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コラム
TCG副社長メッセージ
タナベコンサルティンググループの副社長・長尾による連載。経営環境や市場トレンドを踏まえ、企業経営の未来に向けて提言します。
コラム 2024.08.01

非顧客に注目せよ 長尾 吉邦

「非顧客に注目せよ」。P・F・ドラッカーの言葉である(『ネクスト・ソサエティ』ダイヤモンド社、2002年)。

 

重要な変化は、ノンカスタマー(非顧客)の世界で起こる。そこに注目し、顧客の変化を見逃すことなく、絶え間なく顧客創造へのイノベーションを起こす。ドラッカーはその重要性を説いている。

 

さて、日本経済は30年サイクルの転換期を迎えている。「デフレからインフレ」への移行が本質的な変化だ。今後は、実質賃金のプラス転換、需給ギャップのプラス転換、FRB(米国連邦準備制度理事会)の利下げによる円安の是正、中国経済の成長鈍化の顕在化による資源価格の安定などを経て、日本経済は本格的に緩やかなインフレ経済へと移行していくだろう。

 

では、今の企業活動はどうか。一言で表すと「停滞」ではないだろうか。

 

コロナショックで落ち込んだインバウンド(訪日外国人旅行)や国内旅行、外食の需要は戻った。逆に、デジタルやアウトドア、住まいなどの需要はバブルが弾け、関連企業の業績は下降線となり、大量に採用した人材を削減しているケースも多い。

 

また、アフターコロナにおける企業物価の上昇は、一時的に利益を圧縮したものの、世間的な「値上げ(価格転嫁)の容認ムード」も手伝い、各社とも2024年春の賃上げコストを吸収した上で、収益性が回復している。

 

現在は、企業物価指数も消費者物価指数も巡航速度へと落ち着いてきた。サービス分野の人材不足・賃金上昇に伴うサービス価格のインフレ傾向は継続するものの、企業の価格転嫁による収益回復は一服したと言えよう。しかし、企業の多くは、「価格転嫁による利益回復」「需要が戻り、利益改善」で盛り上がっている。

 

私は、「今の経営環境や経営者心理は危険な状況」と認識している。対応能力により混乱した経営環境を乗り切ったものの、足元を見ればイノベーションは起きていないのだ。

 

内と外のイノベーションがあるとすれば、この需要環境の変化が起きている時は、間違いなく「外」が大事である。すなわち、顧客創造のイノベーションだ。

 

非顧客に注目してほしい。需要環境の変化によって湧き上がっているマーケットがある。その需要を取り込むための「顧客創造イノベーション」を起こしていただきたい。

 

PROFILE
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長尾 吉邦
YOSHIKUNI NAGAO
タナベコンサルティング 取締役副社長
北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。