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その他 2016.01.20

vol.5 「この人、誰だっけ?」を切り抜けるには
梶原しげる

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某アジアの国の首都に取材で数日間、滞在したときのことです。
仕事ばかりで、土産物を買う自由時間は帰国する日の午前中だけというタイトなスケジュールでした。私とスタッフは男2人。市場で買い物をして、ホテルに戻ろうとしたところで、若い男性が親しげに声を掛けてきました。

「オハヨ・ゴザイマス」

日本語で話し掛けられ振り向くと、満面の笑顔です。

「ケサハ・オカイモノデスカ?」

(今朝は? あれ? そういえば、ちょくちょく見る顔かも……?)

そう思った私は「ホテルの方でしたっけ?」と尋ねました。

「オボエテ・クレテイテ・アリガト・ゴザマス」

「いやいやこちらこそ! 制服から着替えると雰囲気違いますね」

現地の方と会話できる喜びから、私はいつも以上に饒舌になっていました。

「日本ではココナッツオイルが流行っているから買おうと思ったんですが、市場にないですねえ」

「トモダチノ・オミセニ・アルヨ」

「そこ、遠いんですか?」

「クルマデ・スグヨ」

「あー、時間がないなあ。残念だけど戻らないと」

「ジョシダイセ・スキデスカ?」

「えー? まあ、男子学生よりはねえ」

とんちんかんに答える私を見かねたスタッフが、私の手を強く引き、鋭い表情で、たしなめました。

「梶さん、コイツ、やばいですよ」

「え!?」と思ったちょうどそのとき、その“ホテルの人”はさーっと、逃げるように私たちの前から去って行きました。

「この人、誰だっけ?」への「あいまい言葉対処法」には、こういうリスクを伴うこともあるという警鐘を打ち鳴らしておきました。


あいまいな会話を効果的に活用してみよう

“ホテルの人”との会話はあまりに間抜けですが、あいまいなやりとりが対人関係を円滑に促進する「意外な役割」は見直されていいと思っています。それは、「あいまいな会話」の評判が不当に悪すぎるからです。

「あいまいな言い方をする人間は仕事ができない」「ビジネスパーソンは論理的に話すべきだ」「日本的なあいまいさは、グローバリゼーションが進む現在、コミュニケーションの阻害要因」など、あいまいな会話は散々な言われ方です。

世間には「やあ、どうもどうも」的なあいまいさを許さない空気が広がっています。例えば、こんな話があります。

『放送研究と調査』2015年5月号(NHK放送文化研究所)によれば、2014年に御嶽山が噴火した際、「周囲には硫黄の匂いが立ち込めた」との現地からのテレビリポートに対し、「あいまいで正確さを欠いている」と抗議があり、これをめぐってネット上で大論争が巻き起こったと記されています。「硫黄に、立ち込める匂いなどない!」との指摘があったのです。

「え? なんで?」と、私は思いました。抗議をした方の話によれば、「硫黄=原子番号16の元素S」が“無臭”であることは、“誰もが知っている常識中の常識”なのだそうです。科学に疎い私は、「へえ……」としか言いようがありません。

「白い水蒸気が上がっているのが見えた」なんて表現もまた、あいまいが大嫌いな方の標的になるのだそうです。「国民の公器である電波を通じてNHKが誤った情報を発している!」とのお叱りです。「なんで?」とまたまたつぶやいてしまいました。「正論の方」はこうおっしゃるようです。「水蒸気とは水=H2Oが気化したもので、目に見えないのが常識だ!」

科学番組ではなく、身近なニュースを分かりやすく伝えるためには許されるレベルだと思うのですが、「正確なこと」を追求する方にとっては許しがたい「ゆるさ」「あいまいさ」「不正確さ」なのでしょう。