タナベコンサルティングは2025年6月、「2025年度 経営者の成長投資アンケート(グローバル)」の調査結果を発表した。本稿では調査結果の一部を抜粋して紹介する。
4割超の企業が海外事業を展開、今後取り組む企業は約2割
海外事業を展開している、あるいは今後取り組む意向を持つ企業は61.5%と、一定の広がりを見せている。実際に「展開している」と回答した企業は43.2%、「現在は展開していないが、今後取り組みを検討中」と回答した企業は18.3%で、前向きな姿勢がうかがえる。
一方で、「今後も取り組む予定はない」とする企業は38.5%と、海外展開に対する関心や取り組み状況には企業間で開きがある。
海外事業の推進施策は「現地パートナー(販売代理店含む)との業務提携」が最多
海外事業を展開する企業は、その推進に当たり多様な手法を組み合わせている。中でも、最も多く挙げられた取り組みは「現地パートナー(販売代理店含む)との業務提携」(56.2%)であり、半数以上が現地ネットワークの活用を図っている。前年度(50.3%)からも増加しており、信頼できるパートナーとの連携が海外市場での展開を加速させる鍵と認識されていることがうかがえる。
次いで「現地法人設立(生産拠点含む)」が49.3%と、こちらも前年(37.9%)から大幅に増加した。販売拠点や製造拠点の現地化により、事業基盤を強化する動きが加速しており、サプライチェーンの再構築や、現地ニーズへの迅速な対応を目的とした「拠点の自前化」が進行している状況がうかがえる。
海外事業の業績見通しは約4割が「増収増益」
海外事業の業績見通しについて、「増収増益」と回答した企業は39.7%と最も多く、前年度(40.6%)と同水準だった。企業の約4割が成長を維持すると見込んでおり、一定の堅調さがうかがえる。
一方、「横ばい」と回答した企業は34.2%と前年(26.1%)から8.1ポイント上昇し、業績の横ばい傾向が強まっている。
「減収減益」は11.0%、「減収増益」は4.1%であり、大幅な業績悪化を見込む企業は一部にとどまる結果となった。また、「増収減益」は1.4%にとどまり、前年の9.4%から大きく減少した。
円安によるプラスの影響は「為替差異による利益増加(円)」が約7割
円安によるプラスの影響として最も多く挙げられたのは、「為替差異による利益増加(円)」(69.0%)だった。前年(51.0%)から大きく上昇しており、会計上の為替差益が企業収益に寄与している状況がうかがえる。
次いで「輸出量増加に伴う売上増加」(48.3%)、「為替差異による海外販売価格(現地通貨)の低下と売上増加」(27.6%)が続き、いずれも円安による価格競争力の向上が売上増加につながっている。
一方で、「海外現地での新規顧客・販路拡大」(13.8%)や「インバウンド増加による売上増加」(3.4%)は前年より大きく減少しており、円安による短期的な利益押し上げに一服感がうかがえる。構造的な需要の拡大にはつながっていないのが実態である。
円安によるマイナスの影響は「原材料/燃料費高騰によるコスト増加」が8割以上
円安によるマイナスの影響として最も多かったのは、「原材料/燃料費高騰によるコスト増加」(82.6%)だった。次いで、「コスト増加分を価格転嫁できないことによる減益」(43.5%)、「価格転嫁による売上減」(34.8%)と続き、仕入れコストの上昇が企業の利益を圧迫していることが分かる。
円安が収益性に与える負の影響が、コスト構造へのダメージとして表れる結果になった。特に、輸入依存度の高い製品や原材料を扱う企業にとっては深刻な課題である。
その一方で、「海外拠点運営の難航(維持コストの利益圧迫)」(8.7%)、「予定していた海外進出・拡大の停滞」(4.3%)、「外国人人材の流出・採用難」(4.3%)は前年から大きく減少しており、円安による人材・運営面での混乱には沈静化の兆しがある。
海外事業の売上高比率は「10%未満」が6割以上
海外事業を展開している企業に、売上高全体に占める海外事業の売上高比率を尋ねると、「10%未満」との回答が60.3%と最多だった。売上構成の上では依然として国内市場への依存が強く、海外事業は補完的な位置付けにとどまっている企業が多い。
一方、海外売上比率が「10~30%」の企業は23.3%となり、一定の収益貢献が見られる層として位置付けられる。海外事業が本格化し始めている段階であり、拠点展開や取引国の拡大など、今後の成長の起点となり得るフェーズにあると推察される。
また、「31~50%」と回答した企業は4.1%にとどまり、海外売上比率が全体の半分近くに達している企業はごくわずかだった。この層には、国内外の市場環境に応じて柔軟にポートフォリオを組み替えることが求められる。
優先テーマは「グローバル人材(事業推進者)の確保」が最多
海外事業戦略を検討・推進する上で優先的に取り組むべきテーマは、「グローバル人材(事業推進者)の確保」(52.1%)が最多だった。前年(60.2%)からやや減少したものの、引き続き最重要課題として位置付けられている。
次いで、「現地パートナー・アライアンス先の開拓」が46.6%だった。現地での営業・調達・流通などにおいて外部パートナーとの連携を深める必要性は、海外事業の現実的な推進手段と認識されていることがうかがえる。
一方、2024年度調査では上位を占めていた「各国の規制や法制度、商慣習への対応」(2024年度52.8%)や「グローバル市場の理解」(2024年度52.2%)が、2025年度にはそれぞれ34.2%、23.3%と大きく減少した。制度理解や市場リサーチがある程度進んだ企業が増え、実行段階へシフトしていることが背景にあると考えられる。
また、「グローバル市場での認知度の向上」(21.9%)、「地政学的リスクに対応するサプライチェーン/物流網の構築」(11.0%)、「事業・組織のローカライズ」(11.0%)といった項目も、前年から大きく低下。テーマの優先順位が“環境整備”から“パートナーの確保”へと変化している様子がうかがえる。
4割以上が「海外進出や拡大の予定なし」
2025年度および今後3年間における海外進出・拡大に関する方針を全体で見ると、企業のスタンスには二極化の傾向が見られる。まず、「海外進出や拡大の予定なし」と回答した企業は、2025年度において44.4%、今後3年間では40.2%にのぼり、依然として約4割の企業が消極的な姿勢を示している。
一方で、海外事業の展開や強化に前向きな動きを示す企業も少なくない。「既存海外市場での事業拡大」とした企業は2025年度で32.5%、今後3年間でも33.1%と、安定した推移を見せており、すでに進出している地域でのプレゼンス向上や取引拡大を志向する傾向が続いている。
「新規海外市場への進出」との回答も2025年度は26.0%、今後3年間では34.3%に上昇しており、新たな成長機会を求める企業の意向がうかがえる。海外進出に対する企業の意識は一様ではないものの、今後の3年間には新規展開と既存市場の深耕の両面で、前向きな動きが徐々に広がる兆しがある。
【調査概要】
調査対象: | 全国の企業経営者、役員、経営幹部など |
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調査期間: | 2025年3月3日~2025年3月31日 |
調査エリア: | 全国 |
有効回答数: | 計169件 |
※各図表の構成比(%)は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても100%にならない場合があります。
より詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載した「2025年度 経営者の成長投資アンケート(グローバル)」の全体版はこちらからダウンロードできます(無料)