目まぐるしく変化する経済環境への対応に加えて、社員の価値観や働き方の変化・多様化など、ここ数年で企業を取り巻く環境は大きく変化し続けている。
変革なくして生き残れない今、本リポートによると人材育成・研修の共通課題として、「次世代リーダーの育成」が多く挙げられた。
変革を実装、定着させていくには、経営者の力だけでは不十分である。これらをけん引し、人を巻き込む強いリーダーシップを発揮するリーダーが不可欠だ。リーダー育成を単発・単年で終わらせるのではなく、経営システムとして継続的にリーダーを輩出する仕組みの構築が求められている。
人材採用における調査結果を見ると、新卒採用における課題について、2023年度の同調査の結果と比較して「母集団形成が不十分(応募数が少ない)」(42.4%)が減少しているものの、「選考中の途中離脱・内定辞退が多い」(29.9%)が増えていることから、選考および内定後のフォローが課題となっている。
また、2023年度の同調査に引き続き「OJT(教える側)のレベルアップ」(43.2%)、「教育計画の見直し」(38.7%)、「自発的に学ぶ風土づくり」(37.3%)が依然として高い結果となった。特に、「OJT(教える側)のレベルアップ」が多い要因として、現場指導者の時間確保や指導者の教育レベルのバラつきなどが課題として考えられる。
2024年度調査から追加した選択肢「次世代のリーダーづくり・後継体制づくり」(57.6%)に重点を置く企業が多く、将来の経営者や経営幹部候補人材の育成が急務である。時代の変化に応じて企業の経営層に求められる知識や能力も広がっており、早期から次世代リーダー候補を育てようとする企業が約6割に上っている。
他にも、「評価制度と連動させた教育運用」(35.4%)にも関心が集まっており、適切な人事評価制度のもと、人材を育成する教育制度構築が求められていることが分かる。
不足している(強化したい)人材に関しては、「DX・システム系の人材」(38.4%)、「経営企画・戦略に携わる人材」(38.0%)がいずれも2023年度の同調査結果と比較して増加していることから、デジタルに特化したスペシャリスト人材と、より経営側に立った視点を持つ人材が求められていることが分かる。
人的資本経営に取り組む上での課題として最も多い回答は「人的投資の遂行(教育投資・給与、福利厚生などの待遇面の充実化)」(43.5%)、次が「人的資本指標の明確化(人事KPIの設定)」(43.2%)となった。人的資本経営の重要性は理解しつつも、人的資本指標を明確化できず、実行に移すことができていない企業が多いと推察される。
他の回答を見ると、「ワークライフバランスの見直し」(21.8%)、「人材の多様性(ダイバーシティ)の促進」(19.9%)、「時間や場所にとらわれない働き方の促進」(17.7%)となっており、多様な人材・ワークスタイルの受け入れに課題を感じている企業が少なくない。
自部門における一番の課題・悩みについては、「目標意識に個人差がある」(46.3%)が最も多い結果となった。組織・チームメンバーに対して、「今、何が大事か、何をすべきか」などの判断基準を分かりやすく伝え、組織・チームに一体感を持たせることが重要である。
次に、「若手社員がうまく育たない」(25.0%)、「効率化が図れていない」(24.3%)、「人手不足」(22.8%)と続いている。「働き方改革関連法案」への対応として業務の効率化に取り組む一方、自部門においてはその効果が発揮されていないことが分かる。
幹部が抱えている一番の課題・悩みについて最も多かったのは、「部下育成」(43.4%)、次に「生産性・業務効率の向上」(35.6%)、「自部門(会社)の業績アップ」(29.6%)となった。上位3つの順番は2023年度の同調査結果と同じであった。
また、「組織活性化」(27.3%)、「チームワークの強化」(17.0%)、「部下とのコミュニケーション」(8.8%)も上位に入った。いずれも、組織・チーム運営で注目されている「エンゲージメント向上」や「心理的安全性の確保」を進めていく上で軽視できない項目である。
人的資本経営を含む人的課題全般について、重要なのは「制度の実装と運用」である。タナベコンサルティングでは、「制度3割、運用7割」と提言している。
これらの指標・制度・仕組みを回していくには、前述したリーダーシップを発揮するリーダーの存在が不可欠であり、リーダーの協力なくして成功は難しい。したがって、リーダー人材には腹落ちするまで説明することが重要である。
加えて、全従業員に対する説明も忘れないでいただきたい。人事領域においても、インナーブランディングが注目されている。イントラネットでの告知だけではなく、いつでも・どこでも確認できる場所で告知するなど、従業員目線で「どのように知るか」を追求する施策を推進することが重要だ。
【調査概要】
アンケート名 | 人材採用・育成・制度に関する企業アンケート |
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調査目的 | 企業における人材採用・育成・制度を把握し、後の企業経営の発展に寄与する成長施策を提言する |
調査方法 | インターネットによる回答 |
調査期間 | 2024年7月8日~7月26日 |
調査エリア | 全国 |
有効回答数 | 272件 |
アンケート名 | 幹部アンケート |
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調査目的 | 幹部・リーダー(または候補人材)が仕事に対して感じていることを把握し、企業における幹部人材育成の施策を提言する |
調査対象 | タナベコンサルティング主催「幹部候補生スクール」(2024年5月から全7回・開催中)に参加中の幹部・リーダー人材 |
調査エリア | 全国 |
有効回答数 | 719件 |
※本調査では、アンケートにご回答いただいた企業において、従業員規模が100名超~2000名以下の企業を中堅企業、100人以下の企業を中小企業として分類し、分析を行った。
「人材採用・育成・制度に関する企業アンケートREPORT」の全体版(無料)には、業種別の回答などのより詳細な調査結果と、タナベコンサルティングの提言を掲載しています。