれも60.0%)といった対人面でのリーダーシップも重視されている。
一方で、「事業革新力(36.3%)」など、変化への対応や新たな価値創出に直結する項目は相対的に低く、企業が経営者に対して「現状を維持しつつ、冷静に物事を判断し、組織を着実に動かすこと」をより重視している傾向が読み取れる。この背景には、不確実性の高まる経営環境において、急激な変革よりも安定的な運営を優先したいという企業の意識があると考えられる。
6割超がDXビジョンやDX戦略を「策定していない」
DXビジョンやDX戦略を「策定している」と回答した企業は全体の38.8%にとどまり、61.2%は「策定していない」と回答した。多くの企業がDXの必要性を感じながらも、明確な方針や中長期の設計が定まらないまま手探りで進めている現状が浮かび上がる。
背景には、DXに対する理解不足や、全社的な方向性を描くための人材・ノウハウの不足があると考えられる。戦略なきDXが、後述の「実行の遅れ」にもつながっている可能性が高い。
DXの実行状況は約半数が「予定より遅れている」
DXの進捗状況について、「計画通りに進行している」との回答は32.1%にとどまり、「予定より遅れている」が48.8%と最多となった。また「取り組んでいない」との回答も2割弱(19.1%)だった。
前項でビジョンや戦略を策定していない企業が多いことを踏まえると、DX推進が場当たり的になっていることが推察される。
基幹システムへの投資金額は「5000万円未満」が6割超
現在の基幹システムへの投資金額として、最多は「1000万円~5000万円」(39.7%)であり、「1000万円未満」(23.9%)を合わせると、全体の63.6%が5000万円未満にとどまっていることが分かった。一方で、1億円以上を投資している企業は14.8%にとどまり、投資規模が限定的である実態が明らかになった。
今後の投資予算についても、「1000万円~5000万円」が最多(33.0%)で、「1000万円未満」(20.6%)を合わせた割合は53.6%となっている。現状よりやや抑制傾向ではあるものの、大きな増加や縮小の兆しは見られない。
一方で、「不明」との回答が20.6%に上っており、基幹システム投資の意思決定プロセスが不透明な企業も一定数存在していることがわかりました。
海外展開企業は4割強、未展開企業のうち2割は今後を見据える
海外事業を「展開している」と回答した企業は42.8%にとどまり、「現在は展開していないが、今後検討中」とする企業が19.1%。一方で「今後も取り組む予定はない」とした企業も38.2%と一定数存在する。海外展開の有無は大きく二極化しており、全体として慎重な姿勢も見て取れる。
優先テーマは「グローバル人材(事業推進者)の確保」が半数以上と最多
海外事業戦略を検討・推進する上で優先的に取り組むべきテーマは、「グローバル人材の確保」(52.7%)が最も多く、現地拠点の立ち上げや提携を進める中で、推進人材の確保がボトルネックとなっている実態がうかがえる。次いで「現地パートナー・アライアンス先の開拓」(47.3%)が続き、現地展開における協業体制の構築が中核的な戦略となっていることが明らかとなった。
一方で、「「現地法制度対応」や「グローバル市場の理解」といったリスク回避・インプット型のテーマは前年比で大幅に低下しており、情報収集から実行段階へと移行するフェーズにある企業が増えていることが示唆される。
事業承継は「親族への承継」が最多。3割以上が「後継者はいない」
事業承継のあり方については、「親族への承継」が47.8%と最多だが、「役員・社員への承継」も39.5%と高く、非同族へのバトンタッチを選択肢とする企業も増えている。
実際に後継者の状況を尋ねたところ、「非同族の後継者がいる」(22.9%)、「同族のご子息・息女はいるが、後継予定はない」(5.1%)といった回答が合わせて約3割に達しており、一定数が非同族承継を検討している様子がうかがえる。
これに対し、「後継者はいない」との回答も3割超(32.5%)にのぼっており、後継の選定・育成に課題を抱える企業も依然として多い実態が明らかになった。
【調査概要】
(1)人材育成
調査期間: | 2025年4月7日~2025年4月25日 |
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調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 計135件 |
(2)DX
調査期間: | 2025年1月15日~2025年4月25日 |
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調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 計209件 |
(3)グローバル
調査期間: | 2025年3月3日~2025年4月25日 |
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調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 計173件 |
(4)事業承継
調査期間: | 2025年2月3日~2025年4月25日 |
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調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 157件 |
※各図表の構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
より詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載した
「2025年度 経営者の成長投資アンケート」の全体版は
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