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コラム
FCC FORUMリポート
タナベコンサルティングが年に1度開催する「FCC FORUM(ファーストコールカンパニーフォーラム)」のポイントをレポート。
コラム 2024.10.01

既存業種の枠を超えた多機能型商社戦略 藤原 将彦:三興バルブホールディングスの戦略解説

三興バルブホールディングス

 

創業の精神×時代に合わせたミッション

 

三興バルブホールディングス株式会社(三興バルブHD)は、九州最大手の管工機材商社・三興バルブ継手など事業会社6社を傘下に持つホールディングカンパニーである。同社の起点は1947年に長﨑洋六氏が2人の仲間とともに創業した三興商会。1951年には三興バルブ継手を設立し、九州全県に事業を展開していった。

 

創業者である洋六氏は、鉄管継ぎ手やバルブなら何でもそろう専門店になることを目指し、「在庫は切らさない」「配達は速く」「お客様の役に立つ店づくり」という3つの精神を掲げて顧客づくり・会社づくりにまい進。3 万点を超える豊富な在庫量と自社配送便によるスピード配送、九州全県10拠点のネットワークと現場を熟知したプロ集団という強みを生かし、九州・沖縄を中心に顧客から圧倒的な支持を得ている。

 

しかし、リーマン・ショックによる国内景気の低迷で顧客の倒産と廃業が続いた2009年には、売上高と利益が過去最低に落ち込むという苦難に直面した。その中で当時、常務取締役だった長﨑洋也氏(現・三興バルブ HD/三興バルブ継手代表取締役社長)は、創業者とともに店を立ち上げた2人の仲間の存在に注目して「良い経営には、お客様のため、仲間のためという使命感を心から共有できる経営幹部が必要であること」「トップの役割は、その人材を見いだし、活躍できる場面をつくり、新しい経営スタイルを構築すること」を新たなビジョンとしてまとめた。

 

三興バルブ継手における本格的な幹部育成のスタートは、2014年の「ジュニアボードプログラム」だ。このジュニアボードの導入が、現在の三興バルブグループに至る10年間の成長の大きな土台となった。

 

ボードメンバーは「慢性的な人手不足・資材不足」「できる人に仕事が集中してしまう傾向」「長時間労働の常態化」といった問題を抱える現状の建設業界に対し、①「何でもそろう即納体制」だけでは顧客の役に立っていると言えないのではないか、②創業の精神の1つ「お客様の役に立つ店づくり」の意味を、時代や環境の変化に応じて再度考えてみることが必要ではないかとの問題意識を持った。そしてディスカッションを重ね、現場の「不」(不便・不満・不安・不快)を解決する新たなソリューションの開発が必須と結論付けた。これに基づいて「建設業界の『円滑な現場』を技術でサポートする」というビジョンが生まれたのである。

 

この新ビジョンを実現するための新規事業として「プレハブ加工」「ユニット加工」「ねじ加工(一次加工)」からなる加工事業をスタート。当初は「商社がそこまで手掛けるのか」と驚かれたが、今では現場作業の工数削減や工期短縮など人手不足の緩和につながるとして「現場になくてはならないサービス」との高評価を得ている。

 

 

グループ経営の推進と成長を支える人的資本経営

 

2018年にはホールディング制を導入し、三興バルブHDとして新たなスタートを切った。そのグループ理念は「私たちは『3つの目的』を追求し、日本になくてはならない元気な企業グループを創造する。」というもの。3つの目的とは、①業界やお客様が抱えている「困りごと」を見つけ、解決に貢献する、②時代の変化を積極的に受け入れ、断続的なセルフトランスフォームを実現する、③人財の魅力・能力を最大限に引き出し、活躍の場を創り、自己成長のサポートをする、を指す。

 

こうした取り組みの結果、三興バルブHDは「九州ナンバーワンの在庫数」「エンジニアリングによるワンストップ対応」「顧客密着」という強みを構築。「ファーストコールカンパニー(顧客から一番に選ばれる会社)」を実現している。

 

3つの目的を実現するため、社員にはヒアリング力と問題発見能力が必須となる。第一線の営業担当者が顧客の実態を知らないままソリューションを設計しようとしても、顧客は価値を感じることはない。顧客との会話を通して商品・サービス・各種ソリューションの利用・活用状況を把握することはもちろん、満足・不満足のポイントも捉えねばならないのだ。「求める情報を的確に得る能力」「的確に顧客のニーズを捉える能力」「顧客の『不』に気付く能力」を持った社員の育成は、同社の生命線を握っている。

 

 

三興バルブHDグループで経営者を育成する

 

それ以上に重要なのが、幹部人材の育成だ。同社がホールディング制の一番の魅力として位置付けているのは「プロパー社員が事業会社の社長になれる」という点だ。能力次第で社長の椅子に座れる組織に魅力を感じ、働くモチベーションが上がる社員は多い。

 

会社としてもやる気のある人材を集められるメリットは計り知れない。「三興バルブHDグループで経営者を育成する」という戦略の下、HRDXを駆使した体系的な人材育成に取り組んでいる。

 

入社1年目から人間力や健全な仕事観、経営などを学べる「フレッシャーズキャンプ」、挙手制でリーダー(管理職)にチャレンジしてスキルアップしていく「ボス・チャレンジ制度」などを用意。また、新入社員の早期戦力化や教育の拠点間格差の平準化、人材育成の負担軽減などを目的に、社員自らが講師になって自ら培ってきたノウハウなどを動画で体系的に開示する企業内大学「S1(エスワン)アカデミー」を運営するなど、自分自身でキャリアをデザインできる基盤を整備している。

PROFILE
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藤原 将彦
Masahiko Fujihara
タナベコンサルティング ストラテジー&ドメイン ゼネラルパートナー
IT業界でシステム開発業務・プロジェクト運営を経てタナベコンサルティング入社。企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を得意とする。また、新規事業・新商品開発やDX実装支援など、クライアント企業の成長エンジンづくりに数多くの実績を持つ。クライアント視点を大切に、前向きに情熱を持って取り組むコンサルティング展開で多くのクライアントから高い信頼を集めている。