3つの戦略とは
前回(本誌2026年2月号)は、日本が初めて体験する「インフレ×人口減少」の経営環境下では2つの価値観リセットが必要であると説明した。それは「成長への強い意志」と「外部環境変化への感度アップ(インフレ環境下の市場・顧客・現場の行動変容を注視する)」である。
今回は、この環境下で高成長を遂げていくための「3つの戦略オプションと成功への決め手、目標」について説明したい。3つの戦略とは、
❶ グローバルニッチトップ戦略
❷ M&Aによるグループ化戦略
❸ 成長マーケットシェアナンバーワン戦略
―― である。
グローバルニッチトップ戦略
IMF(国際通貨基金)の見通しによると、世界の名目GDPのうち日本のシェアは約4%。すなわち、世界には日本の25倍のマーケットがある。
例えば、あるニッチ分野での日本のマーケットサイズが100億円としよう。この小さなサイズの中で自社の売上高が40億円だとシェア40%でナンバーワンだが、成長性は限定的だ。
しかし、世界を見ると、単純計算ではあるが、約25倍の2500億円のマーケットがあり、そこでのシェア40%と考えると、自社の成長の可能性は売上高1000億円へと広がる。
この戦略を選択する会社は、高い技術力・開発力を有する企業が多いが、決め手は「独自のマーケティングモデル」の確立である。
この戦略に関しては、ウェブマーケティングによるテクノロジーブランディングが必須である。加えて、市場リサーチや展示会でのネットワークづくり、ディストリビューター(卸売・販売代理店)・パートナーづくりなども必要だが、そこに多くの投資をすることは、臨床事例から診ると時間的に有効とは言えない。エリアごとに0→1のマーケティングになるからだ。
そこで、中堅企業が取るべきマーケティング戦略は、「KOL※マーケティング」である。これは世界的に影響力のある専門家や業界の権威と技術を深掘りし、開発した製品や技術データなどを市場に送り出すことで、世界中の購買決定権者へアプローチしていく手法だ。
業績目標としては、経済産業省「2020年版グローバルニッチトップ企業100選」の平均世界シェア43.4%、営業利益率12.7%をターゲットにすると良い。
※ Key Opinion Leader:特定領域で専門性を持つ人物、世界に影響力を持つ人物とともに製品・サービスを開発・改良することを通じて、マーケットの認知や信頼を加速させるマーケティング手法
M&Aによるグループ化戦略
この戦略は、ドメスティック(国内限定・地域限定)なマーケットの企業が取る成長戦略である。M&Aにより新しい事業を創造し、シナジーを発揮しつつ、ホールディングス化の下、グループとして成長を実現していく戦略だ。
もちろん、新しい事業を起こす手法はM&Aだけではない。手法は4つあり、①自社の事業を切り分ける、②自社内で新規事業を起こす、③協業による事業開発、④M&Aだが、インフレ下の臨床事例としては、スピード感があるのは、やはりM&Aである。
決め手は、グループ本社(ホールディング会社)のコーポレート経営能力の確立である。
この戦略を取る中堅企業がM&A(買収)する企業は、ほぼ成熟業界における中小企業である。したがって、不足するリソースだらけだ。ただ、各社がグループ本社に寄り掛からないと生存できない企業集団は「砂上の楼閣」であり、将来性は低いと言える。大切なのは“自立自走”し、高成長・高収益を実現する強いグループ会社の集団をつくることだ。
コーポレート経営能力の中でも、特に重要なのは、「人材育成機能」「業績管理機能」である。経営者を育成するための戦略策定合宿、ジュニアボード、経営者人材育成プログラム、機能別人事交流などを企画・実装する人材育成機能に投資することが必要だ。
また、グループの業績規範(コード)を明示し、業績先行マネジメント、KPI(重要業績評価指標)マネジメントを導入し、経営者・社員が数値と向き合い、自らの目標実現へ創意工夫していく仕組みを組み込む業績管理機能である。
目標は至ってシンプルで、グループ全企業の過去最高売上高・過去最高益を毎年更新していくことだ。
成長マーケットシェアナンバーワン戦略
マーケットはドメスティックだが成長マーケットであり、寡占化していない業界の企業が取るべき成長戦略が、3つ目の「成長マーケットシェアナンバーワン戦略」だ。BtoBで言えばインフラリニューアル分野など、BtoCで言えばコスメやアパレルといったライフ&サービス分野などである。
成功の決め手は、開発チームへの組織戦略だ。成長領域を発見すれば、そこへ思い切って市場開発の専門組織へと人的リソースを再配分することが大切になる。なぜなら成長マーケットは、トレンドの流れが速く、変化する顧客の価値観に適応した製品・サービスとして提供していくスピード提供モデルが勝敗を分けるからである。
以上、3つの戦略は、いずれもインフレ×人口減少の環境下で高成長を実現している臨床事例をまとめたものだ。読者の皆さまの成長戦略設計の一助になれば幸いである。
タナベコンサルティング 取締役副社長
北海道支社長、取締役/東京本部・北海道支社・新潟支社担当、2009年常務取締役、2013年専務取締役を経て、現職。経営者とベストパートナーシップを組み、短中期の経営戦略構築を推進し、オリジナリティーあふれる増益企業へ導くコンサルティングが信条。クライアントの特長を生かした高収益経営モデルの構築を得意とする。著書に『企業盛衰は「経営」で決まる』(ダイヤモンド社)ほか。
