vol.5 「この人、誰だっけ?」を切り抜けるには
梶原しげる
みのもんたの社交術
文化放送時代の大先輩、みのもんたさんと飲みに行くと、しばしばそんな場面に遭遇しました。有名人はどこへ行っても、いろんな人が「あれ?」という顔をします。中には、かつて仕事先で名刺交換までした大事な知り合いが混じっていることもありました。
みのさんの「どうも〜」という笑顔に、「おー、みのちゃん、久しぶり!」なんて声が掛かることがよくありました。
この時点で、みのさんは相手の方にどこでお目にかかったか、記憶の糸をたどっていますが、そんなことはおくびにも出しません。
社交上手なみのさんですから、ここからさらに一歩、ぐっと入り込んで、さりげない情報収集を行います。
「いやいやいや、どうもその節は、お世話になって、どうですかその後?」
いつ? どんな世話になったのか? あいまいだらけの「どうとでも答えられる問い」を、実にうれしそうに投げ掛けるのです。
すると不思議に、相手から記憶のキーワードが出てきます。
「相変わらず、逗子のB寿司に週一で通ってるよ。最近みのちゃん、とんとご無沙汰じゃない?」
「いやー、懐かしいねえ! Bの親方どうしてる?」
以前のご近所仲間を忘れたみのさんもおっちょこちょいですが、「どうも~」のおかげで旧交を温めることができました。
「私の名前を忘れているのでは?」と感じたときは
また、反対に「ひょっとして、この人、私の名前を忘れているのでは?」と感じることはありませんか? そんなとき、とっさの機転を利かせ、「そうそう、以前お会いしたときと、部署が違っちゃっているかもしれないから」などと言いながら「2枚目の名刺」を渡す人もいました。
「大人」はみんな上手に「技」を繰り出すものです。
かつてお仕事でご一緒した、コメンテーターとしても活躍する山本晋也監督も、人付き合いの名人です。こんなやりとりをしたことがありました。
監督「毎日、いろんな人と会っていると、誰が誰だか分かんなくなっちゃうんだよねえ。とっさに名前が出てこなかったり。そういうとき、僕は『あの〜お名前は?』って聞いちゃうのよ」
梶原「ストレートすぎませんか?」
監督「そう思うでしょ? 相手は大抵『え? 俺の名前を忘れた?』って感じの困惑の表情を浮かべながら、『……高木ですが』なんて言うわけ」
梶原「お互い、気まずいんじゃないですか」
監督「いやいや、僕はすかさず言うね。『嫌だなあ、高木ちゃん、下の名前だよ! 何ていう名前だったっけ?』って」
監督が実際にこの技を使った現場に遭遇したことはありませんが、なかなかのアイデアです。
「なんで私の下の名前を?」と万一突っ込まれたら「最近、姓名判断に凝ってて、データ集めてるんだ」ぐらいのことを自然に返す、茶目っ気たっぷりな監督なのです。
ただ、注意が必要な場面もあります。みの先輩や山本監督とは全く別の技を、異国で見せつけられたことを思い出しました。