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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

ポジションを明確化した重層的な価値共創戦略 丸紅洋上風力開発

国内初の商用洋上風力発電事業が始動

 

細江 丸紅洋上風力開発株式会社が設立されたのはいつですか。

 

真鍋 2020年です。現在の従業員数は約60名。丸紅における洋上風力発電に関しては、国内・海外ともに当社が全て担っています。

 

細江 国内初の洋上風力発電所となる秋田港・能代港洋上風力発電所プロジェクトについて詳しく教えてください。

 

真鍋 秋田港に13基、能代港に20基の風車を設置しており、発電容量は約140MW。これは、約13万世帯の一般家庭の消費電力に当たります。2015年に採択し、準備期間5年間を経て2020年から建設工事を着工。2022年に能代港、2023年に秋田港の商業運転が開始しました。商業ベースでの大規模な洋上風力発電事業の運転開始は国内初となります。現在は丸紅が筆頭株主である秋田洋上風力発電株式会社が事業会社となっています。また、風車の保守点検をデンマークの風車メーカーのベスタス・ジャパンが、そのほかの現場メンテナンスを当社が請け負っています。

 

細江 開発から運用・管理まで主体的に手掛けており、事業指針「SPP」のPrimeを体現しています。大規模なプロジェクトを複数同時に進行される難しさはありますか。

 

真鍋 洋上風力では工事の遅れは致命的です。工事船は数年先の案件も抱えており、1年後には船が別のプロジェクトに出払い使用できなかったり、船の使用に1日当たり数千万円の費用が掛かったりと、1年の遅れでプロジェクトが頓挫する可能性が非常に高い。絶対に遅れることは許されないため、これまでの経験を生かして、リスクの見方や工程の置き方はかなり保守的に設定しています。

 

細江 中期経営戦略「GC2024」にあったホライゾン1、ホライゾン2、ホライゾン3は同時並行で推進されているのでしょうか。

 

真鍋 はい。ただ、ホライゾン1は縮小していく傾向にあり、全体ではホライゾン2、ホライゾン3に注力しています。基本は各組織で取り組んでいますが、ホライゾン3については、特化した次世代事業戦略本部もあります。具体的には、外部のコンサルタントも入って競合他社や市場成長性、人口動態なども含めて調査し、検討・分析した上で、ターゲットを定めて組織的に営業展開していくケースです。

 

一方、電力事業で現在取り組んでいる案件はホライゾン2に位置しますが、その延長線上にホライゾン3があると予測しています。実際の現場や業界にいる人の方がニーズや生きたマーケット情報に触れており、そこからホライゾン3の可能性が内発的に出てくる方が多いと思います。

 

細江 市場ニーズを把握し、保有する豊富なリソースとつなげて新たな市場を創造する可能性は大いにあります。ただ、ホライゾン3への移行には大胆な意思決定が欠かせません。

 

真鍋 私自身が新卒入社のため他社と比較しづらいですが、丸紅はチャレンジ精神を評価してくれる社風だと感じています。電力事業は他の商社に負けていないという自負がありますし、必ずトップになるという心意気を企業DNAとして持っています。人よりも一歩先、半歩でも先に行くというカルチャーが、海外における国内企業初の挑戦や国内初の事業につながっているのだと思います。

 

東日本大震災の翌年、2012年にシージャックス社を買収して洋上風力事業を強く推進したのは、当時丸紅の電力本部長を務めていた現代表取締役社長の柿木真澄です。将来、日本で最初にこの船を使う会社になるのだと強く思い描いたビジョンは、9年後の2021年に実現したのです。紆余曲折うよきょくせつありましたが、夢を描き、そこに向けて挑戦し続けるカルチャーがあります。

 

細江 未開の事業にゴーサインが出せる。それはチャレンジが体質化されているからでしょう。国内外で巨大プロジェクトを獲得するための秘訣はありますか。

 

真鍋 競合は世界の大手企業や電力会社ですから、サプライチェーンの一歩先、半歩先を行かないと勝てません。10年前から風力発電において難易度の高い浮体式に取り組んできた理由はそこにあります。常に一歩先、半歩先を意識して継続してきましたし、それをやりたい人が集まってくる。それが秘訣だと思います。

 

また、これまで国内外で多くの発電所を手掛けながら、世界中にアンテナを張ってきました。どこで市場が生まれるか、各国の制度の動向などを踏まえて、次に攻めるべき事業モデルとマーケットを観察し、判断しています。生の情報が取れる商社のネットワークも強みと言えるでしょう。

 

 

明確なメッセージを打ち出し思いを共有して価値を生み出す

 

細江 丸紅および丸紅洋上風力開発の電力ビジネスについて伺う中で、戦略ストーリーのポイントが3つ見えてきました。

 

1つ目が、「重層的な成長アプローチ」。ホライゾン1、ホライゾン2、ホライゾン3という3つの戦略を並行して遂行することで確実に企業価値を上げています。2つ目が、「ポジションの明確化」。「グリーン事業でトップランナーになる」という明確なメッセージを打ち出していますが、業界のポジションを明確に示すことは経営者として学ぶべき点です。はっきりとした戦略を打ち出し、それら全てに手を打っていく。さらに、メイン事業を明確化し、どこを目指すのかを描くことが戦略遂行のポイントです。

 

3つ目が、「掛け合わせによる価値創造」。協働プロジェクトには多くのライバル企業がパートナーとして入っていました。事業指針「SPP」で掲げるPrimeとして主体的にコントロールタワーの役割を担いながら、パートナーシップを組んで事業を進める。それによって、スピード面でも品質面でもより高い価値を生み、事業発展につながっていると感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

※1 地球環境に対して良い影響を与えるサステナブルな事業、またはその周辺領域
※2 設計(Engineering)、調達(Procurement)、施工(Construction)を担う事業者
※3 発電・造水事業を行う独立系発電・造水事業者

 

PROFILE
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細江 一樹
Kazuki Hosoe
タナベコンサルティング 戦略総合研究所 本部長 エグゼクティブパートナー
アパレル商社を経て、2006年タナベコンサルティング入社。2021年より北海道支社副支社長兼教育・学習ビジネス研究会リーダー、2024年現職。学校・教育業界における経営改革やマネジメントシステム構築を強みとしており、大学、専門学校、高等学校、こども園などにおいて、経営改革の実績を持つ。また、「人事制度で人を育てる」をモットーに、制度構築を通じた人材育成はもちろんのこと、高齢者・女性の活躍を推進する制度の導入などを通じ、社員総活躍の場を広げるコンサルティングにも高い評価を得ている。著書に『教育改革を先導しているリーダーたち』(ダイヤモンド社)がある。