メインビジュアルの画像
研究リポート
人的資本研究会
人材を投資により生産性を高められる「資本」として捉え、人的資本と活育サイクル(採用・育成・活躍・定着)の視点で事例研究を進めます。
研究リポート 2025.10.14

経営戦略と連動した人的資本経営の実践 日本オラクル

【第4回の趣旨】
人的資本研究会は、「人材投資は活育サイクルをどう磨くか!人への投資がこれからの企業価値を決める」を今期のテーマとしている。
第4回では、ゲスト2社に講演いただき、日本オラクル株式会社の宮之原氏からは「経営戦略と連動した人的資本経営の実践~データドリブンによる人事施策の実行~」、株式会社LIFULLの土肥氏からは「転換期を迎えた中堅インターネット事業会社における、人的資本のリアル」についてご講演いただいた。

開催日時:2025年8月26日(東京開催)

 

はじめに

 

日本オラクルは、法人向けデータベースやクラウドサービスを提供するグローバルIT企業である。企業のデジタル変革が加速したコロナ禍において、同社は長年培ってきたデータ基盤の構築といった強みと市場の信頼性を武器に、クラウド事業で大きく躍進した。

 

この成功の背景には、単なる情報開示に留まらない、真の人的資本経営の実践があった。経営戦略と人材戦略をリアルタイムに同期させるため、社員の全情報を一元化してデータ基盤を構築し、AIを活用した。また、キャリアの主体を社員自身に持たせ、自律的な成長を促すことで、組織全体のパフォーマンスを最大化し、持続的な企業成長を実現した。

本講演では、こうした具体的な取り組みについてご講演いただいた。

 

日本オラクル株式会社の企業理念
日本オラクル株式会社の企業理念
※講義資料より引用

 


 

経営戦略と人材戦略の同期

 

社員の全情報を統合したデータ基盤を構築し、AIを活用する

 

日本オラクルは、自社のビジネスモデルが「買取型」から「クラウド(サブスクリプション)型」へ転換したことを機に、あるべき組織・人材像を再定義し、人事領域の改革を進めてきた。

 

変革の核となるのが、経営戦略と人材戦略の完全な同期だ。同社は、世界各地に散在していた人事データを単一のデータセンターに集約し、社員の入社から退職までの全情報を統合した強固なデータ基盤を構築した。加えて、経営戦略上必要な情報を定めモニタリングする仕組みをつくることで、経営判断に必要な情報がリアルタイムで確認できる状態へと進化させている。

 

さらに、情報×AI活用によるさらなる「意思決定の質」の向上にも取り組んでいる。AIの強みは、必要なデータ(=事実)を即座に集約・分析できる点にある。データの一元化とモニタリング、さらにAIを用いた分析・予測の高度化を図ることにより、経営・組織・社員それぞれが迅速かつ的確な判断をサポートし、経営推進力を高めていくことを目指している。

 

HRデータの見える化と連携による総合的活用
HRデータの見える化と連携による総合的活用
※講義資料より引用

 

人事機能の転換:基幹業務から戦略的人事へ

 

事業部門と連携し、ビジネスを理解する戦略的な人事担当の配置

 

同社では、人事部門が単なるバックオフィス機能から、ビジネスをけん引する戦略的なパートナーへと変革することの重要性が強調された。これを実現するためには、事業の最前線を理解し、事業部門とHRを戦略的につなぐHRBP(Human Resource Business Partner)の存在が不可欠である。

 

同社の人事改革として、①DXによる基幹業務の徹底的な効率化、②戦略人事業務の拡大が行われた。その結果、現在では2600名の社員数に対して8名のHRBPが在籍する。部門ごとにHR分野から専門的な支援を担う存在を配置することで、現場のニーズに即した柔軟な人事施策の展開へとつなげている。「本社主導」から「現場・部門主導」の体制となったことで、施策が最大限に活きる土壌が生まれた。

 

これが、同社の企業価値向上に貢献する「攻めの人事」を実現する重要な要素だ。現場の実態を熟知した人事メンバーが、トップと同じ経営視点で各部門に伴走することで、人事施策は単なる管理ツールではなく、事業成長の強力な推進力となった。

 

日本オラクルの人事領域の改革
日本オラクルの人事領域の改革
※講義資料より引用

 

自律自走型の社員と組織の実現

 

社内公募制度の活性化や評価制度を人的資本強化に活用

 

人的資本経営の核心は、「人を資産とみなし、その価値をどう上げるか」にある。これを実現するため、日本オラクルは「キャリアのボールは社員にある」という考え方を徹底し、社員が自律的にキャリアを形成する文化の醸成に取り組んでいる。社長主導で実施された社内公募制度「Advantage YOU」は、その代表的な例だ。当初は反発もあったものの、「手を変え品を変え」やり切った結果、社員が自ら機会を掴みにいく風土が定着し、定着率の向上にもつながった。

 

また、パフォーマンスとポテンシャルを評価する「タレントレビュー」を導入し、その評価結果を「ビジネス成長のための武器」として活用するタレントレビューボードを経営層が主導するなど、社員と組織が自律的に動き、成果につなげる仕組みを構築している。

 

「自律自走型の社員と組織」を実現
「自律自走型の社員と組織」を実現
※講義資料より引用

PROFILE
著者画像
宮之原 隆 氏
日本オラクル株式会社 執行役員 人事本部 ビジネスHR部