「統率型組織」から「自律型組織」へ変革
1958年創業のカインズは、日本型のホームセンターという業態を立ち上げた先駆者である。2007年にはオリジナル商品の開発へとかじを切り、2018年にはIT小売業に注力するなど、ホームセンターの枠にとらわれないさまざまな挑戦を、40年以上にわたり続けてきた。
同社は2019年を「第3創業期」と位置付け、新たなブランドコンセプト「くらしDIY」を設定。併せて3カ年の中期経営計画「PROJECT KINDNESS」を策定するなど、自社の変革を推進してきた。
PROJECT KINDNESSは、「SBU(ストラテジック・ビジネス・ユニット)戦略」「デジタル戦略」「空間戦略」と、それを支える「メンバーへのkindness」という4つの柱で構成されている。人事分野としては、4つ目のメンバーへのkindnessの推進がメインテーマであり、その実現のため2021年9月に策定されたのが、新たな人事戦略「DIY HR®︎」である。
本部に権限を集めて店舗はオペレーションに専念する「チェーンストア理論」に基づいて事業を拡大してきた同社は、仕入れの一括化を実現するための商品構成や店舗デザイン、サービスの標準化を進め、多店舗展開を実現してきた。
しかし、デフレ経済の長期化やECサイトの発展といった外部環境の変化で消費者の行動は変容し、顧客ニーズが多様化した。世の中が急速に変化し、先が見えない時代であるからこそ、現場が自分の頭で考えて行動する「自律的な組織」へと変革する必要がある。
そこで同社は、メンバーの心理的な安全性の担保に努めながら個を尊重し、個の行動変容を促し、個の力を最大限に生かすことで、「統率型組織」から「自律型組織」への変革を目指した。DIY HR®はそうした背景から生まれた人事戦略である。
コアバリューである「DIY」を組織文化にも浸透
ブランドコンセプトである「くらしDIY」の根底にあるのは、カインズならではのライフスタイルの提案である。「人々の暮らしを良くするために自分で創意工夫すること全てがDIYである」と考え、DIYという言葉の解釈を広げ、「くらしDIY」を文化として根付かせていくことを使命としている。DIY HR®は、その思想を組織文化へも浸透させ、正社員だけでなく、店舗で働くパート・アルバイトを含めたメンバーの個の力を引き出し、組織パフォーマンスを最大化することを目指す。
DIY HR®は、「DIY Career Path®」「DIY Learning®」「DIY Communication®」「DIY Workstyle®」「DIY Well-being®」という5つの柱で構成され、その柱をベースに幅広い人事施策を展開している。
DIY Career Path®の基本コンセプトは、「自らのキャリアは自らで創る」である。同社には140種類以上の職種があるため、社員自ら楽しみながら“キャリアをDIY”していく取り組みだ。興味のある職種を短期間体験できる「社内インターン制度」や、社内公募制度を導入。意図せず経験した職種から潜在的な能力が引き出されることもあるため、従来型の会社主導の人事異動と、メンバーの意思による社内公募による人事異動を実施している。
DIY Learning®は、キャリアパス実現のための自主的な学びをサポートしている。社会人としての行動規範や基礎知識、職種別の専門スキル・キャリアを築くための学びを実現するプラットフォーム「CAINZ(カインズ)アカデミア」を設立。また、リベラルアーツを学べるプログラム「カインズ白熱教室」や、e-ラーニングの学び放題も導入し、自己実現や自分の可能性を見つけ出すために不可欠な学習を後押ししている。
DIY Communication®は、1対1のミーティングをベースにメンバーに寄り添い、自己理解をサポートする取り組みである。「アクティブリスニング(相手の感情や考えを理解して主体的に内容を把握するコミュニケーション)研修」や、同社のメンバーであれば、誰でも、どこでもスマホアプリで聴くことができる社内ラジオ「らららジオ」の配信など、メンバー間の相互理解や交流を深める取り組みを実施している。
DIY Workstyle®は、メンバーのライフイベントや希望に合わせて、自身が働く場所や時間を選択できる取り組みだ。同社は、「リージョナル社員」や「エリア社員」といった勤務地選択制度を設けているが、メンバー全員の要望に応えるには限界がある。社内副業制度や兼業制度を導入してメンバーの可能性が広がるように、より柔軟な働き方を整備、推奨している。その先に目指すのは、自分の意思で選択できる働き方であり、一人一人のメンバーの意思が尊重され、主体性が発揮できる組織である。
DIY Well-being®は、メンバーが安心して楽しく働くことができる環境を整備している。産業保健体制を充実させることで心理的安全性を高め、メンバーが長く生き生きと働けるように育児や介護に配慮した制度の拡充も進めている。メンバーの自律心を尊重し、多様な個の力を組織の力に変えていくことを目指す同社にとって、D&Iの実現は重要課題である。年齢・性別・人種などに関係なく、誰もが働きやすい環境を整えることを企業の重要戦略と位置付けて取り組んでいる。
同社のプレスリリース(2022年8月)によると、DIY HR®の展開から約半年間で、キャリアを自律的に考える割合は8割に向上、自律的な学びを促す公募型研修の受講時間は6500時間を超え、正社員のeNPS(「職場の推奨度」を数値化したもの)が4ポイント改善するなどの成果が生まれているという。自律型組織への変革の土台が構築されつつある。また、日本の人事部が運営する、人・組織に関する取り組みを対象にした表彰制度「HRアワード2022」(「HRアワード」運営委員会主催、厚生労働省後援)において、「企業人事部門最優秀賞」を受賞している。
個人の自己実現と会社・社会への貢献を両立させる人事戦略として注目されるDIY HR®は、メンバーが自ら考え行動することで、生活や社会をより良くするイノベーションを生み出している。激変する社会で人事制度改革に挑むカインズは、「個」が輝き、「個」に選ばれる企業を目指し、人と真摯に向き合い続ける。
(株)カインズ
- 所在地 : 埼玉県本庄市早稲田の杜1-2-1
- 創業 : 1958年
- 代表者 : 代表取締役社長 CEO 高家 正行
- 売上高 : 5423億円(2024年2月期)
- 従業員数 : 1万3651名(2024年2月現在)